ベイスンとセイブルの違い

αグルコシダーゼ阻害薬2剤の血糖降下作用や副作用の比較

α-グルコシダーゼ阻害薬でよく処方を見るのがベイスン(ボグリボース)とセイブル(ミグリトール)。
糖尿病治療においては2~3剤目の併用薬として追加が考慮される薬剤。

2剤の間には阻害する酵素に違いがありますが、有効性にはどのような差があるのでしょうか。

まずは作用機序について簡単に。


作用機序の違い

セイブルのインタビューフォームを見るとわかりやすい図があります。


両剤とも二糖類から単糖類への分解を抑制しますが、
ベイスンが阻害するのはマルターゼ、イソマルターゼ、スクラーゼだが、セイブルではさらにラクターゼ、トレハラーゼも阻害する。

ラクトースは乳糖。
乳製品などに多く含まれているため、これらの食品をとっている人の場合はセイブルのほうが効くんでしょうか。

ただし、乳糖を分解できなくなるということは消化器系の副作用が多くなると予想されます。

参考:阻害活性
マルターゼ阻害活性…ベイスン:セイブル=18:1
スクラーゼ阻害活性…ベイスン:セイブル=3.6:1
イソマルターゼ阻害活性…ベイスン:セイブル=1:1


消化器系の副作用

前述の通り、セイブルでは分解されない二糖類が多くなり、浸透圧や腸内発行により下痢、膨満感等のリスクが高くなる

ラクトースが分解されなければ乳糖不耐症と同じ状況なわけで。

ベイスン

使用成績調査(4446例中)
下痢(1.3%)、放屁増加(2.65%)、腹部膨満(1.3%)

承認時まで(965例中)
下痢(4.0%)、放屁増加(4.0%)、腹部膨満(3.5%)

セイブル

総症例(1030例中)
下痢(18.3%)、放屁増加(6~25%※)、腹部膨満(14.9%)
※各種臨床試験時のデータからの参考値


セイブルのほうが圧倒的に消化器系の副作用発現率が高い。

デンプンの分解も抑制してしまうグルコバイはさらに高いのかと思ったら、放屁増加・膨満感は15%前後でセイブルと同じくらい。
下痢に関しては1%前後とセイブルより低い。

※ただし、セイブル(ミグリトール)は小腸上部で吸収され、大腸に流れる未分解の糖質が少なくなるため、消化器症状はボグリボースやアカルボースより少ないとする意見もあるよう。
ボグリボースとアカルボースはほとんど吸収されず、未変化体のまま大腸へ。※2


作用時間の比較

ベイスン
何時間~抑えるといった具体的な数字の記載は見当たらないが、
下記図より30分~2時間抑制されている。

セイブル
食後30分~2時間の血糖上昇を抑える(食後1時間における抑制が最大)との記載がある。(作用持続時間3時間という記載もある)

グルコースは単糖なので吸収抑制なし。
スクロールを見るとどちらも対して時間差はないような気がします…

(セイブル・ベイスンインタビューフォーム)


有効性の比較

今までの情報を見るとベイスンでいい気がしますが、有効性はどうでしょうか。

オープン試験12週間(n=81)
(J Diabetes Investig. 2014 Mar 23;5(2):206-12.)

HbA1c低下作用、体重減少はセイブルで最も大きかったのこと。
(ベースラインと比較し有意差あり)

オープン試験なので信頼性は高くないですが、HbA1c低下作用はセイブルが優勢。

GLP-1・GIP分泌量の比較

GLP-1分泌はセイブル、ベイスン両方で見られた。

GIPに関してはセイブルのみで抑制がみられ、これが体重減少につながったと考察されている。

※GIP:GLP-1と同じインクレチンの一種。
通常はインスリン分泌を促進するが、糖尿病患者ではその作用が弱く、脂肪取り込み促進作用も持つため肥満の原因となる。


その他セイブルがもっとも血糖抑制作用が強いとの記載が多いようです。

追加効果

ベイスンは耐糖能異常患者において、糖尿病発症抑制効果が報告※1されており、適応に「耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制」がある。


まとめ

血糖抑制作用:セイブル>ベイスン
消化器系副作用発現率:セイブル>ベイスン
セイルブは体重減少作用も報告あり
ベイスンは耐糖能異常患者に対して糖尿病発症抑制の適応あり

※1Lancet. 2009 May 9;373(9675):1607-14 
※2 調剤と情報 2020 12 vol26 No16 
 2017年9月12日

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