抗生剤の有効性(細菌別)

各細菌に対する抗生剤の選択 耐性菌の割合


外来で目にする機会が多いであろう疾患を中心に通常どの抗生剤を第一選択薬として治療しているのかを、国立感染症研究所、日本感染症学会等の情報を中心に調べてみました。

※疾患や、入院、エンピリック療法など、治療方法は異なるのであくまで大まかな参考。

以下は主に外来(経口)治療における中心的な薬剤。


グラム陽性球菌

基本はペニシリン系が使えればペニシリン系。


黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus(MSSA)


→第1世代セフェム系、オーグメンチン
疾患:蜂窩織炎、とびひ、血液感染、肺炎、髄膜炎。
・マクロライド、テトラサイクリン、キノロン等は感受性があっても治療不良が起こる場合があるため使用しない。(感受性をみて使用する場合も)
・ペニシリン耐性化は深刻。
・尿路感染は起こさない。


黄色ブドウ球菌(MRSA)


→バンコマイシン、テイコプラニン
・バンコマイシンに完全耐性を示すVRSAというものも検出されている。
・感受性をみて治療。


連鎖球菌属 Streptococcus spp 


→ペニシリン系
疾患:咽頭炎(溶連菌感染症〈A群β連鎖球菌〉)、蜂窩織炎、肺炎
・ペニシリン耐性はほとんどなし、まれにマクロライド耐性。
・アレルギーがある場合は第1世代セフェム、マクロライド。


表皮ブドウ球菌 Staphylococcus epidermidis


→バンコマイシン、テイコプラニン(80~90%がメチシリン耐性菌の為)
・ヒトの常在菌で普段は感染症を起こさない。手術等で皮膚のバリアが破られている場合に感染症が起こることがある。
・蜂窩織炎の原因菌ではない。(蜂窩織炎の主な原因菌はブドウ球菌、連鎖球菌)


肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae


→ペニシリン系(高用量)
疾患:市中肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎
・常在菌ではない。
・耐性も進んでいるためその場合はオーグメンチン。→最近はPRSP減少傾向。
・髄膜炎などの重篤な疾患のときはバンコ+ロセフィンなど。
・マクロライド系には9割近くが耐性化。
・セフェム系はMICの差が大きい。
・肺炎:第一選択がオーグメンチン(1回2錠×3回)

ペニシリン耐性菌の状況は以下の通り(小児)

腸球菌 E.faecalis

→ペニシリン系
疾患:尿路感染、心内膜炎、腹腔内感染(虫垂炎、憩室炎、胆道系)=市中感染
・セフェム系全て無効


腸球菌 E.faecium


→バンコマイシン
疾患:カテーテル関係の感染、手術部位感染、透析患者の腹膜炎=医療関連感染
・セフェム系全て無効

※faecalis=80~90%市中感染、feaesum=80~90%医療関連感染

グラム陰性桿菌

クロストリジウム・ディフィシル

→メトロニダゾール(MNZ)
疾患:偽膜性大腸炎
・抗菌薬の長期投与や抗がん剤(まれ)により腸内細菌叢が破壊されることで起こる。
・代替薬はバンコマイシン(VCM)(大腸に投与したいので経口投与)
・軽症―中等症でMNZと VCMの治療効果に明らかな差はないこのため,より安価であり,かつバンコマイシン耐性腸球菌などの耐性菌を考慮して,MNZが第一選択薬。
・MNZ経口1回250mg1日4回または経口1回 500mg1日3回を10~14 日間

セレウス菌 Bacillus cereus

→食中毒の場合はなし(菌自体が原因の場合はバンコマイシン)
疾患:食中毒、蜂窩織炎(まれ)、敗血症等(まれ)
・セレウス菌による食中毒は産生された毒素(トキシン)によるものなので抗生剤は不要。
・潜伏期間24時間、下痢・嘔吐を起こす。

インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae 

→通常ペニシリン系(耐性化進行中)→オーグメンチンorキノロン系
疾患:中耳炎、副鼻腔炎、市中肺炎、気管支炎

・ペニシリン耐性にはいくつか種類がある。
BLPAR:βラクタマーゼ産生の耐性菌→オーグメンチン〇
BLNAR:βラクタマーゼ非産生の耐性菌(PBP変異)→オーグメンチン×、キノロン系〇(耐性菌もまれにいる)
BLPACR:βラクタマーゼ産生+PBP変異→オーグメンチン×、キノロン系〇(耐性菌もまれにいる)

BLNAR,BLPACRに対し、第3世代セフェムは有効なものが多い(特にセフトリアキソンは感受性が良い)、第2世代は△。

耐性菌の割合は以下の通り。(小児)
※BLNAS:β-ラクタマーゼ非産生ペニシリン感受性
 BLNAI:β-ラクタマーゼ非産生ペニシリン中度耐性

ペニシリン耐性は中度合わせると50%前後もいる。

レジオネラ菌(レジオネラ・ニューモフィラ) Legionella pneumophila 

→キノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系
疾患:市中肺炎
・βラクタム系、アミノグリコシド系は無効。
・在郷軍人病の原因菌。
・レジオネラ属のうち、ニューモフィラ以外の菌は尿中高原検査で診断できない。

百日咳菌 Bordetella pertussis

→マクロライド系、キノロン系
・毒素により起こるため抗生剤の投与に関して賛否あり。
・投与により症状の期間短縮、感染性低下がみられる場合があるため投与されることが多い。

グラム陰性球菌

モラクセラ・カタラーリス Moraxella catarrhalis

→オーグメンチン、マクロライド系
疾患:肺炎、気管支炎、咽頭炎
・ほぼ100%βラクタマーゼ産生菌だが、酵素活性が低く、アンピシリンが有効な場合も。
・マクロライド、キノロン系への耐性化はほとんど見られていない。
・キノロン耐性もまれに分離される。


グラム陰性菌(腸内細菌群)

基本はペニシリン系・第1世代セフェム系だが耐性菌が多いため、メインは第3セフェム、キノロン系、アミノグリコシド系。

主な腸内細菌は大腸菌、クレブシエラ、プロテウス。
共通して引き起こされる疾患は尿路感染症、腹腔内感染(虫垂炎、憩室炎、胆道系)、医療関連感染

大腸菌 Escherichia coli

→ペニシリン系、第1世代セフェム系(どちらも耐性菌多い)
疾患:上記+細菌性腸炎(O-157)、旅行者下痢症(腸管毒素原性大腸菌)、新生児の髄膜炎
・耐性菌(ベータラクタマーゼ産生菌が多い)の場合は第3セフェム、キノロン系、アミノグリコシド系。
・第3セフェム無効のESBLもいるためこの場合はカルバペネム系、キノロン系
・O-157に対する抗生剤投与はHUSリスクを増加させる可能性が示唆されており賛否両論。使用する場合ホスホマイシン。

クレブシエラ Klebsiella spp

→第1、2世代セフェム(ESBL注意)
疾患:上記+市中肺炎
・第1,2世代セフェム無効の場合は第3世代セフェム、キノロン系、アミノグリコシド系。
・全てのクレブシエラはアンピシリン耐性。(オーグメンチンは〇)
・大腸菌同様ESBLもいる。(ESBLはキノロン系にも耐性、感受性をみて薬剤選択)
※ESBL:Extended Spectrum β-Lactamaseの略で、第2,3セフェムに対しても耐性を示す。薬剤感受性を調べて治療。(キノロン、カルバペネム、オーグメンチン等)

グラム陰性菌(細菌性腸炎を起こす菌)

メインで使われるのは第3セフェム系、キノロン系、マクロライド系。

主な菌はサルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター。

サルモネラ菌(食中毒型) Salmonella enterica serovar Typhimurium

→第3世代セフェム、キノロン系、マクロライド系
・潜伏期間は8~48時間、症状は発熱、下痢、腹痛、嘔吐など。
・臨床的にはキノロン系、ホスホマイシン、アンピシリンのみ有効とする報告もあり。

赤痢菌属 Shigella spp

→第3世代セフェム、キノロン系、マクロライド系
・潜伏期間は1~3日、症状は濃粘血便、腹痛、発熱など。
・A-Dの4種類の亜群があり、志賀毒素を産生するのはA亜群。

カンピロバクター・ジェジュニ Campylobacter jejuni

→キノロン系(耐性化進行)、マクロライド系
・潜伏期間は2~5日、症状は下痢、腹痛、発熱、嘔吐など。
・セフェム系にも耐性あり。
・まれにギランバレー症候群(自己免疫性末梢神経障害)を起こす。

グラム陰性菌(院内感染を起こす)

以下の5種類を「SPACE」と呼んだりする。

S:セラチア Serratia
P:緑膿菌 Pseudomonas
A:アシネトバクター Acinetobacter
C:サイトロバクター Citrobacter
E:エンテロバクター Enterobacter

ピペラシリン+タゾバクタム、第3世代以上のセフェム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、キノロン系で治療。



その他

マイコプラズマ Mycoplasma pneumoniae 

→マクロライド系、キノロン系、テトラサイクリン系
疾患:非定型肺炎
・細胞壁を持たないためβラクタム系は無効
マクロライド系耐性マイコプラズマが増加中。この場合はテトラサイクリン系。

クラミドフィラ・ニューモニアエ Chlamydophila pneumoniae

→マクロライド系(特にアジスロマイシン)
疾患:非定型肺炎
・性感染症を起こすのはクラミジア・トラコマディス

クラミジア・トラコマティス Chlamydia trachomatis

→マクロライド系(特にアジスロマイシン)、キノロン系、テトラサイクリン系
疾患:トラコーマ(眼疾患)、性行為感染症(尿道炎、膣炎、肛門炎)

淋菌 Neisseria gonorrhoeae

→第3世代セフェム:20%程度耐性化進行→アジスロマイシンは90%有効、通常注射剤(セフトリアキソン、セフタジジム、スペクチノマイシン)
疾患:性行為感染症
・ペニシリン系に対して耐性。
・キノロン系に関しても耐性化が進んでしまっている。
・尿道炎の場合、第一選択薬はセフトリアキソンorスペクチノマイシン



参考
国立感染症研究所 感染症情報
感染症まるごとこの一冊 南山堂
感染症ガイドライン(呼吸器疾患)

 2017年10月22日

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