利尿剤の使い分け

各利尿剤の特徴と使い分け

利尿剤の種類

サイアザイド系
・ヒドロクロロチアジド(ヒドロクロロチアジド)
・トリクロルメチアジド(フルイトラン)
・インダパミド(ナトリックス)

ループ利尿薬
・フロセミド(ラシックス)
・アゾセミド(ダイアート)
・トラゼミド(ルプラック)

K保持性利尿薬
・スピロノラクトン(アルダクトンA)
・エプレレノン(セララ)
・エサキセレノン(ミネブロ)

バソプレシンV2受容体拮抗薬
・サムスカ(トルバプタン)

作用機序



・サイアザイド系
近位尿細管で分泌され、遠位尿細管の管腔側にあるNa-Cl共輸送(再吸収)を阻害し、Na及びそれに伴う水の排泄を促進する。

・ループ利尿薬
主にヘンレ上行脚のNa-K-Cl共輸送(再吸収)を阻害し、Na及びそれに伴う水の排泄を促進する。

・K保持性利尿薬
遠位尿細管・集合管のアルドステロン依存性Na-K交感系においてアルドステロンと拮抗することで、Na及びそれに伴う水の排泄を促進し、K取り込みを促進する。

・バソプレシンV2受容体拮抗薬
集合管において、バソプレシン(抗利尿ホルモン)がV2受容体に結合するとアクアポリン-2が発現し、体内への水の再吸収を促進する。
サムスカはV2受容体においてバソプレシンと拮抗することで水の再吸収を抑制する。


利尿作用・降圧作用

利尿:V2受容体拮抗薬 > ループ > サイアザイド系 > K保持性
降圧:サイアザイド系 > K保持性 > ループ 


各薬剤の特徴は以下の通り。

サイアザイド系

共通

・長期投与で代謝(血糖、尿酸、脂質)に影響するため、少量を使用。
・降圧目的で使用する場合、用量は利尿目的の場合より低用量。
腎機能障害(SCr2以上 or eGFR30未満)があると効果減弱及び腎障害悪化がみられる場合があるため使用は推奨されない※4
・ループ利尿薬の作用増強効果あり。この場合投与量はヒドロクロチアジドでCcr>50 mL/分では25-50mg/日に対しCcr<20では100-200mg/日<20 b="" mg="" ml="" span="">※7,8
→CKDでもループ利尿薬と併用することで腎機能低下リスクはそこまで大きくならない。
・高血圧患者の心不全予防に関するエビデンスレベルA※7


ヒドロクロロチアジド(ヒドロクロロチアジド)

・最大容量100㎎だが増量しても効果は上がらず副作用発現率が高くなるため、25㎎程度で使用される。
・配合剤のほとんどに使われている。


トリクロルメチアジド(フルイトラン)

・ヒドロクロロチアジド同様の理由で、最大容量は8㎎だが2~4㎎で使用される。
1日1回投与で24時間降圧作用が持続する。(利尿作用は6-7時間)※1

インダパミド(ナトリックス)

・サイアザイド系類似薬(非サイアザイド系)
・適応は高血圧のみ。(浮腫になし)
1日1回投与で24時間降圧作用が持続する。※2
・代謝系への影響が上記2剤より少ない(カリウム排泄軽度※2)。ただし、変わりないとのデータもある(下記参照)
・利尿作用は上記2剤より弱いと言われている。


循環器トライアルデータベースで解説されていた下記論文によると、代謝異常については差がなかったとされている。※3

利尿剤を直接比較したRCTのメタ解析

降圧作用:ナトリックス>ヒドロクロロチアジド
代謝への影響:ナトリックス≒ヒドロクロロチアジド

そもそも、降圧効果,持続時間,心血管イベント発症抑制作用に関しては,サイアザイド類似薬の方がサイアザイド系利尿薬よりも優れていることが示されているとのことです。

(しかしエビデンスが豊富なわけではない)



ループ利尿薬

共通

・ループ利尿薬はサイアザイド系と違い、糸球体濾過量・腎血流量を減らさないため、腎機能障害があっても使える。
・サイアザイド系より利尿作用は強いが降圧作用は弱い。
・サイアザイド系より代謝異常を起こさない。
・心不全患者のうっ血症状を緩和、入院率減少。生命予後については改善なし、
悪化等の報告もある。(うっ血による症状を伴う心不全には推奨レベルI)

フロセミド(ラシックス)

・利尿作用は他2剤より強く、降圧作用は弱い
持続時間は6時間と最短。※4
・高血圧に適応あり。
腎血流量,糸球体濾過値を上昇させる作用を持ち腎障害(GFR20以下)でも利尿効果が期待できる。
腎障害、透析(腎機能残存)患者に高用量(80㎎~1000㎎)で使う。
・透析で除去されない。
・バイオアベイラビリティに個人差あり。(10%~100%)

トラセミド(ルプラック)

作用持続時間は8時間※4
抗アルドステロン作用を併せ持つ=低カリウムになりにくい。※4
・ラシックスより各種イベント発症率抑制作用が優れていたとの報告あり。※7
・高血圧に適応なし。

アゾセミド(ダイアート)

作用持続時間は12時間と最長。※4
・高血圧に適応なし。
・うっ血性心不全による死亡率(心血管死)、心不全憎悪をラシックスより優位に低下。※7



※IFによるとルプラックはラシックスより10-30倍利尿作用があるとなっているが臨床用量ではラシックス。
(利尿作用:ラシックス20㎎≒ルプラック4~8㎎≒ダイアート30㎎)


ラシックス VS ダイアート

そもそもループ利尿薬はRAA系を亢進させてしまうため、長期的に見ると心不全患者の予後を悪化させることが報告されている。※7(以前の記事:心不全治療の使い分け 利尿剤の項目参照)

RAA系の亢進は急激な体液量減量、血圧低下に伴って起こるため、短時間作用のラシックスと長時間作用のダイアートではラシックスのほうが不良と考えらえている。※5,7




K保持性利尿薬

共通

・抗アルドステロン作用による心、腎の線維化抑制(臓器保護)が期待できる。
・利尿作用は弱い。
・降圧作用はループ利尿薬より強い。
・高K患者、カリウム製剤投与中には禁忌
・他剤と異なりカリウム排泄を抑制する。
・LVEF<35%で心不全症状を伴う患者には積極的使用が推奨されている。※7

スピロノラクトン(アルダクトンA)

・作用発現までに2~4日かかる。※4
・アンドロゲン受容体を阻害(=女性化)してしまう。(女性化乳房発現率10%)
透析で除去される。
重度腎障害に禁忌とはされていない

エプレレノン(セララ)

・作用発現は2週間以内。※4
正常人では利尿作用はほぼなし※4
・選択的に抗アルドステロン作用を示し、アンドロゲン受容体阻害作用はアルダクトンの1/10となっており女性化作用はない。※6
・慢性心不全に対して適応獲得。
・併用禁忌、注意が多い。
・適応により重度(eGFR<30)、中度(eGFR<50)腎機能障害に禁忌
透析で除去されない


エサキセレノン(ミネブロ)

・H31.1.19承認
・第3相臨床試験にてセララと非劣勢
・禁忌は重度腎機能障害、高カリウム患者等セララ、スピロノラクトンと共通部分が多い。

バソプレシンV2受容体阻害薬

トルバプタン(サムスカ)

電解質の排泄を伴わないため低Na,低K状態でも追加可能。
・作用発現時間は2時間。※4
・適応は他剤でも利尿効果が不十分な場合のみ。
・ループ利尿薬より強力な利尿作用を示す。
・現時点では長期予後改善作用が示されていない。(EVEREST試験)※7
原則入院下で投与開始※6


※1 フルイトランインタビューフォーム
※2 ナトリックスインタビューフォーム
※3 Roush GC et al: Head-to-head comparisons of hydrochlorothiazide with indapamide and chlorthalidone: antihypertensive and metabolic effects. Hypertension. 2015; 65: 1041
※4 今日の治療薬 循環器系に作用する薬剤
※5 (Japanese Multicenter Evaluation of LOng-versus short-acting Diuretics In Congestive heart failureJ-MELODIC
※6 サムスカ添付文書
※7 急性・慢性心不全ガイドライン
※8 https://www.jinzou.net/01/pro/sentan/vol_32/ch02.html 

 2017年2月22日

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