ブスコパンは胃痛に効く?

腹痛のイメージが強いブスコパン、胃痛にも効果あり?

本日外来で胃痛の患者様が来局されました。

処方は以下の通り。

ファモチジン10㎎ 2錠 朝夕食後
ブスコパン10㎎ 腹痛時1錠 10回分

ブスコパンは腹痛時になっていたのでお腹も痛いんだろうと思って投薬したら、「お腹は痛くないですよ、胃痛です」と言われちゃいました。

私の勉強不足ですが、ブスコパンを胃痛に処方されているのを見たことがなかったちょっと調べてみました。

ブスコパンの適応

下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進
胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症


普通にありました。
考えてみれば、OTCでもブスコパンA錠は胃痛、腹痛に効果・効能を持っていますね。
胆石、月経困難あたりはたまに見ますが、胃痛や膀胱炎時の痙攣にも使用できるんですね。

適応があるのはわかりましたが、胃痛にもちゃんと効果はあるのでしょうか?

まずは胃痛の原因とブスコパンの作用機序から考えてみましょう。

胃痛のメカニズム

胃痛の原因

胃痛の原因は大きく分けて以下の2つ。(+その他原因不明等)

1.胃酸多過で生じる炎症、潰瘍によるもの。
2.胃の筋肉が痙攣して起きるもの。

1つめは定番ですね。
ストレスや薬剤により胃酸分泌が増えたり、胃粘膜保護作用の低下、その他薬剤による直接刺激などにより胃本体がやられて起こる痛み。

この場合、胃粘膜保護、H2ブロッカー、PPIといった定番の薬剤が使われるわけですね。(胃酸分泌にはムスカリン受容体も関わるため、M遮断でも胃酸分泌抑制される。)


2つめが胃の筋肉の痙攣によるものだそうで。
痙攣により神経が刺激され、ギューッと指すような痛みが起こり、吐き気や食欲不振を伴うこともあるそうです。

胃の平滑筋収縮が亢進することで起きるわけです。

胃の神経支配

ご存知の通り、胃運動は、アセチルコリンによってムスカリン受容体が刺激されることにより亢進します。

胃の運動機能が低下しているせいで胃の調子が悪いときは、ドンペリドンやメトクロプラミドにより、D2受容体を遮断することで、アセチルコリン遊離を促進し、胃の運動を亢進させます。

その逆に、痙攣するほど胃の運動が異常に活発なときはムスカリン受容体をブロックしてしまえば、胃運動を抑制できるわけです。

胃の調子が悪いとき、運動機能が落ちているせいなのか、活発すぎるせいなのかで全く逆の治療になるので注意ですね。

インタビューフォーム見ると、ブスコパンはメトクロプラミドによる胃運動を抑制するってなっていたので、併用されてたらおかしいですかね。

ブスコパンの効果

作用機序

ブスコパンはムスカリン受容体を遮断します。
これにより胃腸管、胆道、泌尿器、女性器の痙攣を抑制することができます。


ブスコパンの作用機序なんて今更ですが、胃痛の原因と合わせて考えた時、胃痛の原因が胃運動亢進によるものと考えられるときはブスコパンによる抗コリン作用が有効という訳ですね。(胃酸分泌抑制よりおそらくこっちがメインと思われる。)

先ほど軽く触れましたが、ムスカリン受容体は胃酸分泌にも関わってているので、ブスコパンにより胃酸分泌も抑制できるため、今回のようなケースには+αの効果が期待できそうです。

胃痛に対する臨床試験

理論上効くのはわかったんですが、本当に効くのか臨床試験結果を見てみました。

胃腸管に対する有効性:78.6% (n=351)

胃腸じゃなくて、胃だけを知りたかったんですが…

比較試験でこんなにがありました。※1

腹痛を主訴とする消化性潰瘍患者 45 例においてブチルスコポラミン臭化物錠 (20mg×3 回/日,7 日間) と Methylscopolammonium methylsulfate 錠 (2mg×3 回/日,7 日間) との二重盲検試験の 結果,鎮痛効果における有効率は,ブチルスコポラミン臭化物錠 18/22 例 (81.8% ), Methylscopolammonium methylsulfate 錠 19/23 例 (82.6%) と,いずれも消化性潰瘍に有効であ り,ほとんど差異は認められなかった。著効例はブチルスコポラミン臭化物錠 17/22 例 (77.3%), Methylscopolammonium methylsulfate 錠 12/23 例 (52.2%) でブチルスコポラミン臭化物錠がや や優っていた。

胃潰瘍による腹痛ってことは胃の痛みということでいいんでしょうかね。

効果はあるみたいですが、胃潰瘍の時の胃痛って胃酸によるものじゃないのかな?

胃運動亢進してるんですかね?
適応に胃潰瘍による痙攣・運動亢進ってことはそうなるんでしょうかね。

もしくは、少しでも胃の運動が起こる=胃に負担となっているから、胃運動激しくなくても抑えたほうがいたくないって感じですかね。
またはもはや胃酸分泌抑制がメインということになるんでしょうか。



胃酸分泌抑制作用

インタビューフォーム上は、ブスコパンは基礎及び刺激時の胃液分泌量,酸分泌量,ペ プシン分泌量を抑制するとなっており、下記データが記載されている。

ガスターなどのH2ブロッカーでは経口投与で胃酸分泌抑制率が70~99%と非常に高くなっている。※2

では、ブスコパンはどうでしょうか。
プロテカジンインタビューフォームを見ると、総酸分泌量=胃酸分泌量×総酸度で計算されている。※3

上記表より、総酸分泌量を求めると、ブスコパンの効果が最もでている75分時の値は5×43=215。この時対照群は15×90=1350。
ここから抑制率を計算すると、85%。

割と抑制されているようですが、30㎎静注時のデータ。
バイオアベイラビリティは1%未満なので経口投与だとかなり効果は落ちると思われる。

胃酸分泌抑制目的で使うならわざわざブスコパンではなくてよさそうですね。
胃痙攣もあり、ついでに胃酸分泌抑制をしたいならといったところでしょうか。

まとめ

ブスコパンは鎮痙作用により胃痛をやわらげる。
ムスカリン受容体遮断による胃酸分泌抑制作用もあるが、H2ブロッカー等には劣ると考えられる。

※1 ブスコパンインタビューフォーム
※2 ガスタインタビューフォーム
※3 プロテカジンインタビューフォーム

 2017年4月19日

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