各PPIとP-CABの特徴 GERDへの有効性、ピロリ除菌率や発現・継続時間について
・オメプラゾール(オメプラール)
・ランソプラゾール(タケプロン)
・ラベプラゾール(パリエット)
・エソメプラゾール(ネキシウム)
・ボノプラザン(タケキャブ)※
※ボノプラザンはPPI(プロトンポンプインヒビター)とは作用機序が異なるためP-CABと呼ばれている。
PPIの作用機序
胃酸(H+)は胃細胞壁にあるポロトンポンプと呼ばれる酵素(H・K-ATPase)から分泌されます。プロトンポンプは胃酸を胃内腔に分泌し、カリウムを細胞側に取り込みます。
PPIは酸性条件で不安定なため、胃酸での分解を防ぐため全ての薬剤が腸溶性となっています。
また、作用発現には胃酸で活性化が必要であり、活性化されたPPIはプロトンポンプのSH基に不可逆的に結合することでプロトンポンプの作用を阻害しますが、酸に不安定なためすぐに分解されてしまいます。
このためPPIは最大限効果を発揮するまでに数日かかるといわれています。
P-CABの作用機序
PPIとは違い、酸による活性化が不要かつ酸に安定な薬剤で、カリウムイオンに競合する形でH・K-ATPaseを可逆的に阻害します。このためカリウムイオン競合型アシッドブロッカーと呼ばれています。
酸による分解を受けず、また活性化も不要なため作用発現が早いといわれています。
各薬剤の特徴
オメプラゾール(オメプラール)
・CYP2C19のPM、EM間で有効性の差が大きい。
・腸溶錠のため粉砕不可。
・ピロリ菌除菌率:80%程度
・胃潰瘍治癒率:92.5%
ランソプラゾール(タケプロン)
・OD錠があり、軽くなら粉砕可能
・ピロリ菌除菌率:83-90%程度
・胃潰瘍治癒率:87%
ラベプラゾール(パリエット)
・非酵素的還元反応が主な代謝経路のため他と比較するとCYP2C19の寄与が少ない。(影響は受ける)
・逆流性食道炎に対して1日2回投与の適応を獲得している。
・逆流性食道炎に対して1日2回投与の適応を獲得している。
・ピロリ菌除菌率:86-89%程度
・胃潰瘍治癒率:95.2%
エソメプラゾール(ネキシウム)
・承認時臨床試験ではオメプラゾールと同等以上とされている。
・その後の各種PPIとの比較試験ではネキシウムが同等以上との結果。
・その後の各種PPIとの比較試験ではネキシウムが同等以上との結果。
・CYP2C19のPM、EM間で有効性に差がない。
・ピロリ菌除菌率:記載なし
・胃潰瘍治癒率:記載なし
ボノプラザン(タケキャブ)
・胃酸での活性化が不要なため初日から最大効果発揮。
・ピロリ菌除菌率:92.6%
・ピロリ菌除菌率:92.6%
・胃潰瘍治癒率:93.5%
除菌率、治癒率は各先発薬剤の添付文書から。
耐性菌と感受性菌が分けられていない数字です。
以下は日本ヘリコバクター学会誌に記載されていたもの。
オメプラゾール、(エスオメプラゾール)、ランソプラゾール、ラベプラゾールにおいては有効性に大きな差はない。
※タケキャブは未発売時のデータ。
概要比較一覧
ランソプラゾール15㎎、30㎎ | ラベプラゾール10㎎,20mg | オメプラゾール10㎎、20㎎ | ネキシウム10㎎、20㎎ | タケキャブ10mg,20mg | ||||||
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胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群 |
1日1回30mg 胃潰瘍、吻合部潰瘍:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 |
1日1回10-20㎎ 胃潰瘍、吻合部潰瘍:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 |
1日1回20mg 胃潰瘍、吻合部潰瘍:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 |
1日1回20mg 胃潰瘍、吻合部潰瘍:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 |
1日1回20mg 胃潰瘍:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 ※吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群は適応なし |
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逆流性食道炎 |
〈治療〉 1日1回30㎎:8週間 〈再燃・再発の維持療法〉 1日1回15㎎ (効果不十分時:1回30㎎) |
〈治療〉 1日1回10-20mg :8週間 (効果不十分:1回10-20mgを1日2回、追加で8週間。1回20mgは重度の粘膜傷害時のみ) 〈再燃・再発の維持療法〉 1日1回10mg (効果不十分:1日2回) |
〈治療〉 1日1回20mg:8週間 〈再発・再燃の維持療法〉 1日1回10〜20mg |
〈治療〉 1日1回20mg:8週間 〈再燃・再発の維持療法〉 1回10〜20mg |
〈治療〉 1日1回20mg:4週間(最大8週) 〈再燃・再発の維持療法〉 1回10mg (効果不十分時:1回20㎎) |
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非びらん性胃食道逆流症 |
1日1回15㎎ 4週間 ※15㎎錠のみ |
1日1回10㎎ 4週間 | 1日1回10㎎ 4週間 | 1日1回10㎎ 4週間 | なし | |||||
低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制 |
1日1回15㎎ ※15㎎錠のみ |
先発のみ(1日1回5-10mg) | なし | 1日1回20㎎ | 1日1回10㎎ | |||||
非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制 |
1日1回15㎎ ※15㎎錠のみ |
なし | なし | 1日1回20㎎ | 1日1回10㎎ | |||||
ピロリ菌除菌 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
併用禁忌 | アタザナビル,リルピビリン | アタザナビル,リルピビリン | アタザナビル,リルピビリン | アタザナビル,リルピビリン | アタザナビル,リルピビリン | |||||
CYP2C19遺伝子多型の影響 | あり(EMで効果減弱)※1 | ランソプラゾール、オメプラゾールより影響は少ない※5 | あり(EMで作用減弱) | あり(オメプラゾールより影響少) | なし | |||||
相互作用 ※クロピトグレルとの相互作用についてはPPI間で差がないとする前向き研究、RCTが増えている。※1,4 |
CYP関連:テオフィリン、タクロリムス 胃酸抑制関係:ジゴキシン、ボスチニブ、ゲフィチニブ、イトラコナゾール 機序不明:メトトレキサート |
CYP関連:テオフィリン、タクロリムス 胃酸抑制関係:ゲフィチニブ、イトラコナゾール 機序不明:メトトレキサート その他:水酸化アルミニウ ムゲル・水酸化マグネシウム含有の制酸剤 |
CYP2C19関連:ジアゼパム、フェニトイン、シロスタゾール、ワーファリン、クロピトグレル、ボリコナゾール 胃酸抑制関連:ジゴキシン、イトラコナゾール、チロシンキナーゼ阻害薬 機序不明:タクロリムス、ネルフィナビル、サキナビル、メトトレキサート |
CYP2C19関連:ジアゼパム、フェニトイン、シロスタゾール、ワーファリン、クロピトグレル、ボリコナゾール 胃酸抑制関連:ジゴキシン、イトラコナゾール、チロシンキナーゼ阻害薬 機序不明:タクロリムス、ネルフィナビル、サキナビル、メトトレキサート ※オメプラゾールより影響少 |
CYP3A4関連:クラリスロマイシン等 胃酸抑制関連:ジゴキシン、イトラコナゾール、チロシンキナーゼ阻害薬、ネルフィナビル |
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臨床成績 | ー | ー | ー |
逆流性食道炎:20㎎がオメプラゾール20㎎と非劣性 逆流性食道炎(維持):20㎎がオメプラゾール10㎎より優勢 逆流性食道炎(8週間まで):前半4週間タケキャブ20㎎→後半4週間10㎎(効果不十分の場合は20㎎で継続)と、ネキシウム20㎎8週間ではネキシウム優位(n=45)※3 |
胃潰瘍:20㎎がランソプラゾール30㎎と非劣性(93.5%VS93.8%) 十二指腸潰瘍:20㎎がランソプラゾール30㎎と非劣性証明できず 逆流性食道炎(8週間):20㎎がランソプラゾール30㎎と非劣性 逆流性食道炎(維持):10㎎、20㎎ともにランソプラゾール15㎎に非劣性(再発率:5.1%VS2.0%VS16.8%)→事後分析ではタケキャブ優位 低用量アスピリン時:10㎎とランソプラゾール15㎎で非劣性(再発率:0.5%VS3.3%)→事後分析で10㎎では有意差がついたが、20㎎ではランソプラゾール15㎎と有意差なし NSAIDs投与時:10㎎とランソプラゾール15㎎で非劣性(再発率:3.8%VS7.5.%) |
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GERD:オメプラゾールとネキシウムを比較した1文献以外、びらん性GERD(逆流性食道炎)に対してPPI間で効果に差はなし(投与初期の症状改善も差はみられず)※1 PPI抵抗性GERDに対するタケキャブの有効性報告あり※2 胃潰瘍:オメプラゾールとラベプラゾールで差はなし。ランソプラゾールは他のPPIと差はなし※6 |
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参考文献 |
※1 日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015 ※2 Digestion. 2017;95(2):156-161. (n=24 単群 非ランダム) ※3 Therapeutic Research Volume 38, Issue 6, 635 - 642 (2017) (n=45 RCT) ※4 J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018 Jun;27(6):1582-1589. ※5 Eur J Clin Pharmacol. 2014 Sep;70(9):1073-8. ※6 日本消火器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン2015 ※7 中医協総会 資料 2019.6.26 ※8 昭和大学病院ホームページ 昭和大学フォーミュラリー一覧〈http://www.showa-u.ac.jp/SUH/guide/pharmacy/formulary/formularylist.html〉 |
耐性菌に対する除菌率
ボノプラザンの添付文書上ではランソプラゾールのピロリ菌除菌率が75.9%となっています。
これは近年クラリスロマイシン耐性が進んでいる影響かと思われます。
2000年以前は10%以下であった耐性菌は2010年には35%近くなっています。
このため、上記PPIの除菌率は現在ではもっと低い数字になる可能性があります。
これは近年クラリスロマイシン耐性が進んでいる影響かと思われます。
2000年以前は10%以下であった耐性菌は2010年には35%近くなっています。
このため、上記PPIの除菌率は現在ではもっと低い数字になる可能性があります。
PPIではクラリスロマイシン耐性の場合除菌率が40%前後。
タケキャブでは83%と高値。
胃内pHの日内変動
1日1回投与において胃内pHが4以上になっている時間
ランソプラゾール、ラベプラゾール、ボノプラザン:24時間※1※2※3
オメプラゾール:14時間※4
エソメプラゾール:15時間※4
ただし、胃内pHが高ければ高いほど症状が改善するかといわれるとそうではない結果が報告されている。
ラベプラゾールは24時間以上pH4以上継続した時間の割合は50%前後という報告もある。
これを1日2回投与にすると90%近くまで上昇したとのこと。※5
ラベプラゾールに限らず難治性の場合1日2回投与にすることで効果が上がる可能性があり、ガイドラインにも1日2回投与を試みるように記載がある。
ただし、胃内pHが高ければ高いほど症状が改善するかといわれるとそうではない結果が報告されている。
ラベプラゾールは24時間以上pH4以上継続した時間の割合は50%前後という報告もある。
これを1日2回投与にすると90%近くまで上昇したとのこと。※5
ラベプラゾールに限らず難治性の場合1日2回投与にすることで効果が上がる可能性があり、ガイドラインにも1日2回投与を試みるように記載がある。
臨床成績
ガイドライン上の記載※6
GERD診療ガイドラインには以下の記載がある。
"各PPI間の直接比較を行ったRCTでは、エソメプラゾールとメプラゾールを比較した1論文を除いて、PPI間で効果に有意の差はなく、びらん性GERDの初期治療について、各PPIの間で効果に有意の差はみられていない。投与早期の症状の緩解について、PPI間で差を認めるとする報告と認めないとする報告がみられ、一定の傾向はみられなかった~略~ランソプラゾール8週間投与によるびらん性GERDの治癒率はPMとhomEMで有意差を認める。~略~治癒率はCYP2C19遺伝子多型に影響を受けることが示されている。"
胃食道逆流症においては、基本的にはPPI間で有効性に差なし。
ただし、CYP2C19の遺伝子多型の影響がランソプラゾールでは見られている。
ランソプラゾールよりCYP2C19の寄与が大きいオメプラゾールはもっと影響が出ると考えられそうです。
※タケキャブについてはまだ記載なし。
タケキャブ承認時の臨床試験※7
胃潰瘍:タケキャブ20㎎とランソプラゾール30㎎が非劣勢(93.5%VS93.8%)
十二指腸潰瘍:タケキャブ20㎎とランソプラゾール30㎎は非劣勢証明できず
逆流性食道炎(8週間):タケキャブ20㎎がランソプラゾール30㎎と非劣勢
逆流性食道炎(維持):タケキャブ10㎎、20㎎ともにランソプラゾール15㎎に非劣勢(再発率:5.1%VS2.0%VS16.8%)→事後分析ではタケキャブ優位
低用量アスピリン時:タケキャブ10㎎がランソプラゾール15㎎と非劣勢(再発率:0.5%VS3.3%)→事後分析でタケキャブ10㎎では有意差がついたが、タケキャブ20㎎では有意差なし
NSAIDs投与時:10㎎とランソプラゾール15㎎で非劣勢(再発率:3.8%VS7.5.%)
十二指腸潰瘍:タケキャブ20㎎とランソプラゾール30㎎は非劣勢証明できず
逆流性食道炎(8週間):タケキャブ20㎎がランソプラゾール30㎎と非劣勢
逆流性食道炎(維持):タケキャブ10㎎、20㎎ともにランソプラゾール15㎎に非劣勢(再発率:5.1%VS2.0%VS16.8%)→事後分析ではタケキャブ優位
低用量アスピリン時:タケキャブ10㎎がランソプラゾール15㎎と非劣勢(再発率:0.5%VS3.3%)→事後分析でタケキャブ10㎎では有意差がついたが、タケキャブ20㎎では有意差なし
NSAIDs投与時:10㎎とランソプラゾール15㎎で非劣勢(再発率:3.8%VS7.5.%)
試験デザインが非劣勢試験であったため、逆食の維持療法は再発率がかなり異なっているがあくまで非劣勢。事後解析では優位とされている。
ですが、低用量アスピリンにおいては10㎎と20㎎で逆転してしまっており、何とも言えませんね・・・
最近(個人的に)話題となっているフォーミュラリーで、PPIが対象にされることが多く、基本的には第1選択としてランソプラゾール、ラベプラゾール、オメプラゾール(後発)が選ばれている。
有効性に差がないことを反映している結果でしょうか。
(ピロリ菌除菌においては別ですが)
胃潰瘍とPPI
胃潰瘍の治療といでばPPI。
ですが、胃潰瘍の原因のほとんどがピロリ菌又はNSAIDs。
胃潰瘍→出血あれば内視鏡、それ以外はPPIとなるわけですが、ピロリ菌陽性の場合は除菌による治癒だけで治癒を目指せる。また、ピロリ菌陽性群は再発率が相当高くなるため除菌が行われる。(無治療の場合65%との報告※7)
除菌後再発率は1-2%と報告されており、PPIによる再発予防は不要とされている※7。(CQ2-11 推奨B)
ただし、除菌による治癒率は70%程度とされており、未治癒の場合PPIの投与が必要となる。(再発予防ではなく治療)
また、除菌後に胃酸分泌が増加し、これによりGARDを発症する場合がある(根拠は不十分)ため、除菌後にPPIを投与することでGAEDの症状を予防できるとする報告はある。(推奨なし、エビデンス不十分)
PPIに抵抗を示す場合の投与方法
GARDの中にはPPIを投与しても十分な胃酸分泌抑制ができず、症状が改善しない場合がある。
このような場合は以下の方法をとることで改善する場合がある。
・1日2回投与にする
・ほかのPPIに切り替える
・食前(30分前)に投与する
症状が改善しないのは胃酸分泌抑制が十分でないことが原因と考えられることから、24時間抑制できるように分2にすると効果がみられる場合がある。(ただし分2の適応があるのはラベプラゾールのみ)
また、PPIは活性化したプロトンポンプに結合するため、食前に投与することでその後の食事で活性化されたときに最大効果を発揮することができる。※8
まとめ
ピロリ菌除菌率
タケキャブが優位、その他は差なし。
GERD治療
PPI間で差はなし。(ただしCYP2C19の遺伝子多型による影響はみられている)
※1 Aliment Pharmacol Ther 42: 719-730,2015
※2 内科宝函 41: 99-106, 1994.
※3 薬理と治療. 19:925-931, 1991
※2 内科宝函 41: 99-106, 1994.
※3 薬理と治療. 19:925-931, 1991
※4 Aliment Pharmacol Ther 42:719-730,2015
※5 Alimet Pharmacol Ther 19:113-22,2004
※6 日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015
※7 日本消火器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン2015
※8日本内科学会雑誌第101巻第2号
※5 Alimet Pharmacol Ther 19:113-22,2004
※6 日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015
※7 日本消火器病学会 消化性潰瘍診療ガイドライン2015
※8日本内科学会雑誌第101巻第2号