神経障害性疼痛に用いる薬剤の比較

神経障害性疼痛に用いられる各薬剤(三環系抗うつ薬、リリカ、サインバルタ、ノイロトロピン等)の特徴と有効性

外来で手足のしびれを訴える患者さんでよく見かける原因疾患には以下のようなのもがある。

・脊柱管狭窄所
・椎間板ヘルニア
・腰痛症
・坐骨神経痛
・頚椎症
・帯状疱疹後神経痛
・糖尿病による末梢神経障害
・脳梗塞等

これらの神経痛に使用される薬剤についてその特徴を調べてみました。

ガイドラインにおける各薬剤の位置づけ

神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインでは以下のようになっている。


第一選択薬 
・三環系抗うつ薬 (ノリトレン、トリプタノール等)
・カルシウムチャネルα2δリガンド(リリカ、ガバペン、タリージェ)
・SNRI(サインバルタ等)

第二選択薬
・ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトロピン)
・トラマドール

第三選択薬
・オピオイド製剤

※三叉神経痛だけは第一選択カルバマゼピン、第2選択薬ラモトリギン、バクロフェン



三環系うつ薬

作用機序

ノルアドレナリン取り込み阻害により、神経終末においてノルアドレナリン濃度を上昇させる。

ノルアドレナリンは下行性疼痛抑制系神経を増強すると考えられている。※2

特徴

疾患・病態に関わらず同程度の鎮痛作用を示すとされている。

2級アミン系(ノリトレン)、3級アミン系(トリプタノール、トフラニール)の有効性に差はないが、忍容性は2級アミン系のほうが優れているが、適応があるのはトリプタノールのみ。

抗コリン作用が強いため口渇、便秘に注意。緑内障、前立腺肥大には禁忌。


カルシウムα2δリガンド(リリカ、ガバペン、タリージェ)

作用機序

中枢(脊椎の神経後角ノのシナプス前)においてカルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の遊離を抑制する。

α2δサブユニットへの親和性はリリカ>ガバペンとなっている。

適応があるのはリリカのみだが、ガバペンの神経痛に対する効果は海外の臨床試験で証明されている。

特徴

両剤とも腎代謝のため腎機能障害がある場合は減量が必要。

傾眠・眠気の頻度が高い。

エビデンス

リリカ(ガバペンチン)、ガバペン(ガバペンチン)は帯状疱疹後神経痛および有痛性糖尿病性神経障害に対して有効性あり。(プラセボより10~15%程度改善)※5

ただし、慢性腰痛に対しては有効性が示せていない


ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤

作用機序

下行性疼痛抑制系神経の増強、侵害刺激局所における発痛物質であるラジキニンの遊離抑制作用末梢循環改善作用等が考えられる※3

特徴

帯状疱疹後神経痛に対するエビデンスが豊富。その他(腰痛症、変形性関節炎)にも有効性が示されている(ケトプロフェン、インドメタシンと同程度)※3

副作用がほとんどなく使いやすい。

エビデンス

エビデンスレベルの高い試験はないが、安全性やある程度の有効性が示されていることから推奨はされている。(慢性疼痛ガイドラインでは推奨2エビデンスレベルDとやや低めの評価)


SNRI(主にサインバルタ)

作用機序

抗うつ薬と同じくノルアドレナリンにより下行性疼痛抑制系神経を増強する。

特徴

抗うつ薬と異なり抗コリン作用は弱いため便秘や口渇が少なく、心毒性も低いため使いやすいとされているが、まだエビデンスが少ないため第2選択薬。※1,2

エビデンス

サインバルタ(デュロキセチン)は糖尿病性神経障害、線維筋痛症への有効性がシステマティックレビューで示されている。※5

また、神経障害性疼痛以外の慢性疼痛(慢性腰痛、変形性関節炎)に対してもそれぞれ事後解析およびシステマティックレビューで有効性が示されている

40~60mg/日の投与で、投与開始後 1 週間目から鎮痛効果が得られる。また,60mg/日を 1 日 1 回投与と 1 日 2 回分割投与とでは鎮痛効果が等しいと考えられ,60 mg/日を 1 日 2 回分割投与する方が副作用は減少することが報告されている。※1



抗不整脈薬

作用機序

神経細胞膜のNaチャネルを遮断し、傷害された小径有髄線維と無髄線維の再生過程における異常発火を抑制する。=末梢での作用

また、中枢神経系 (脊髄)においてサブスタンスPの遊離抑制作用、上位中枢からの内因性オピオイドを介する下行性疼痛抑制神経の賦活により脊髄後角ニューロンの過剰興奮を抑制する。※4

特徴

適応は糖尿病性神経障害だが、国外の臨床試験においては否定的な結果もある。

脊髄損傷後の神経痛に関する有効性は乏しいとされている。

催不整脈作用があるため注意、2週間以上使用して改善が見られない場合は中止を考慮。※1




その他オパルモン(リマプロスト)やメコバラミンなどの処方を見ますが、リマプロストについてはガイドラインに記載無し(神経障害ではなく血流障害によるものだから?)、メコバラミンに関しては鎮痛効果は明確ではないとされている。

3環系うつ薬が第一選択に入っていますがあまり処方はみない気がします。
リリカ、ノイロトロピン、サインバルタ、リマプロスト当たりをよく見ます。

※1神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改定第2版
※2日本口腔顔面痛学会雑誌13-21 2011
※3ノイロトロピンインタビューフォーム
※4メキシチールインタビューフォーム
※5慢性疼痛診療ガイドライン2021


 2017年12月30日

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