透析患者に対して心房細動による脳梗塞予防にワーファリン投与は行うべき? DOACは投与可能?
ワーファリンは肝代謝(尿中未変化体排泄率2%未満)だが、半減期が長く、透析患者においては血中濃度上昇がみられるため添付文書上は禁忌とされている。
しかし、他に投与できる抗凝固薬はなく、ワーファリンが投与されることはある。
透析患者へのワーファリン投与は賛否あるようなのでいくつか調べてみた。
2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
心房細動の項目に、以下のように記載されている。
”維持透析導入後の患者においても安易なワルファリン治療は行わないことが望ましい.透析患者にワルファリンを投与することは,出血を増やすのみならず,塞栓症をも増やす可能性が指摘されている.そのため,日本透析医学会では,維持透析導入後の患者に対するワルファリン投与を原則禁忌としている.本ガイドラインにおいても,維持透析導入後の患者に対するワルファリン投与は原則禁忌として扱う.ただし,心房細動アブレーション周術期にはワルファリンの使用は一般的であり,また機械弁症例や脳伷塞二次予防など,症例によってはワルファリンを使用せざるを得ない場合もある.かならずしも維持透析症例へのワルファリン投与を妨げるものではない”
2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン |
日本透析医学会誌
日本透析医学より「 血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン※1」というものが出されている。
これには以下のような記載がある。
"透析患者では,心房細動の罹患率が著しく高いが,心房細動の脳卒中発症への関与については,脳梗塞のリスクが上昇するという報告と影響しないとする報告があり,結論がでていない.また,ワルファリンによる脳梗塞抑制効果に関するエビデンスはほとんどなく,むしろ,出血性合併症の危険が増加することから,使用を控えるべきとの意見が多い"
透析患者でなければワーファリンの効果は証明されていますが、透析患者ではエビデンスが少なく、確実な報告がないよう。
"血液透析に導入した41,425例を対象に,ワルファリン,クロピドグレル,アスピリンの抗血栓薬内服と死亡率の関係について検討し,抗血栓薬を服用していない患者にくらべ,いずれかの薬を服用した患者では 死亡率が有意に高かったと報告した.また,透析導入期に心房細動を合併していた1,671例を対象に,抗血栓薬と脳卒中発症の関係について検討し,ワルファリ ンの服用によって脳卒中の発症が有意に増加したことを示し,ワルファリン投与の危険性を報告した.抗血栓薬を服用していない患者の脳卒中発症率(2.9/ 100 人年)は,腎疾患のない心房細動例(4.4/100 人年)よりも低かったことから,血液透析患者では,心房細動を合併しても,血小板機能の低下や透析時のヘパリン使用により脳梗塞が発症しにくいと考えられている.また,ワルファリン治療が有益と判断し使用する場合には,出血性合併症のリスクを増加させないためにはINRを定期的に測定し,INR<2.0に維持することが重要であると強調されている"
透析患者ではそもそも心房細動があっても塞栓症をおこしにくい状態になっている可能性があるとのこと。
ただし、使用する場合のことも書いてある。
ステートメントとして、"心房細動に対するワルファリン治療は安易に行うべきではないが,有益と判断される場合にはPTINR<2.0 に維持することが望ましい(2C)"と記載されている。
→ワーファリン服用群は非服用群に比べて脳卒中発症率が1.93倍(ただしこの研究ではPT-INRコントロールが不十分であったとされている)
透析中かつワーファリン内服,透析中でワルファリン非内服,非透析中でワルファリン内服という3つの患者群に対する後ろ向きコホート研究※2
→透析患者では出血リスクが高い。また、内服による脳梗塞および脳出血の発症率に差はなかった
2,287例の心房細動を初めて診断された透析患者を平均2年追跡したコホート研究※2
→投与群と非投与群で脳梗塞の発症率は同等であったが、脳出血は投与群で有意に多かった(ハザード比 2.38)
ワーファリン投与群と非投与群のメタ解析(非ランダム化14試験、20,398例)※5
→有効性に差なし、頭蓋内出血・消化管出血・死亡に差なし
・ワーファリンと比較し、ダビガトラン、アピキサバン、リバロキサンで脳梗塞の発症は差なし。
・ワーファリンと比較し、ダビガトラン、リバロキサンで出血リスク増加、アピキサバンで差なし。
わざわざDOACを使用するメリットはなさそうですが、アピキサバンのほうが出血リスクが低かったとするメタ解析もある。※4
調べたいのはそもそも透析患者にワーファリンを投与すべきかどうかでしたが。
これには以下のような記載がある。
"透析患者では,心房細動の罹患率が著しく高いが,心房細動の脳卒中発症への関与については,脳梗塞のリスクが上昇するという報告と影響しないとする報告があり,結論がでていない.また,ワルファリンによる脳梗塞抑制効果に関するエビデンスはほとんどなく,むしろ,出血性合併症の危険が増加することから,使用を控えるべきとの意見が多い"
透析患者でなければワーファリンの効果は証明されていますが、透析患者ではエビデンスが少なく、確実な報告がないよう。
"血液透析に導入した41,425例を対象に,ワルファリン,クロピドグレル,アスピリンの抗血栓薬内服と死亡率の関係について検討し,抗血栓薬を服用していない患者にくらべ,いずれかの薬を服用した患者では 死亡率が有意に高かったと報告した.また,透析導入期に心房細動を合併していた1,671例を対象に,抗血栓薬と脳卒中発症の関係について検討し,ワルファリ ンの服用によって脳卒中の発症が有意に増加したことを示し,ワルファリン投与の危険性を報告した.抗血栓薬を服用していない患者の脳卒中発症率(2.9/ 100 人年)は,腎疾患のない心房細動例(4.4/100 人年)よりも低かったことから,血液透析患者では,心房細動を合併しても,血小板機能の低下や透析時のヘパリン使用により脳梗塞が発症しにくいと考えられている.また,ワルファリン治療が有益と判断し使用する場合には,出血性合併症のリスクを増加させないためにはINRを定期的に測定し,INR<2.0に維持することが重要であると強調されている"
透析患者ではそもそも心房細動があっても塞栓症をおこしにくい状態になっている可能性があるとのこと。
ただし、使用する場合のことも書いてある。
ステートメントとして、"心房細動に対するワルファリン治療は安易に行うべきではないが,有益と判断される場合にはPTINR<2.0 に維持することが望ましい(2C)"と記載されている。
その他の臨床試験
1,671例の心房細動を有する透析患者、平均1.6年間追跡※2→ワーファリン服用群は非服用群に比べて脳卒中発症率が1.93倍(ただしこの研究ではPT-INRコントロールが不十分であったとされている)
透析中かつワーファリン内服,透析中でワルファリン非内服,非透析中でワルファリン内服という3つの患者群に対する後ろ向きコホート研究※2
→透析患者では出血リスクが高い。また、内服による脳梗塞および脳出血の発症率に差はなかった
2,287例の心房細動を初めて診断された透析患者を平均2年追跡したコホート研究※2
→投与群と非投与群で脳梗塞の発症率は同等であったが、脳出血は投与群で有意に多かった(ハザード比 2.38)
ワーファリン投与群と非投与群のメタ解析(非ランダム化14試験、20,398例)※5
→有効性に差なし、頭蓋内出血・消化管出血・死亡に差なし
DOAC、ワーファリンの比較
透析患者にDOAC、ワーファリン投与した場合の脳梗塞及び出血リスクに関するシステマティックレビュー※3があったので見てみると以下のような結果となっていた。
・ワーファリンと比較し、ダビガトラン、アピキサバン、リバロキサンで脳梗塞の発症は差なし。
・ワーファリンと比較し、ダビガトラン、リバロキサンで出血リスク増加、アピキサバンで差なし。
わざわざDOACを使用するメリットはなさそうですが、アピキサバンのほうが出血リスクが低かったとするメタ解析もある。※4
調べたいのはそもそも透析患者にワーファリンを投与すべきかどうかでしたが。
ワーファリンの投与を考慮すべき透析患者
有益と判断される場合は投与されるのでしょうけど、どのような患者さんに投与すべきなのでしょうか。
肝代謝のワーファリンがなぜ透析患者で出血リスクが高くなるのか
腎機能が低下した患者や透析患者ではPT-INRが不安定になってしまう。これはCYP2C9活性の低下を介して、ワルファリン光学異性体比が変化するためと推察されているそうです。※2
まとめ
透析患者へのワーファリン投与は有効性・出血リスク増加ともに明確ではない
透析患者においてワーファリン投与は積極的には勧められない
投与する場合はPT-INRを厳格に管理
透析患者においてワーファリン投与は積極的には勧められない
投与する場合はPT-INRを厳格に管理
※1 血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン
※2 CKD患者への抗凝固療法による脳梗塞予防 脳卒中 38:449–454, 2016
※3Nephrol Dial Transplant. 2018 Mar 2. doi: 10.1093/ndt/gfy031
※4Pacing Clin Electrophysiol. 2018 Jun;41(6):627-634. doi: 10.1111/pace.13331. Epub 2018 Apr 23.
※5Can J Cardiol. 2017 Jun;33(6):737-746. doi: 10.1016/j.cjca.2017.02.004. Epub 2017 Feb 20.