誤嚥性肺炎の予防薬と治療薬

誤嚥性肺炎のリスクを上昇させる薬剤と予防に用いられる薬剤について


誤嚥性肺炎

嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症する。

吐物を大量に吸引した場合には胃酸による化学性肺炎を起こすことがあり、メンデルソン症候群と呼ばれる。※1

※1日本呼吸器学会


誤嚥性肺炎を起こしやすい患者

嚥下機能関わる主な神経

・舌下神経:舌を動かす。
・舌咽神経:舌の付け根、喉の運動に関与。
・迷走神経:食動の運動に関与。


嚥下するのに必要な物質

・サブスタンスP:嚥下反射、咳反射に関わる物質。


嚥下機能障害を起こしやすい人

・脳血管障害
・神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病)
・脳神経系の障害
(多発性硬化症、脳炎、脳腫瘍、脳性まひ、外傷性脳損傷、筋ジストロフィー、重症筋無力症、多発性筋炎)
・加齢(筋力低下、唾液減少)

以下感染症ガイドライン(呼吸器)より



誤嚥性肺炎の予防になる薬剤

・ACE阻害薬
・ドパミン製剤
・シロスタゾール
・カプサイシン


ACE阻害薬
サブスタンスPの分解酵素であるキマーゼを抑制するため、サブスタンスPが増加し、咳反射が増強される。

経管栄養患者においてリシノプリル2.5㎎は肺炎予防にならず、死亡率を増加させたという報告もある※1が、アジア人では脳梗塞の既往歴がある患者や高齢者において予防効果が報告されている※2

コホート研究ではあるが、メタ解析でも予防効果が認められたとの報告もある。※3

脳卒中ガイドラインではエビデンスレベルⅡb、グレードC
(ガイドライン中のエビデンス分類はこちら)

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン中の開始を考慮すべき薬剤リストでは、脳血管障害と肺炎の既往歴がある高血圧患者おいて推奨されている。




ドパミン製剤
ドパミンは舌咽神経と迷走神経の頚部神経節においてサブスタンスPの放出を促進する作用がある。

よってパーキンソン病患者ではドパミンが不足しているため、サブスタンスPも減少し、誤嚥性肺炎が起こりやすくなる。

ドパミンを補給することでサブスタンスPが増加し、嚥下機能が改善する。
また、ドパミン遊離促進薬であるシンメトレル(アマンタジン)により肺炎リスクを減少させることができたとの報告もある。※1

脳卒中ガイドラインではエビデンスレベルⅢ

※1J Am Geriatr Soc. 2001 Jan;49(1):85-90.


シロスタゾール
抗血小板作用と脳血管拡張作用を持ち、脳梗塞の再発予防に用いられる)が、脳血管障害のある患者において肺炎発症率を1/5に低下させたとの報告がある。※1

シロスタゾールによりサブスタンスPの増加がみられるとのこと。

脳卒中ガイドラインではエビデンスレベルⅡb、グレードC

※1Cerebrovasc Dis. 2006;22(1):57-60. Epub 2006 Apr 26.



カプサイシン、胡椒、メントール

これらの香辛料はTRP(温度感受性)受容体を刺激することにより、咽頭および食道粘膜でサブスタンスPを放出させる作用がある。※1

カプサイシンはプラセボとの比較し、嚥下反射および咳反射を有意に改善したとの報告もある。※2

※1第52回日本老年医学会学術集記録
※2J Am Geriatr Soc. 2005 May;53(5):824-8.



その他モサプリドや半夏厚朴湯が用いられることもある。

誤嚥性肺炎のリスクになる薬剤

・向精神病薬(D2遮断薬)
・ベンゾジアゼピン系
・PPI


D2遮断薬
向精神病薬(D2遮断薬)によりサブスタンスPが減少することが報告されており※1、誤嚥性肺炎のリスクになると考えられる。

定型より嚥下障害が起こりにくい非定型のリスペリドンにおいては、リスク増加がみられたもののプラセボと有意差はなかったが、クロザピンにおいては顕著なリスク増加がみられている。※2



ベンゾジアゼピン系
ベンゾジアゼピン系による筋弛緩作用や認知機能低下により、嚥下障害が起こる場合と考えられている。


PPI
PPIにより胃酸が抑制されると胃内において細菌が増殖しやすくなるため、誤嚥性肺炎のリスクとなると考えられている。

認知症患者において、PPIの使用は肺炎リスクを90%近く高めるとする報告もある。※1
こちらは誤嚥性肺炎ではなく、全ての肺炎を見ている。

胃酸抑制薬は肺炎に限らず感染症を増加させる傾向があるため注意が必要。

※1J Am Geriatr Soc. 2017 Jul;65(7):1441-1447.


誤嚥性肺炎の治療

誤嚥性肺炎の原因菌

以下の細菌による報告が多い。

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae) →オーグメンチン〇
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) →オーグメンチン〇
クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae) →オーグメンチン〇
その他腸内細菌科 

その他、Streptococcus anginosus sppや嫌気性菌など口腔内常在菌の関与が指摘されている。※1


治療薬

第1選択:オーグメンチン
第2選択:ジェニナック、グレースビット、アベロックス
(耐性菌ではない場合)

※クラビット、セフトリアキソンは嫌気性菌に対して十分でない場合がある

上記の口腔内常在菌が原因となるため、β―ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬の選択で十分とされている。

院内発症の場合、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa) を含めたグラム陰性桿菌までカバーしておいた方が良い。

グラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラ)ではESBL産生が増加しているため注意。


※1感染症治療ガイドライン(呼吸器疾患)

 2017年11月30日

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