オルミエントとゼルヤンツの違い

リウマチに適応をもったJAK阻害薬2剤の比較 生物学的製剤との有効性比較

先日の薬事食品衛生審議会で製造販売の了承を得たオルミエント(バリシチニブ)今後正式に承認される予定です追記:H29.7.3製造販売承認獲得、H29.8.30薬価収載予定。

適応は「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」。

既に関節リウマチに適応をもったJAK阻害薬にはゼルヤンツ(トファシチニブ)がありますが、作用機序に違いがあるようです。

いまいちJAK-STAT経路が煩雑で曖昧なのでまずはその辺を分かりやすく。


JAK-STAT経路

JAKはヤヌスキナーゼという酵素の略。

STATはシグナル伝達兼転写因子→伝達物質としても働くし、DNA合成に関わる転写因子としても働く。

難しい説明はいろいろ見るのでここではシンプルに。

①JAKはサイトカイン(IL-6など)が結合する受容体をリン酸化する。

②JAKによってリン酸化された受容体にはSTATがくっつけるようになる。

③受容体にくっついたSTATはJAKにリン酸化されることで活性型となり、核内に移動する。

④核内に入ったSTATが炎症に関わる物質の転写を促進する。

つまり、JAKがIL-6等の受容体をリン酸化→STATが受容体に来る→STATがリン酸化→核内に移動→転写促進→炎症物質産生増加

この一連の流れによる炎症は自己免疫疾患やがん細胞で見られるため、JAKを阻害することでリウマチの炎症を抑えられる。

リウマチ情報センターの説明がわかりやすい。
"現在、広く使われている生物学的製剤はTNFやインターロイキン(IL)‐6といった特定のサイトカインを細胞の外でブロックすることにより、細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにします。これに対して、ゼルヤンツはサイトカイン受容体からの刺激を伝えるJAKという細胞内の酵素を阻害し、刺激が核に伝わるのを遮断して炎症を抑えます。"

そしてこのJAKにはJAK1、JAK2、JAK3、Tyk2の4種類があり、各サイトカイン受容体ごとに結合するJAKが異なる。

作用機序の違い

オルミエント

エルミエントは上記で述べたJAKのうち、JAK1、JAK2を選択的に阻害する。

JAK2はエリスロポエチンの産生にも関与しているため抑えすぎると貧血になる可能性がある。

現在アトピー性皮膚炎、エリテマトーデスを対象とした臨床試験も進められている。


ゼルヤンツ

ゼルヤンツはJAK1、JAK2、JAK3を阻害し、Tyk2も弱いながらに阻害する。

JAK1及び3を阻害すると、IL-2IL-4IL-7IL-9IL-15及びIL-21が関与するシグナル伝達が遮断される。

JAK1阻害によりIL-6、TNFαが抑制できると考えられている。

これらのサイトカインは、リンパ球の活性化、増殖及び機能発現に不可欠であることから、これらのシグナル伝達の阻害により免疫反応を様々な形で抑制できると考えられる(ゼルヤンツインタビューフォーム)


ちなみにリウマチの炎症部位で多くみられるサイトカインはIL-1、IL-6、TNFα。

JAKとサイトカイン受容体一覧

JAKの1,2を選択的に阻害する意味はあるのでしょうか?

Clin Rheumatol,26: 330~332,2014

これを見ると、どのJAKを阻害してもリウマチの炎症を抑えることに繋がりそうですが、問題は有害事象に関連する機能。

JAK1はほとんど全部に関わっている。

JAK3を抑えるとCD8、NK細胞の分化(リンパ球の分化)も抑制してしまうので、免疫機能が落ちる可能性がある。
このためか、JAK3を阻害するゼルヤンツではリンパ球が数年かけて減少していく現象がみられる。(オルミエントではみられていないとのこと)


先ほど述べたようにJAK2は赤血球形成に関与しているので阻害すると貧血の恐れがある。

どれも抗炎症作用はあるわけで、どれを選択阻害すべきなんでしょうか…


基本情報の比較

代謝経路

ゼルヤンツは肝代謝型(尿中未変化体は30%程度)のため重度の肝機能障害には禁忌。
代謝は主にCYP3A4のため相互作用も注意。

オルミエントは腎排泄型(尿中未変化体70%)のため、腎機能に合わせて用量調整が必要。(重篤な腎機能障害には禁忌。eGFR<30では投与しないこととされている。)

副作用

どちらも感染症に要注意。
下記で述べているように、JAK3を阻害するゼルヤンツではリンパ球の減少に注意。

JAK阻害薬は生物学的製剤同様に感染症への注意が必要だが、中でも帯状疱疹の頻度が高い。(ゼルヤンツ:3.6%、オルミエント:4.0%)

禁忌

共通は、過敏症、重篤な感染症、活動性結核、好中球<500、リンパ球<500、ヘモグロビン値<8g

ゼルヤンツは重度な肝機能障害に禁忌
オルミエントは重度な腎機能障害に禁忌


有効性の比較

各薬剤投与後の患者のACR20、50、70を調べた結果。
ACRとは改善率を示しており、ACR20は痛みや腫れなど決められた項目が20%改善したものをいう。

オルミエント

プラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験、52周投与後の各ACR改善率の割合。(日本人145人)

オルミエント4mg又は8㎎投与群でACR20は76%(37/48)
プラセボでは31%(15/49)

ACR50、70改善率は以下グラフ参照。
ACR50はプラセボで10%前後に対し、オルミエントは30-60%。
ACR70はプラセボでほぼ0%に対し、オルミエントは10-30%。
プラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験、6ヵ月投与後の各ACR改善率の割合。


ゼルヤンツインタビューフォーム


両試験共にメトトレキサート効果不十分時、メトトレキサート併用での結果。



生物学的製剤 VS JAK阻害薬

オルミエント、ゼルヤンツは上記の通りメトトレキサート効果不十分時、併用することでメトトレキサート単剤より効果がでますが、生物学的製剤+メトトレキサートと比較するとどうなのでしょうか。

ゼルヤンツVSヒュミラ

1146人を対象とした二重盲検比較試験では、ゼルヤンツ+メトトレキサートはヒュミラ(アダリムマブ)+メトトレキサートでは有効性が同等とされている

その中では、ゼルヤンツ単剤ではヒュミラ+メトトレキサートに劣勢であることも示されている。
(Lancet. 2017 Jun 15. pii: S0140-6736(17)31618-5)


日経メディカルで紹介されていたRA-BEMA試験では主要評価項目(投与12週時における臨床症状の評価指標ACR20の改善率)はプラセボ群40%、バリシチニブ4mg群70%、アダリムマブ群61%。

患者報告アウトカムでは、バリシチニブ群はアダリムマブ群と比べ関節痛や疾患活動性の評価が有意に改善した。
(日経メディカル:2017.9.14第2のJAK阻害薬バリシチニブの実力は?)


オルミエントVSヒュミラ


こちらは1307人を対象としたメトトレキサート併用なしでの比較。

オルミエントはヒュミラよりACR20の増加率がよかったことが示された。(70%vs61%)


その他、臨床試験結果(ORAL~試験、RA-~試験)を見ると、ゼルヤンツは生物学的製剤と同程度。メトトレキサート抵抗性に対して単剤では有効性示せず。

オルミエントは生物学的製剤に勝る試験あり。メトトレキサート抵抗性に対して単剤の臨床成績はなし。


併用可能な薬剤の違い

上記有効性試験は全てメトトレキサートとの併用による試験となっているが、他剤との併用はどうなのか。

オルミエント

免疫抑制作用が増強されると感染症のリスクが増加することが予想されるので、本剤と抗リウマチ生物製剤や他のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤との併用はしないこと。本剤とこれらの薬剤との併用経験はない。(オルミエント添付文書)

ゼルヤンツ

免疫抑制作用が増強されると感染症のリスクが増加することが予想されるので、本剤とTNF阻害剤、IL-6阻害剤、T細胞選択的共刺激調節剤等の生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、ミゾリビン等の強力な免疫抑制剤(局所製剤以外)との併用はしないこと。なお、関節リウマチ患者においてこれらの生物製剤及び免疫抑制剤との併用経験はない。(ゼルヤンツ添付文書)

となっており、オルミエントは免疫抑制剤とは併用可能。
ゼルヤンツはメトトレキサート以外は併用できるものがなさそうです。

まとめ

オルミエントとゼルヤンツは阻害するJAKが微妙に違う。
そのせいでゼルヤンツではリンパ球減少のリスクがオルミエントより高い可能性あり。

ゼルヤンツは肝代謝、オルミエントは腎代謝、それぞれ重篤な場合禁忌。

ゼルヤンツは生物学的製剤と同程度、オルミエントは勝るとの報告あり。


参考:インタビューフォーム、適正使用ガイドライン
 2017年6月3日

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