SGLT2阻害薬の比較

SGLT2阻害薬の代謝・副作用の違い 足切断リスク増加について

現在使用されているSGLT2阻害薬は6成分(製品数7)。

どの薬剤も発売から2-3年が経過し、使用成績もある程度蓄積されてきている。

今回は基本的な薬剤の特徴や使用成績から各SGLT2阻害薬を比較してみた。

SGLT2阻害薬の作用機序

グルコースは通常近位尿細管にてほぼ100%再吸収される。

この再吸収に関わっているのがナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT1、SGLT2)というトランスポーターである。

SGLTは近位尿細管にあり、糸球体に近いほうからSGLT2→SGLT1と存在している。

このため、最初にグルコース再吸収に関わるのはSGLT2であり、ここで90%以上が再吸収される。

2型糖尿病患者では健常人と比べ、SGLT2の発現が増加しており、グルコース再吸収が亢進している。

SGLT2阻害薬はその名の通りSGLT2のほうを阻害することにより、グルコース再吸収を抑え、尿からの排泄を増加させる。

現在は発売している薬剤は以下の6成分。

スーグラ(イプラグリフロジン)
フォシーガ(ダパグリフロジン)
ルセフィ(フセオグリフロジン)
デベルザ、アプルウェイ(トホグリフロジン)
カナグル(カナグリフロジン)
ジャディアンス(エンパグリフロジン)

基本情報

スーグラ(イプラグリフロジン)

発売:20144.17
用法:11回 朝食前or食後 150㎎ MAX100
適応:1型,2型糖尿病
代謝:グルクロン酸抱合(UGT2B7)

フォシーガ(ダバグリフロジン)

発売:20155.23
用法:11回 いつでもOK 15㎎ MAX10
適応:1型,2型糖尿病、慢性心不全(標準治療を受けている患者)、慢性腎不全(末期、透析除く)
代謝:グルクロン酸抱合(UGT1A9)
※2020年11月慢性心不全(標準治療を受けている患者)の適応追加

ルセフィ(ルセオグリフロジン) 

発売:20155.23
用法:11回 朝食前or食後 12.5㎎ MAX5
適応:2型糖尿病
代謝:グルクロン酸抱合・CYP

デベルザ、アプルウェイ(トホグリフロジン) 

発売:20155.23
用法:11回 朝食前or食後 120
適応:2型糖尿病
代謝:CYP

カナグル(カナグリフロジン)

発売:20155.23
用法:11回 朝食前or食後 1100
適応:2型糖尿病 (2021年8月に慢性腎不全の適応追加申請)
代謝:グルクロン酸抱合(UGT1A9,2B4)
薬価:205.5/20mg

ジャディアンス(エンパグリフロジン)

発売:20152.24
用法:11回 朝食前or食後 110㎎ MAX25
適応:2型糖尿病、慢性心不全(標準治療を受けている患者)
代謝:グルクロン酸抱合
薬価:208.4/100mg



用法

フォシーガ以外は全て朝投与となっている。

これはSGLT2の性質上トイレが近くなる可能性があり、夕投与にしてしまうと夜間頻尿が問題となるため。(臨床試験の段階で朝に設定)

よって特別な理由がなければフォシーガも朝投与のほうが良いと思われる。

仕事の関係で昼夜逆転している人の場合、朝にとらわれず生活スタイルに合わせた服用時点を考慮。



用量

デベルザ/アプルウェイ、カナグルの2成分は増量不可
その他は効果不十分の場合に増量可能。

ジャディアンス増量の際は10㎎→20㎎ではなく、10㎎→25㎎への増量となっている。
ジャディアンス以外は2倍量への増量となる。

代謝

SGLT2阻害薬の代謝はグルクロン酸抱合、CYP,混合型の3つに分類される。

デベルザ/アプルウェイ:CYP代謝
ルセフィ:CYP・グルクロン酸抱合混合型
スーグラ、フォシーガ、カナグル、ジャディアンス:グルクロン酸抱合

グルクロン酸抱合で代謝される4剤(スーグラ、フォシーガ、カナグル、ジャディアンス)はUGT阻害作用が弱く、相互作用は問題にならない。

デベルザ/アプルウェイはCYP2C18、CYP4A11、CYP4F3Bで代謝されるが、主要なCYP3A4、CYP1A2等は阻害しないため、CYPが関わる相互作用はない。

ルセフィはCYP2C19に対して弱い阻害作用があるが現時点で問題となる相互作用はない。


副作用

以下は市販直後調査をもとに副作用を比較。
シェアが違うため、報告件数自体が大きく異なるため注意。

スーグラ

対象施設は26067施設。人数は不明だがこの当時SGLT2阻害薬はスーグラしかなかったため、他剤と比べると報告件数が多い。

報告された副作用4095件中、皮膚障害1035件(25%)頻尿・夜間頻尿413件(10%)、尿路感染96件(2.4%) ※以下全て括弧内は全副作用報告数に占める割合

このとき他のSGLT2阻害薬は発売していなかったため、使用用が多く、報告件数は多くなっている。

当初から懸念されていた脱水(体液量減少を含む)は137件(3.3%)。うち約半数は重篤とされており注意が必要。

その他低血糖304件(7.4%)、このうち重篤とされたのは20件、80%はインスリン製剤の併用あり。

フォシーガ

対象施設は21335施設。報告された副作用が588件。(推定使用人数35000人)

こちらも皮膚症状が114件と全体の19%を占めていた。

その他頻尿・夜間頻尿37件(6.3%)、脱水31件(5.2%)重篤6件、尿路感染11件(1.9%)、低血糖48件(8.2%)となっている。

ルセフィ

対象施設・人数は不明。報告された副作用は404件。

うち、皮膚症状86件(21%)、頻尿・夜間頻尿63件(16%)、脱水13件(3.2%)、尿路感染10件(2.4%)、低血糖26件(6.4%)となっている。

低血糖のうち、併用薬なしでも6件の報告があった。

デベルザ/アプルウェイ

対象施設・人数は不明。報告された副作用は438件。

うち、皮膚症状76件(17%)、頻尿・夜間頻尿25件(5.7%)、脱水17件(3.9%)、尿路感染11件(2.5%)、低血糖22件(5.0%)となっている。

カナグル

対象施設・人数は不明。報告された副作用は141件。

うち、皮膚症状44件(31%)、頻尿・夜間頻尿13件(9.2%)、脱水2件(1.4%)、尿路感染2件(1.4%)、低血糖5件(3.5%)となっている。

件数が少ないため、2014-2017までの副作用報告についても見てみると、報告数1560件中、皮膚症状245件(16%)、尿路感染48件(3.1%)、頻尿・夜間頻尿118件(7.6%)、脱水34件(2.2%)、低血糖30件(1.9%)となっている。

2017.5月FDAより警告あり。
プラセボと比較し、カナグル服用群で足切断患者が1.5~2倍に増加した。(CANVAS試験、CANVAS-R試験)

ただし、この試験ではカナグル服用群のほうが高血糖が原因の合併症が多かったりバイアスがあったという意見もある。

ジャディアンス

対象施設・人数は不明。報告された副作用は168件。

うち、皮膚症状24件(14%)、頻尿・夜間頻尿13件(7.7%)、脱水3件(1.8%)、尿路感染1件(0.6%)、低血糖6件(3.5%)となっている。

こちらも件数が少ないが、販売1年後の報告数も268件と少ないため、今後の動向を要確認。


半減期

デベルザ/アプルウェイ:5.4h
ジャディアンス:9.88h
カナグル:10.2h
ルセフィ:11.2h
フォシーガ:12.1h
スーグラ:14.97h

用法は全て分1だが半減期にはかなりばらつきがある。

朝服用しても夜間頻尿に困るような患者さんでは半減期の短いデベルザ/アプルウェイが向いている

実際、デベルザ/アプルウェイとスーグラを比較したアンケート調査では、夜間トイレの回数がデベルザ/アプルウェイで有意に少なかったそうです。


SGLT2選択性

上記で述べたようにグルコース再吸収の90%はSGLT2が関与しているが、SGLT1は小腸での糖吸収に関与している。

このためSGLT1阻害作用を持っていると食事からの糖吸収抑制作用が期待できる。

その一方で水分の吸収にも関わっているためSGLT1阻害が強いと脱水になりやすくなる可能性があると考えられている。

SGLT2選択性は以下の通り。(SGLT2のSGLT1に対する選択性)

ジャディアンス:4829倍
デベルザ/アプルウェイ:2100倍
フォシーガ:1473倍
ルセフィ:1283倍
スーグラ:254倍
カナグル:158倍


心血管イベント抑制・腎障害抑制のエビデンス

SGLT2は心血管イベント抑制、腎保護作用が報告されている。

主な大規模臨床試験は以下の通り

カナグル:CANVAS program

CANVAS programは、CANVAS試験とCANVAS-Rの統合解析
 
対象心疾患リスクの高い糖尿病※、eGFR≧30
主要評価:複合アウトカム(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)
結果26.9 vs 31.5例/1000人年、ハザード比0.86(95%CI 0.75-0.97、非劣性:p<0.001,優越性:p=0.02)
安全性切断リスクが増大(6.3 vs 3.4例/1000人年、ハザード比1.97(95%CI 1.41-2.75)

主要評価項目ではないが、腎保護作用も見られた。

※HbA1c:7.0~10.5%、30歳以上で症候性アテローム性心血管疾患既往、または50歳以上でCVDの危険因子(尿病罹病期間≧10年、1剤以上の降圧薬投与中でSBP>140mmHg、現喫煙、微量・顕性アルブミン尿、HDL-C<38.7mg/dL
)を2つ以上。

カナグル:CREDECE

対象アルブミン尿を有する慢性腎臓病を伴う2型糖尿病患者※
主要評価:複合アウトカム【末期腎不全(透析≧30日,腎移植,eGFR<15)、SCrの倍増(直近30日)、腎/心血管疾患による死亡】
結果:主要評価:43.2 vs 61.2/1000人年、ハザード比0.70(95%CI 0.59-0.82,p=0.00001)。複合腎アウトカム(末期腎不全、SCrの倍増m腎疾患死):ハザード比 0.66(95%CI 0.53-0.81,p<0.001)。末期腎不全:ハザード比 0.68(95%CI 0.54-0.86、p=0.002)。
安全性:足切断リスクの増加はなし

すべての患者はランダム化の前にARBまたはACEIを服用
心不全による死亡、入院も減少がみられた。

30歳以上、HbA1c 6.5~12.0%、慢性腎臓病(eGFR:30~90未満)、アルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比>300~5000 mg/g)

更新中
ジャディアンス:EMPA-REG OUTCOME
ジャディアンス:EMPA-KEDEY

フォシーガ:DECLARE-TIMI58
フォシーガ:DAPA-HF(糖尿病有無にかかわらず心不全患者対象)
フォシーガ:DAPA-CKD


CVD-REAL試験では、SGLT2阻害薬以外の血糖降下薬で治療した患者と比較して、心臓血管疾患を発症した患者では、8ヵ月後に心不全による死亡率が31%低下した。(心血管疾患を発症していない患者でも全死因死亡率は45%低下)

カナグル、ジャディアンスの臨床試験をまとめた記事はこちら



SGLT2阻害薬による足切断リスク増加作用について

CANVAS試験で、カナグリフロジン(カナグル)投与群の下肢切断リスクがプラセボより優位に高くなった。ハザード比1.97(95%信頼区間1.41-2.75)

これに関してはカナグル群のほうが重症患者が多かったなどの憶測でていたが、2018年11月にスウェーデン、デンマークのリアルワールドデータを用いたコホート研究によっても、カナグルに限らずSGLT2のGLP-1製剤に対する足切断のリスク増加が示されてしまった。

患者背景をマッチングさせ、SGLT2投与群とGLP-1投与群(各17000名程度)に分けて解析したところ、切断発症率(1000人年)は、SGLT2群2.7人とGLP-1群1.1人で、ハザード比2.32、95%CI:1.37-3.91となった。
糖尿病ケトアシドーシス発症率は、SGLT2群1.3人とGLP-1群0.6人で、ハザード比2.14、95%CI:1.01-4.52となっている。
(尿路感染や血栓のリスクは差なし。)

使用されたSGLT2はダパグリフロジン(フォシーガ)61%、エンパグリフロジン(ジャディアンス)38%、カナグリフロジン(カナグル)1%となっている。


この結果より、SGLT2はGLP-1製剤と比較し、足切断リスクが高いと判断されている。

GLP-1製剤にSGLT2より足切断リスク抑制作用が強いという判断はできないのでしょうか・・・


 2017年3月30日

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