呼吸器疾患に対する抗生剤の必要有無

抗生剤投与が必要な小児呼吸器疾患

小児の呼吸器疾患

主な感染性呼吸器疾患としては急性気道感染(いわゆる風邪)として急性咽頭炎、急性鼻副鼻腔炎、急性気管支炎細気管支炎肺炎、クループ、インフルエンザなどがある。



急性気管支炎

ウイルスが90%以上を占め、残りの5%~10%は百日咳菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ等であるとのこと。

基礎疾患がない場合、通常抗生剤は不要だが、小児の場合、肺炎への移行の可能性も考慮して、患者を経時的に診るという視点とされている。(小児の場合、マイコプラズマによる気管支炎のうち、10%が肺炎に移行するとの報告もある)

急性気管支炎では平均17.8日咳が継続するとの報告あり。基本は抗生剤不要で完治する。
数週間続く咳に関してはマクロライド系の有用性が報告されている。

発熱(38度以上)、頻脈(100回/分異常)などのバイタルサインの異常がある場合は肺炎を考慮しレントゲンを行う。

百日咳菌の場合マクロライド系が第一選択となる。
(クラリスロマイシン、エリスロシンは適応あり、アジスロマイシンは適応なし)

急性咽頭炎

大部分がウイルス性で、一部が溶連菌(β溶血性連鎖球菌)。
様々な報告があるが、咽頭炎のうち小児では17%、成人では10%が溶連菌との報告がある。

溶連菌以外は抗生剤不要。

咽頭炎のうち、今まで味わったことのない喉の痛み、飲み込めない、開口障害がある場合は急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍などの重篤な疾患の場合があるため注意。


急性鼻副鼻腔炎

急性ウイルス性上気道感染症のうち、急性細菌性鼻副鼻腔炎を合併する症例は2%未満と報告されている。

細菌性鼻副鼻腔炎が疑わしい場合でも、抗菌薬投与の有無に関わらず、1週間後には約半数が、2週間後には約7割の患者が治癒することが報告されている。

ACP/CDCの指針では、急性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬の適応は、症状が10日間を超える場合や重症例の場合(39℃以上の発熱がある場合、膿性鼻汁や顔面痛が3日間以上続く場合)、典型的なウイルス性疾患で症状が5日間以上続き、 一度軽快してから悪化した場合に限定されている。

抗生剤を投与する場合はアモキシシリンを第一選択とし、7日~10日投与する。

よくセフェム系やマクロライド系が投与されているのを見るが、アモキシシリンに勝るとするRCT等はないとのこと。


肺炎

下記に詳細記載


※クループ、インフルエンザ、細気管支炎は抗生剤不要。



以下急性気道感染症に対する抗生剤の必要有無について。




ここからは肺炎についての詳細。

肺炎治療の基本方針(小児)

肺炎の重症度および原因微生物を考慮したエンピリック療法が基本である.

・年齢と重症度によって原因微生物が異なるので、年齢と重症度を考慮して抗微生物薬の必要性と抗微生物薬の選択を行う。

・臨床症状、身体所見、検査所見、X線所見などを参考にして、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、 非定型肺炎かを鑑別し総合的に判断する。

・近年、肺炎球菌(S.pneumoniae)、インフルエンザ菌(H.influenzae)、モラキセラ(M.catarrhalis)、マイコプラズマなど肺炎の原因微生物の薬剤耐性株が増加してきた。

肺炎球菌が最も病原性が強いので、肺炎球菌をカバーできる抗微生物薬療法を考慮する必要がある。

肺炎の原因菌

肺炎の原因菌の分布は年齢によって差がある。


日本の洗浄喀痰培養に基づく原因微生物検索データでは、

2歳未満:細菌性肺炎、ウイルス性肺炎が多い
2~6 歳:細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、非定型肺炎が同程度
6歳以上:非定型肺炎が最も多い


肺炎小児は、多くの場合、原因微生物が特定できないまま治療開始となる。

原因菌となる細菌、年齢を考慮し、ガイドラインには以下のように記載されている。

第一選択薬(耐性菌リスクなし、エンピリック療法)

生後2カ月~5歳:ペニシリン系
5歳以上:クラリスロマイシン、アジスロマイシ


肺炎球菌による肺炎

推奨:アモキシシリン

・肺炎球菌に関して呼吸器感染症ではあまり耐性が問題にならない。常用量の合成ペニシリン系薬(AMPC,ABPC)で対応可能である。

・治療に関しては、従来髄膜炎治療を想定した耐性基準が設けられてきたが、2008年1月に米国臨床検査標準化委員会(CLSI)のS.pneumoniae薬剤感受性判定基準が改訂され、 髄膜炎以外では、PCG-MICおよびAMPC-MIC2μg/mLまでは感受性と規定された。現在原因微生物 として分離されるS.pneumoniaeの感受性はほとんどPCG-MIC2μg/mL以下である。


インフルエンザ菌による肺炎

推奨:アモキシシリン
※BLNARの場合3、4世代セフェム系

以下感染症治療ガイドライン(呼吸器感染症)より

・米国臨床検査標準化委員会(CLSI)のインフルエンザ菌のABPC耐性の基準は,微量液体希釈法にて1μg/mL以下は感性、2μg/mLは中間、4μg/mL以上は耐性と規定されている。

・特に2μg/mLの中間感受性H.influenzaeによる急性気管支炎、肺炎はいずれも、AMPC内服、ABPC静注で対応可能である.

・最近,ABPC感受性の年毎の低下傾向がさらに進み、4μg/mL以上のBLNARの割合が増加し、治療薬選択の面で問題になってきている。BLNARの関与が疑われる場合には、外来治療では高用量のAMPC あるいは新経口セフェム系が必要と考えられる。

モラキセラ・カタラーリスによる肺炎

推奨:アモキシシリン

以下感染症治療ガイドライン(呼吸器感染症)より

・M.catarrhalisはβ―ラクタマーゼを産生するが、臨床経過を検討するとAMPCは有効である。

・M.catarrhalisの産生するβ―ラクタマーゼの酵素活性が低いことに起因している。


マイコプラズマ肺炎治療

推奨:マクロライド系薬 

以下感染症治療ガイドライン(呼吸器感染症)より

・マクロライド系薬の効果は、投与後2~3日以内の解熱で概ね評価できる。

・マイコプラズマ肺炎の治療に関しては、近年のマクロライド耐性M.pneumoniaeの増加を考慮する必要がある。

・マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である。

抗生剤の投与期間

一般細菌:3~7日
 非定型:7~14日

以下感染症治療ガイドライン(呼吸器感染症)より

・治療期間市中肺炎に対する抗微生物薬の投与は,通常3~7日間程度で十分であり、効果判定は2~3日後に行う。

・小児は、病状の進行が速いことが多く、最初の判定は年少児や重症例については、3日目よりも2日目に行う方がよい。

・臨床症状や検査所見の改善を認めれば、抗微生物薬と薬剤感受性が判明するまでは、同じ抗微生物薬を継続する。

・抗微生物薬の投与期間について個々の症例で原因微生物や患者背景などの因子が異なるため、画一的な基準は困難である。


・一般細菌では、おおむね解熱後3日を目安に抗微生物薬投与を中止することが可能である。 しかし、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の肺炎ではさらなる期間の抗微生物薬投与が必要である。

・M.pneumoniaeやクラミジア(Chlamydophilapneumoniae)などでは増殖のスピードが遅いため、治療期間も長くなる.

※マイコプラズマ、クラミジア肺炎の治療に使用するおもな抗微生物薬の投与期間
エリスロマイシン14日 、クラリスロマイシン10日 、アジスロマイシン3日 、トスフロキサシン7~14日 、ミノサイクリン7~14日


参考
感染症治療ガイドライン 呼吸器感染症
抗微生物薬適正使用の手引き 第1版
 2018年5月24日

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