ACE阻害薬の特徴と使い分け
・カプトプリル(カプトリル)
・エナラプリル(レニベース)
・アラセプリル(セタプリル)
・デラプリル(アデカット)
・シラザプリル(インヒベース)
・リシノプリル(ロンゲス、ゼストリル)
・イミダプリル(タナトリル)
・テモカプリル(エースコール)
・キナプリル(コナン)
・トランドプリル(オドリック、プレラン)
・ペリンドプリル(コバシル)
※赤字薬剤で処方の9割以上を占める。
作用機序
ACE阻害薬はアンギオテンシンⅠをⅡに変換するアンギオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する。
これによりアンギオテンシンⅡが産生されなくなり、AT1受容体が刺激されなくなる。
ACE阻害薬は同時にブラジキニンを分解するキニナーゼを阻害してしまう。
これにより空咳が起こりやすくなる。
各薬剤の特徴は以下の通り。(処方上位9割を占める4剤のみ)
概要
エナラプリル(レニベース)
・慢性心不全に適応あり。
・最大投与量は10㎎(適宜増減)。T1/2≒14h(活性代謝物)
・高血圧のみ生後1ヵ月以上の小児に適応あり(0.08㎎/kg)
・空咳:2%(朝方にでることが多い)
・プロドラッグで代謝物が薬理作用を持つ。
・腎排泄型
・透析除去率:35%(エナラプリル)、66%(活性代謝物)
・長時間作用型で初期に発売された薬剤のため臨床成績豊富。
イミダプリル(タナトリル)
・1型糖尿病性腎症に適応あり。
・最大投与量は10㎎(糖尿病性腎症は5㎎)。T1/2≒8h(活性代謝物)
・空咳:4.8%
・プロドラッグで代謝物が薬理作用を持つ。
・腎排泄型
・透析除去率:50-60%(活性代謝物)
・降圧作用は弱め?(エビデンス不明)
・降圧作用は弱め?(エビデンス不明)
テモカプリル(エースコール)
・最大投与量は4㎎。T1/2≒22h(活性代謝物)
・空咳:6.2%
・プロドラッグで代謝物が活性を持つ。
・肝・腎排泄型(胆汁:40%、尿中:40%)
・透析除去率:あまり除去されない。
・空咳:6.2%
・プロドラッグで代謝物が活性を持つ。
・肝・腎排泄型(胆汁:40%、尿中:40%)
・透析除去率:あまり除去されない。
ペリンドプリル(コバシル)
・適応は高血圧のみ。
・最大投与量は8㎎。T1/2≒57h(活性代謝物)
・空咳:8.3%
・プロドラッグで代謝物が活性を持つ。
・腎排泄型
・透析除去率:除去される。(値不明)
・最も半減期が長く、安定した降圧作用を示す。(T/P≒100%)
尿中排泄率と代謝型
ACE阻害薬は基本的に腎代謝型だが、一部混合型。
エナラプリル(レニベース)
→代謝物(ジアシド体)は活性あり。上記は経口投与のデータであり、吸収率60%のため、実際はもっと腎排泄率が高くなる。20㎎で吸収率60%だと、体内へは12㎎、排泄が20㎎の57%≒11.4㎎とすると、ほぼ腎排泄であり腎排泄型。
イミダプリル(タナトリル)
イミダプリル 10mg を単回経口投与した場合,投与後24時間までの尿中総排泄率は投与量の25.5%である。※3→プロドラッグであり、活性代謝物がイミダプリラート。
エナラプリル同様上記は経口のデータ。吸収率は25%以上との記載より、10㎎投与では2.5㎎吸収、10㎎の排泄率25.5%は2.5㎎と考えるとほぼ100%腎排泄となる。
また、イヌにおける静脈内投与では約70%が尿中排泄との報告より、腎排泄型。
テモカプリル(エースコール)
テモカプリル塩酸塩をそれぞれ 0.5mg、1.0mg、2.0mg 朝食後単回経口投与したとき、投与後48時間までに尿中にはテモカプリラートが 18~24%排泄され、ほぼ定常状態であ った。糞中排泄については、テモカプリラートのみ検出され、投与後48時間までのため、排泄率は 36~ 44%にとどまった。 ※4→テモカプリルはプロドラッグであり、活性代謝物がテモカプリラート。
経口投与のデータであり、バイオアベイラビリティが不明なため、正確な値は不明だが、活性体の糞便排泄が36~44%、腎排泄が18~24%であり、胆汁・腎排泄型とされている。
ペリンドプリル(コバシル)
健康成人にペリンドプリル2mg、4mg、8mg、12mgを単回経口投与した時、投与後24時間
までに投与量の21~26%が未変化体、3~10%が活性代謝物、12~14%が活性代謝物のグルクロン酸抱合体(PTG)として尿中に排泄された。※5
→プロドラッグであり、活性代謝物はペリンドプリラート。
バイオアベイラビリティは約94%であり、未変化体からペリンドプリラートへの生体内 変換率は投与量の約23%とのデータがあるので、これを基に計算すると、4㎎×0.94×0.23=0.85㎎が活性代謝物となって体内に存在していると考えられる。総投与量4㎎の3-10%=0.12-0.4mgなので、腎排泄率は14-50%くらいと計算できる。
腎排泄とはなっているが、他と比べるとやや寄与は少ないように思える。
→プロドラッグであり、活性代謝物はペリンドプリラート。
バイオアベイラビリティは約94%であり、未変化体からペリンドプリラートへの生体内 変換率は投与量の約23%とのデータがあるので、これを基に計算すると、4㎎×0.94×0.23=0.85㎎が活性代謝物となって体内に存在していると考えられる。総投与量4㎎の3-10%=0.12-0.4mgなので、腎排泄率は14-50%くらいと計算できる。
腎排泄とはなっているが、他と比べるとやや寄与は少ないように思える。
降圧作用の強さ
エナラプリル(レニベース)
重症高血圧症患者に 122 例本剤とカプトプリルを投与し、降圧効果と安全性を比較検討した。観
察期間は降圧利尿薬とその他の降圧薬(交感神経抑制薬、β 遮断薬)との併用により2~4週間投与し、その後本剤 2.5~20mg/日或いはカプトプリル37.5~150mg/日の何れかを4~8週間投与し
た。本剤2.5~5mgに対しカプトプリル37.5mg、本剤10mgに対しカプトプリル75mg、本剤20mg
に対しカプトプリル150mgが対応すると推察される。本剤は、カプトプリルと比較して降圧効果、
安全性はほぼ同等であった※2
→重症高血圧に対しては、エナラプリル2.5㎎~5㎎≒カプトプリル37.5㎎、エナラプリル10㎎≒カプトプリル75㎎
→重症高血圧に対しては、エナラプリル2.5㎎~5㎎≒カプトプリル37.5㎎、エナラプリル10㎎≒カプトプリル75㎎
イミダプリル(タナトリル)
本態性高血圧症に対してイミダプリル5mg及びエナラプリル5mgを初期投与量とし,治療期間を12 週間として,降圧目標が達せられない場合はイミダプリル10mg 及びエナラプリル 10mgまで増量することで二重盲検比較試験を実施した結果,本剤の有効性が認められた。※3
→イミダプリル5㎎≒エナラプリル5㎎
→イミダプリル5㎎≒エナラプリル5㎎
テモカプリル(エースコール)
軽症・中等症本態性高血圧症患者を対象に、本剤1日1回 1~4mg12週間投与の降圧効果、安全性及び有用性をエナラプリル(1日1回5~20mg)を対照薬として二重盲検比較試験により検討した結果、本剤の安全性及び有用性が認められた※4
→テモカプリル1~4㎎≒エナラプリル5~20㎎ (用量の変更方法不明)
→ペリンドプリル2㎎>エナラプリル5㎎
→テモカプリル1~4㎎≒エナラプリル5~20㎎ (用量の変更方法不明)
ペリンドプリル(コバシル)
第III相試験としては,軽・中等症の本態性高血圧症患者245例(本薬122例,対照薬123例)を対象に,マレイン酸エナラプリルを対照薬とし,漸増法で本薬2,4,8 mg,対照薬5,10,20mgをそれぞれ1日1回(朝食後)12 週間投与による二重盲検比較試験が行なわれた。その結果,降圧率(判定不能を含む)は本薬群で69.5%(82/118),対照薬群では55.6%(65/117)であり,本薬がマレイン酸エナラプリルに比べ有意に優れていた※6→ペリンドプリル2㎎>エナラプリル5㎎
以上を統合すると、以下のようになる。(直接比較ではないため参考)
コバシル4㎎>レニベース5㎎≒タナトリル5㎎≒エースコール1㎎(?)
ACEI全般の話としては、日本における用量だとARBにやや劣るとの報告。※1
空咳の副作用
就寝前投与、Ca拮抗薬や利尿剤との併用により多少軽減されるとの報告あり。
空咳は初期(1週間~数か月)に発現するが、2~3ヵ月の継続により8割程度の患者で消失する。
投与中止によっても速やかに消失する。
空咳は初期(1週間~数か月)に発現するが、2~3ヵ月の継続により8割程度の患者で消失する。
投与中止によっても速やかに消失する。
腎障害に対する投与
各ガイドラインの推奨状況
高血圧ガイドライン
Ca拮抗薬,ARB,少量利尿薬と並んでACE阻害薬は第一選択薬。
積極的利用:左室拡大、心不全、心筋梗塞後、CKD、脳血管障害慢性期、糖尿病、誤嚥性肺炎
慢性心不全ガイドライン
ACE阻害薬は禁忌がない場合のすべての患者に投与推奨。
ARBは第2選択。
心筋梗塞二次予防に関するガイドライン
ACEIは、心不全+心筋梗塞、心筋梗塞後+心機能低下、心筋梗塞後+心機能低下ないが高血圧or糖尿病or心血管リスクありの人では推奨クラスⅠ
推奨クラスⅠ
1.左心機能低下(左室駆出率が40%未満)や心不全を有するリスクの高い急性心筋梗塞患者に対する発症24時間以内の投与. (エビデンス A)
2.心筋梗塞後の左心機能低下例に対する投与. (エビデンス A)
3.左心機能低下はないが,高血圧や糖尿病の合併, あるいは心血管事故の発生リスクが中等度から高度である心筋梗塞患者への投与.(エビデンス A)
※ARBはACEIに不耐例に対してとの記載。
2.心筋梗塞後の左心機能低下例に対する投与. (エビデンス A)
3.左心機能低下はないが,高血圧や糖尿病の合併, あるいは心血管事故の発生リスクが中等度から高度である心筋梗塞患者への投与.(エビデンス A)
※ARBはACEIに不耐例に対してとの記載。
その他メモ
抗動脈硬化作用、タンパク尿減少作用、心肥大改善などの臓器保護作用はARBよりエビデンス豊富。※1
薬価的に海外ではARBより先に使用推奨されている。(日本ではARBと同等で高血圧の第一選択薬)
妊婦に禁忌。
※1 高血圧治療ガイドライン2014
※2 レニベースインタビューフォーム
※3 タナトリルインタビューフォーム
※4 エースコールインタビューフォーム
※5 コバシルインタビューフォーム
※6 コバシル審査報告書