抗インフルエンザ薬の比較

リレンザ、イナビル、ゾフルーザ、タミフルの有効性、使用可能年齢等の比較

H30.11月ゾフルーザ錠の情報追加(顆粒は発売遅れているため保留)

現在現場で使用されている抗インフルエンザ薬としては以下の薬剤がある。

・タミフル
・リレンザ
・イナビル
・ゾフルーザ
・ラピアクタ(注射)

ある冬の休日当番、1歳児にタミフルDS 4日分という処方が来ました。

1日分は緊急で他で処方されているのかと思って確認したところ、1日分はクリニックでリレンザを吸ってきたから4日分とのことでした。

どうやって1歳児が吸入してきたんでしょうか?
そもそもイナビルやリレンザは何歳から投与してよいのでしょうか。

また、ゾフルーザは耐性ウイルスができやすいといった考察がされていますが、どうなんでしょうか。

まずは各薬剤の新生児~幼児への安全性について見ていきます。

各薬剤の年齢制限

添付文書上の記載は以下の通り。

タミフル:新生児~使用可能

リレンザ:4歳児以下の安全性確立なし

イナビル:乳児以下の安全性確立なし

ゾフルーザ錠:乳児以下の安全性確立なし

※新生児:生後28以内 乳児:1歳未満 幼児:6歳未満


以下は小児科学会の治療指針(一般診療による治療)より抜粋。
※、※※:現在は添付文書にも記載があり安全性は確率されている
※※※:異常行動に関して警告あり(2018年、10代の使用制限解除にて添付文書改訂)

同治療指針には、リレンザ、イナビルの年齢制限は以下のように記載されいる。

リレンザ:制限なし。ただし乳児以下の安全性確立なし。
イナビル:吸入可能な年齢。ただし乳児以下の安全性確立なし。

リレンザの使用成績をみると、5歳未満(4歳以下)に44例の投与があり、副作用報告は1件のみであり、他の年齢層と大差はなさそうです※1

ということで、吸入できればリレンザ使っても問題なさそうですが、問題はどうやって吸入させたのか。

ちなみに、ゾフルーザ錠には経口投与できると判断された場合のみ投与することという注意書きがある。


ゾフルーザ錠の粉砕

ゾフルーザは顆粒が発売予定となっておりましたが、20㎏未満の適応が取れておらず、適応外で使用されないように2018年シーズンは販売しないことになった。


ということで、錠剤しかないわけで、2018年12月時点ですでにゾフルーザを4歳児に何度か調剤した。

かなり錠剤は小さい(10㎎は直径5mm)ので、ゼリーにつつんで飲めてしまいそうな大きさ。
塩野義ホームページにはいろいろ指導せん(こちら)が出ており、以下はその1つ。

プリンとかアイスにつつめばそのままで行けそう。
錠剤なのになぜジュースを記載しているんでしょうか? かみ砕くの前提?


では、かみ砕いてしまったり、初めから粉砕することは可能でしょうか。

以下はメーカー解答です。

ゾフルーザ錠の粉砕可否

・現時点で粉砕後の安定、動態、簡易懸濁のデータはなし。

・錠剤自体に特殊な工夫(徐放等)はなし。

・有効成分の安定性は問題ない。

・錠剤を服用できる小児にのみ投与することとしているので、推奨できない。

・とてつもなく苦い

メーカー的におすすめできないことはわかりますが、工夫もなく、通常でもTmaxが1-5hと幅もあり、粉砕してTmaxが早まっても問題なさそうですので、おそらく大丈夫なんだろうと思ってしまいます。



吸入できない年齢層のリレンザ吸入方法

1歳児に吸入指導は不可能です。

どのように吸ってきたのか聞いてみると、チューブが出ているスペーサーのようなものを用いて、親がチューブから吸ってスペーサーに薬剤を滞留させ、それを赤ちゃんが通常呼吸で吸入したそうです。

以下は患者さんの話をもとに作成したイメージ図(※現物ではありません)
こんな感じで吸うんでしょうか。
ちゃんと吸入できるかは不明ですが…

リレンザの粒子径は5um未満。※1
PM2.5の粒子径は2.5um以下で肺に影響を与える。
10um以下で下部気道(気管、気管支、肺)に侵入するので意味はありそうです。


有効性の比較

リレンザ、イナビル、タミフルに関しては基本的に有効性に差はないと効きますが、具体的にはどういった状況でしょうか。
インタビューフォーム等にある臨床試験結果をみてみます。

イナビルとタミフルの比較※2

・成人において、イナビル334名、タミフル336名のランダム比較試験。軽減までの時間はイナビルがタミフルと非劣勢。(有意差なし) 非盲検?

・小児(3-9歳)におけるランダム二重盲検比較では、イナビルのほうが軽減までの時間が早かった。(有意差あり、イナビル61名、タミフル62名 軽減までの中央値56.4時間vs87.3時間)

・10-19歳においては有意差なし

ただし、イナビル、タミフル、プラセボでのランダム二重盲検比較において、平熱にまで戻る時間に有意差はなかったとの結果もある。(台湾の臨床試験)

試験結果が割れておりますが、イナビルはタミフルと非劣勢以上といったところでしょうか。


リレンザとタミフルの比較

・B型インフルエンザに対しては、リレンザのほうが解熱までの時間が早かったとする。※3

・メタ解析において、インフルエンザの症状軽減までの時間をリレンザでは0.6日(14.4時間)、95%信頼区間0.39-0.81日(9.36-19.44時間)短縮。一方のタミフルは16.8時間(95%信頼区間8.4-25.1)短縮したとの報告がある。※5(2剤の直接比較ではないため有意差等はないが、軽減までの時間短縮は同程度と考えられる。)



タミフルとゾフルーザの比較

・ゾフルーザ(375名)はタミフル(377名)との二重盲検比較において、有効性は同等とされている。(有意差なし)※4

・ゾフルーザはウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間が短いことが報告されているため、ゾフルーザのほうが速効性、周囲への感染予防効果が高いとの推測がされているが、臨床試験の結果からはそのようなことはみられていない。※6

・その他インタビューフォームに記載のある第2相、第3相臨床試験は、18年7月にNEJM誌に記載され、有効性、安全性はタミフルに非劣勢とされている。



有意差が付いている場合もありますが、基本的には有意差なしとする結果が大半でした。



耐性ウイルスについて

タミフル、リレンザ、イナビルの耐性ウイルス状況についてはこちら参照。


ゾフルーザの添付文書には以下の記載がある。

"4.耐性 12歳未満の小児を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,本 剤が投与された患者で,投与前後に塩基配列解析が可能であった77 例中 18 例(いずれも A 型インフルエンザウイルス感染症患者)にバロキサビル マルボキシル活性体の結合標的部位であるポリメラーゼ酸性蛋白質領域のI38のアミノ酸変異が認められた。成人及び 12 歳以上の小児を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験において,本剤が投与された患者で,投与前後に塩基配列解析が可能であった370 例中36例(A型インフルエンザウ イルス感染症患者)にI38のアミノ酸変異が認められ,そのうち1例は A 型及び B 型インフルエンザウイルスの重複感染患者で,両型においてI38 のアミノ酸変異が認められた。また,いずれの臨床試験においても,本剤投与中にI38のアミノ酸変異を検出した患者集団では,本剤投与から3日目以降に一過性のウイルス力価の上昇が認められた"


ゾフルーザの作用点は変異による耐性獲得が起こりやすいのでしょうか。
このため、全体ではウイルス量が早期に減るのかもしれませんが、生き残りは変異しているウイルスかもしれないので、ゾフルーザがどんどん効きにくくなる可能性も否定できない。(ただし、現時点で変異株が周囲に感染するか不明。※6)

ので、ゾフルーザの処方に対して慎重な医療機関もあるようです。



日本感染症学会は以下のようにまとめている。※6

"変異ウイルスは、 Baloxavir に対する感受性が50倍程度低下するが、臨床効果への影響、周囲への感染性は、 現在のところ不明である。今後の臨床症例を蓄積して、当薬剤の位置づけを決めていく必要がある。"

結局のところ、いろいろ騒がれていますが、わからないから経過観察ということですね。



抗インフルエンザ投与の是非

そもそも論で、インフルエンザの際に抗インフルエンザ薬は必要なのかということもよく見る議論。

必要ないとする理由としては、抗インフルエンザ薬投与によるメリットは解熱が0.5~1.5日短縮されるのみであるから。
こちらのメタ解析ではタミフル投与は吐き気、嘔吐の増加も見られている。※5

入院リスク、肺炎リスクを減少させるというメタ解析が多い一方で、その逆に入院リスクを若干増加させてしまったとするメタ解析も1件あり。
さらに、吐き気、嘔吐に関しては検討されている2件のメタ解析で増加している。※7

患者さんの価値観と相談といったところでしょうか。
(重症化リスクのある場合ではまた変わってくるので注意)


まとめ

有効性
タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザ間で現時点で大差はないと考えられる。

安全性
タミフル:吐気、嘔吐のリスク増加
ゾフルーザ:変異株の増加リスク(現時点では不明)

投与年齢
タミフル:新生児~
リレンザ、イナビル:最低でも吸入できる年齢
ゾフルーザ:現時点では症例数が少なく乳児以下安全性不明


※1 リレンザインタビューフォーム
※2 イナビルインタビューフォーム
※3 B型の流行に留意を、治療薬にはリレンザを推奨 国立病院機構九州医療センター名誉院長・柏木征三郎氏に聞く日経メディアル 2012/3/2 
※4 ゾフルーザ錠インタビューフォーム
※5 Health Technol Assess. 2016 May;20(42):1-242.  
※6キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 (Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor) Baloxavir marboxil(ゾフルーザ®)について 日本感染症学会
※7「抗インフルエンザ薬が効く」とはどういうことか 日経DI 2017/12/29

 2018年1月1日

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