クロマイ膣錠とフラジール膣錠の違い

クロマイ膣錠は細菌性膣炎、フラジール膣錠は細菌性膣症?

クロマイはクロラムフェニコール、フラジールはメトロニダゾールで共に抗菌薬であるが、適応が違う。


適応※1,2

クロマイ膣錠(クロラムフェニコール)
細菌性膣炎

フラジール膣錠(メトロニダゾール)
細菌性膣、トリコモナス膣炎



フラジールはもともとトリコモナス膣炎にしか適応がなかったが、学会から適応追加の要望書が提出され、医療上の必要性の高い未承認薬・ 適応外薬検討会議等の審査により保険支払が認められ、その後適応が追加承認された。


細菌性膣炎と膣症の違い※2.3

細菌性膣炎

通常でも存在している一般細菌(大腸菌、ブドウ球菌、レンサ球菌等)が増殖し、炎症を起こしている状態。

特定の細菌のみが増殖している状況ではないので細菌性膣炎と呼ばれる。
炎症が少ない場合は膣症。




細菌性膣症

通常なら75~95%を占める善玉菌である乳酸桿菌が減少し、細菌叢のバランスが崩れ、ガードネラ・バジナリス(好気性菌)、バクテロイデス属(嫌気性菌)、モビルンカス属(嫌気性菌)などの菌が増殖している状態。
(以前は嫌気性菌の増殖が考えられていたが、細菌では好気性菌なども増殖していると考えられている。)

産婦人科診療ガイドラインでは、"細菌性腟症(bacterial vaginosis:BV)とは,腟内の Lactobacillus spp. が減少し種々の好気性菌や嫌気性菌が異常増殖した病的状態である.従来はカンジダ・トリコモナス・淋菌などの特定の原因微生物が検出されない非特異性腟炎と呼ばれていた.BV の約半数は無症状であるが,帯下増加,下腹痛,不正出血が3大症状で,17~70 歳までの幅広い年齢層に発症していたとの報告もある.局所所見では帯下は灰色・漿液性・均質性である.明らかな炎症所見はなく,帯下の鏡検でも炎症細胞が少ないのが,腟炎ではなく腟症と称される理由である"と記載されている。



炎症はあまり見られない
細菌叢の乱れは雑菌の繁殖を許し、他の疾患の原因となる場合がある。

原因菌が特定できないため、膣炎ではなく、膣症とよばれているそうです。※4


その他
カンジダ(真菌)、クラミジア(細菌)、トリコモナス(原虫)など原因菌がはっきりしている場合、それぞれ性器カンジダ症、性器クラミジア感染症、トリコモナス症と呼ばれている。




いろいろ見ていると膣炎、膣症が区別なく扱われていたり、膣症=膣炎といったように書かれているものもあった。

膣炎も膣症も雑菌が増殖しているわけで、どちらも同じ抗生剤でいいようですし、あまり意識する必要はないのでしょうか。



膣症、膣炎に関わる細菌※5

原因菌を特定することは困難だが、以下の細菌類が関わっている。

嫌気性菌:Prevotella属,Peptostreptococcus属,Gardnerella vaginalis,Mobiluncus 属,Mycoplasma hominis

好気性菌:Staphylococcus epidermidis , Streptococcus agalactiae , Enterococcus faecalis , Escherichia coli


抗菌スペクトル※1,2,6

クロラムフェニコール
造血障害が問題になるため経口ではほとんど使用されない。(膣錠は血中移行はほとんどなし)
このため耐性菌は少ない
グラム陽性・陰性菌ともに有効で、幅広いスペクトルを持つ。


メトロニダゾール
偏性嫌気性菌に用いられるほか、トリコモナスなどの一部の原虫にも有効
ガードネラは好気性菌だけど効くようです。



乳酸菌に対する作用

クロラムフェニコール
Lactobacillus属とすべての病原嫌気性菌(Peptostreptococcus属、Fusobacterium属、Prevotella属、 Bacteroides属)に対し殺菌能を有していた。
→乳酸菌であるLactobacillus属も殺してしまう:常在菌による自浄作用が低下


メトロニダゾール
病原嫌気性菌に対するMICは0.05-3.2µg/mLと腟組織移行濃度10-20µg/mL より低く、4種すべてに対して強い殺菌能を認めた。一方、 メトロニダゾールの Lactobacillus 属5株に対する MIC はいずれも>100µg/mL と高いことより、メトロニダゾ-ルは Lactobacillus 属に対する殺菌能を有しなかった。
Lactobacillus属は殺さない:自浄作用を保てる


乳酸菌を殺さないメトロニダゾールのほうが良いような気がするのですが、日本産科婦人科学会ガイドラインではどちらかを使うように示されており、優劣は付けられていない。:産婦人科診療ガイドライン2017では膣症に対して、乳酸菌を殺さないメトロニダゾールを第一選択薬としている。※5

米国CDCのガイドラインではメトロニダゾールかクリンダマイシン。



作用機序※1.2

クロラムフェニコール(クロマイ)
細菌の50Sリボソームサブユニットに可逆的に結合することにより一次的に作用する。
→細菌のタンパク合成阻害

また本剤は哺乳動物細胞のミトコンドリアのタンパク質合成も阻害する。おそらくミトコンドリアのリボソームは動物細胞の80S型細胞質リボソームよりも細菌リボソーム(両者とも70Sリボソーム型)のほうに似ているからと考えられる。ミトコンドリアリボソームのペプチド転移酵素は本剤の阻害作用を受けやすい。
→ヒトにおいて、ミトコンドリアノリボソーム合成は阻害してしまうことがある…副作用と関係?


メトロニダゾール(フラジール)
メトロニダゾールは原虫又は菌体内の酸化還元系によって還元を受け、ニトロソ化合物(R-NO)に変化する。
この R-NO が抗原虫作用及び抗菌作用を示す。また、反応の途中で生成したヒドロキシラジカルが DNA を切断し、DNA らせん構造の不安定化を招く
→原虫、細菌の両方に有効



その他特徴

・クロマイ膣錠は腟内に薬剤がいきわたるように、水分にあうと吸湿して発泡し、約10分で崩壊する錠剤である

・フラジール膣錠も水にふれるとすぐに発泡する。

・挿入時の発泡により痛み(刺激感)がでてしまうことがある。


まとめ

適応はクロマイは膣炎、フラジールは膣症となっているが、この区別はあまり気にしなくてよいと思われる。

ガイドライン上は乳酸菌を殺さないフラジールが第一選択薬
(米国CDCガイドラインではフラジール)

フラジールは原虫にも有効(もともとは原虫のトリコモナス用)


※1 クロマイ膣錠インタビューフォーム
※2 フラジール膣錠インタビューフォーム
※3 日本性感染症学会 ガイドライン2008 細菌性膣症
※4 ラジオNIKKEI 細菌性膣症の最新の話題 富山大学 産科婦人科教授 齋藤 滋 2014.7.16 
※5 細菌性膣症におけるMobiluncus属の検出状況について 感染症学雑誌 第66巻 第8号 
※6 産婦人科診療ガイドライン2017

 2017年7月12日

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