心不全治療薬の選択とエビデンス

慢性心不全の治療薬とエビデンス ガイドラインより
慢性心不全とは心臓が障害(心筋梗塞・心肥大など)されたり、不整脈により、十分量の血液(酸素)をおこくることができなくなった状態であり様々な症状が見られます。

心不全時にみられる主な症状は以下の通り。

初期:無症状または労作時呼吸困難
進行:発作性呼吸困難、起坐呼吸、浮腫、四肢冷感、乏尿、倦怠感、頭痛


心不全ではレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAA系)が亢進しており、RAA系亢進は心臓のリモデリングへの関与が指摘されています。
また、アルドステロンは交感神経の亢進、ナトリウム貯留を起こします。

ナトリウム利尿ペプチドにはANP、BNP、CNPがあり、ANPは心房の伸展刺激、BNPは心室への負荷で分泌が亢進します
心不全は左室収縮障害が大きく影響しているためANPよりBNPの上昇が心不全の補助診断には有用とされています。

BNPの値と心不全の診断



心不全治療薬一覧


心不全で主に用いられるステージ別の薬剤は以下の通り。

NYHA分類は息切れを基準に大まかに以下のように分けられる。

Ⅰ:通常の身体活動では息切れを生じない
Ⅱ:通常の身体活動で息切れを生じる(2階まであがれるが息切れする)
Ⅲ:通常の身体活動以下で息切れを生じる(家の中の日常生活で息切れ)
Ⅳ:安静時に呼吸困難がみられる。


受診が必要なレベル
・体重が1週間で2~3㎏増える
・足のむくみ、息切れがでてくる。
・息苦しくて横になれない(夜間発作性呼吸困難)


ガイドラインでのエビデンスレベル

class1(常に容認)のエビデンスレベルA(メタ解析で証明)の治療は以下の通り。

ACE阻害薬:禁忌を除きすべての患者に対する使用(無症状の患者も含む)

ARB:ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与

β遮断薬:有症状の患者に対し予後の改善を目的とした導入

抗アルドステロン薬:LVEF 35%未満の有症状例には、禁忌がないかぎり全例に推奨される

→慢性期の話。急性期(症状がある)場合にはループ利尿薬等も積極的に使用される。



各薬剤のエビデンス(参考:慢性心不全治療ガイドライン2010 2013更新版)

ACE阻害薬

リシノプリルは用量による死亡率に差はないが、死亡または入院に関して高用量のほうがより効果が得られるとの報告があるため、忍容性があれば増量する。(ATLAS試験)

エナラプリルにより左心機能不全に基づく心不全患者、あるいは心筋梗塞後患者の生命予後、および種々の心血管イベントに対する効果が証明されている。(SOLVD、CONSENSUS試験)

ARB

カンデサルタンはACE阻害薬の投与されていない心不全患者に対して、プラセボと比較して心不全の進行を66.7%減少させ、また心血管イベントを抑制した。(ARCH-J試験)

※ARBがACEIより優れているとする比較試験はなし。

カンデサルタンはACE阻害薬に忍容性のない患者を対して、心血管死亡または心不全悪化による入院を有意に減少。(CHARM alternative試験)

心血管イベントについて、ARBACE阻害薬と非劣勢であった。(VALIANT)

ロサルタンカリウムとカプトプリルは死亡率に有意差はなかったが、忍容性はロサルタンであった。(ELITE)


※ARBとACE阻害薬の併用については、否定的(ValHeFT:β含めた3剤併用)な結果と、肯定的(CHARM Added)な結果があり、一定の見解がない。


β遮断薬

以下の3剤については生命予後、心不全悪化防止効果が明らかとなっている。(対象者は軽度~中度がほとんど)

・カルベジロール(US Carvedilol study)
・ビソプロロール(CIBIS)
・メトプロロール(MERIT-HF)

カルベジロールとメトプロロールの比較試験ではカルベジロールの死亡率低下が優位に低かった。(COMET)

カルベジロールは無症候の左室収縮機能低下患者においても死亡率を低下させた。(CAPRICORN)

→エビデンスが豊富なのはカルベジロール、ビソプロロール。この2剤を直接比較した大規模臨床試験はなく、優劣はつけにくい。


β遮断薬は予後改善効果が明らかであり、入院化において開始すべき薬剤となっているが、以下の場合は導入高リスク群であり、導入は慎重に。
・重症心不全(低拍出例)
・徐脈(心拍数<50では増量しない)

投与初期に心機能低下による一時的な悪化がみられる場合があるが、投与継続による有害事象発生はプラセボのほうが高い。

利尿剤

労作時呼吸困難、浮腫を改善するためには有用であるが、慢性心不全に対するループ利尿薬の投与は予後悪化因子とされている試験がある。(Eur Heart J 2006; 27: 1431-1439)

→症状改善には有用。浮腫改善後、ループ利尿薬を中止すると予後が悪くなるとの報告もある。(BMJ. 1997 Aug 23;315(7106):464-8.
うっ血がなく、BNP<100で減量、<50で中止を考慮。

各ループ利尿剤間の予後に対して効果を示す大規模臨床試験によるエビデンスはない。

ループ利尿薬による低Na,Mgにより予後悪化を示すエビデンスあり。

チアジド系の高血圧患者における心不全予防効果はあり(推奨:Ⅰ、エビデンス:A)。




抗アルドステロン(カリウム保持性利尿剤)

スピロノラクトンは重度心不全患者を対象とした試験では全死亡率を低下させた。(RALES)

→この試験後、スピロノラクトンの使用量が増えたが、その分高カリウム血症による死亡率が倍増した。使用時はカリウム値要確認

エプレレノンは急性心筋梗塞後に左心機能不全及び心不全を合併した患者の死亡および心血管イベントの発生リスクが抑 制した。(EPHESUS試験)

スピロノラクトン、ACE阻害薬、ARBの3剤併用は高カリウムによる死亡、入院を増加させるため避けるべき。(N Eng J Med 2004; 351: 543-551)

eGFR<30 mL/ 分 あるいは血清カリウム値5.0 mEq/L以上の場合には,投与 開始にあたっては慎重でなければならない

その他

Ca拮抗薬は一般的には長期使用により心不全症状を悪化するため推奨されない。血管選択性の高いCa拮抗薬はこのような有害事象は少ないとされているが長期予後改善のエビデンスなし。

ジゴキシンは心房細動を伴う心不全使用されることがあるが、予後改善のエビデンスはなし。むしろ不整脈による死亡率を増加させるとの報告あり。

ピモベンダン(経口強心剤)はプラセボと比較し、身体活動能力の改善がみられた。


 2017年2月12日

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