ストロメクロールとスミスリンローションの併用

疥癬治療薬とその有効性

施設調剤を受け持っていると数年に1度、どこかしらで疥癬がアウトブレイクする。(気がする、管理体制の問題・・・?)

大抵ストロメクロールかスミスリンローションでの治療となるが、治療効果に差はあるのでしょうか。

疥癬の基本的な知識と共に調べてみました。


疥癬とは

疥癬とはヒゼンダニというダニによって引き起こされる。

ヒゼンダニは皮膚角質層内に穴を掘って潜んでいたり(疥癬トンネル)、毛包内に隠れている。

通常疥癬ではヒゼンダニの寄生数は5匹以下だが、高齢者や透析患者など免疫力低下患者では、100万以上寄生することがありノルウェー疥癬と呼ばれている。

通常疥癬に対し、痒いからと言ってステロイド剤をむやみに使ってしまうと免疫力が低下し、ノルウェー疥癬になってしまったという事例もある。

潜伏期間は通常疥癬で1~2ヵ月、ノルウェー疥癬では4~5日と言われている。

※ノルウェー疥癬という表現は差別的意味を含むとされる場合があり、最近では角化型と言われている。

感染経路

基本は肌と肌の接触感染

搔きむしりにより脱落した皮膚にヒゼンダニがいる場合、そこから感染する場合もあるが、通常宿主から離れたヒゼンダニは感染力が徐々に低下するため可能性は低い。

潜伏期間中の感染を示す明確な文献はなし。
(通常回線の場合)潜伏期間中はダニの数も少ないため感染はしにくいと考えられている。

通常疥癬では寄生数が少ないため、密接な接触(同じベッドを長時間使用、長い間手をつなぐ)がないと感染はしにくいと考えらている。

→衣類・リンネなどの媒介物を介したり、短時間の接触では感染はあまり見られない。

ノルウェー疥癬の場合、寄生数とてつもなく多いため、脱落した皮膚、短時間の接触でも感染することがある。

施設では職員との密接な接触が多くなるため、集団感染のおそれがあり、隔離・使い捨てガウンの使用等適切な対策が必要。

疥癬の症状

ヒゼンダニが掘り進んだ跡(疥癬トンネル)が手関節屈側、手掌、指間、指側面などに見られる。

紅斑を伴った激しい痒み(夜間に強い)→潜伏期間に ヒゼンダニの糞や虫体などに対して感作され、アレルギー反応として生じる。

ダニが駆除されたあとも長期にわたり痒みが継続する場合がある。


治療薬

・ストロメクトール(イグベメクチン)
・スミスリンローション(フェノトリン)
・オイラックスクリーム(クロタミトン)

※その他、イオウ、安息香酸ベンジルなどもあるが、有効性を示す根拠はなし。

免疫力低下により、症状が悪化する恐れがあるため、基本的にステロイド剤は使用しない。

ストロメクトール

用法:1~2週間に1回 0.2㎎/kg を空腹時に。

角化型等重症型の場合、1~2週間後に再度検査を行い、治療効果がみられていない場合はもう1回服用可能。

脂溶性が高いため、食後だと血中濃度が上昇

唯一の経口薬。

推奨レベルは最高のA(強く推奨)。
RCTは少ないが、日本における症例数は多く、有効性は高いとされている。

イベルメクチンによる治療初期には瘙痒や皮疹が一 過性に増悪することがある.その理由として,イベル メクチンによりヒゼンダニが死滅することで一過性に 虫体成分が多量に放出され,アレルギー反応が強く出現するためと推測される。この場合に新たな特徴的な皮疹がなければ漫然と投与すべきでない。


スミスリンローション

用法1週間隔で、1回1本(30g)を頸部以下(頸部から足底まで)の皮膚に塗布し、塗布12時間以上経過した後に入浴、シャワー等で洗浄・除去する。確実に駆除するため2回塗布

頭以外のすべてに塗りたくる。2回目以降も検査次第で1週間隔で継続可能。

推奨レベルは最高のA(強く推奨)
2014年発売のため、データは少ないが、治験段階では有効率92.6%で副作用もほとんどない。

海外で第一選択として広く使用されているペルメトリン(日本では保険適応なし)と同じピレスロイド系の薬剤であり、その代替薬として期待されている。


オイラックスクリーム

乾癬自体に対する保険適応はないが、皮膚掻痒に適応あり。また、保険審査上は認められている

推奨レベルはC1(使ってもよいが十分な根拠はなし)。

ペルメトリンとの比較試験では、ペルメトリンが有効性90%に対し、オイラックスクリームは60%。

掻痒感に対して処方できるため、感染疑いに処方したり、ステロイドが使用しにくい疥癬の痒みに対して処方される。

オイラックスHクリームはステロイド含有のため間違って使用しないように注意。


ストロメクロールとスミスリンローションの併用

ストロメクロールの内服に加え、スミスリンローションを同時処方される場合がある。

スミスリンローションはCYP2E1、ストロメクロールはCYP3A4で主に代謝されるため、併用により血中濃度上昇などは起きない。

作用機序に関して、スミスリンローションは興奮による殺虫作用、ストロメクロールは麻痺による殺虫作用となっており、全く正反対の作用のため影響が出る可能性は否定できないとされているものの、併用による問題は生じていない。

フェノトリン:神経細胞Naチャンネルに作用し、神経細胞の脱分極あるいは神経伝達の遮断により寄生虫を興奮させ殺す。
イベルメクチン:グルタミン酸作動性 Clチャンネルに作用し、神経細胞の過分極が生じさせることで殺す。

海外では北オーストラリアや米国の疥癬治療ガイドラインでは角化型疥癬において、ペルメトリンとイベルメクチンとの併用が推奨されており、併用による重篤な有害事象の報告は
確認されていない。(日本において併用による有害事象はなし。)

まとめ

ストロメクロールとスミスリンローションの効果は同等。

ストロメクロールとスミスリンローションの併用は可能。

オイラックスクリームは通常ストロメクロールかスミスリンローションと併用。


(参考:日本皮膚科学会 疥癬診療ガイドライン 第3版)

 2017年3月21日

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