褥瘡治療薬の使い分け

滲出液、乾燥状態、深度による褥瘡治療薬の使い分け


褥瘡はその状態によって薬剤を使い分ける。


褥瘡の状態による分類


炎症期
壊死組織が黒くなり皮膚に付着している状態。
炎症、感染がみられる場合がある。

滲出期
滲出液が多く、感染リスクが高い状態。
壊死組織、不良肉芽がみられる。

肉芽形成期
肉芽組織の形成が始まり、欠損した部分が埋まり始める。

上皮形成期
新生上皮により上皮化が進んでいく。



基剤の滲出液吸収能

各薬剤の特徴を考える前に基剤による吸水能について簡単にまとめました。

疎水性基剤:吸水能なし(ワセリン、パラフィン)
乳剤性基剤(O/W):吸水能はほとんどない
乳剤性基剤(W/O):吸水能はなく、逆に補う
水溶性基剤:吸水能に優れている(マクロゴール)


上記を踏まえ各薬剤の使い分けを見ていきます。
使い分けは炎症・滲出期も用いる薬剤と肉芽形成・上皮形成期に用いる薬剤に大分できる。


炎症期・滲出期に用いる薬剤

殺菌作用・抗炎症作用を示す薬剤を使用する。

ブロメライン軟膏
・水溶性基剤=滲出液が多い創に用いる。
・殺菌作用はないため感染を伴わない創に使用する。
・タンパク分解酵素の作用により痛み、発赤を起こす場合がある。

ゲーベンクリーム
・乳剤性基材(0/W)=滲出液が少ない創に用いる。
・銀により抗菌作用を示すため感染を伴う創に使用する。
・ヨウ素製剤との併用により効果が減弱する場合がある。
・基材による壊死組織融解作用あり。

カデックス軟膏
・水溶性基剤=滲出液が多い創に用いる。
・ヨウ素により抗菌作用を示すため感染を伴う創に使用する。
・カデキソマーというビーズ状のポリマーにより滲出液、壊死細胞を吸着するが、ポリマーが創に残ってしまい、感染の原因となる場合があるため洗浄困難な創やポケットには使用しない

ユーパスタコーワ軟膏、イソジンシュガーパスタ軟膏
・水溶性基剤+白糖=滲出液が多い創に用いる。
・ヨウ素により抗菌作用を示すため感染を伴う創に使用する。
浮腫を伴う創にも有効。
・吸水性が強いためか乾燥に注意。また開封後はなるべく早く使用する。

イソジンゲル
・水溶性基剤=滲出液が多い創に用いる。
・ヨウ素により抗菌作用を示すため感染を伴う創に使用する。
・ユーパスタコーワの白糖なしバージョン。

※吸水能の強さ
カデックス>ユーパスタ>ブロメライン

肉芽形成・上皮形成期に用いる薬剤

肉芽・表皮形成促進作用を示す薬剤を使用する。

プロスタンディン軟膏
・疎水性基剤=滲出液が少ない創に用いる。(多いものには適さない)
血流改善作用により肉芽・表皮形成を促進する。
・出血リスクのある患者(抗凝固・抗血小板服用等)には注意。

フィブラストスプレー
・吸水作用等はなく、過乾燥・滲出液が多い創どちらにも適さない=使用後ドレッシング材等で適度な湿潤環境を保つ。
線維芽細胞の増殖・血管新生促進作用により肉芽・表皮形成を促進する。
・冷所保存、開封後は2週間まで。

アクトシン軟膏
・水溶性基剤=滲出液が多い創に用いる。
血流改善作用により肉芽・表皮形成を促進する。
・長期多量連用により全身作用(低血圧、徐脈、高血糖など)を示す場合があるため注意。

アズノール軟膏
・疎水性基剤=滲出液が少ない創に用いる。(多いものには適さない)
・ワセリンによる皮膚保護作用とアズレンによる抗炎症作用。
・浅い潰瘍、びらん、発赤程度に対して用いる。


以上が薬剤の特徴。
褥瘡の状態と各薬剤のエビデンスについては褥瘡予防管理ガイドラインにまとまっているため参照。



実際の使用例

現場でどういった感じで使われているかメモ。

壊死組織(黄、黒、白)が表面を覆っている場合:デブリードマン、ブロメライン、カデックス、ゲーベン(基材による効果)などで不良肉芽を取り除く、溶かす。(滲出液が多い:ブロメライン、カデックス、少ない:ゲーベン)

滲出液が多い(感染+):カデックスで吸収+抗菌、ガーゼで吸収(密閉しない)。ユーパスタも使用される。

滲出液が多い(感染ー):ユーパスタで吸収、吸水性のドレッシング材を使用。

滲出液が少ない(感染+):ゲーベン、補水性ドレッシング材を使用。

滲出液が少ない(感染ー):補水性の外用剤。補水性ドレッシング材を使用。

肉芽形成促進(肉芽が少ない状況):フィブラストスプレー、アクトシン軟膏で形成促進。

肉芽形成促進(肉芽はある程度存在、創部縮小目的):フィブラストスプレー、プロスタンディン、アクトシン、ユーパスタ。


参考:日本褥瘡学会ホームページ SAFA-ID(褥瘡) 褥瘡予防管理ガイドライン(第3版) 
 2017年8月24日

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