アジレクトとエフピーの違い

MAO-B阻害薬2剤の比較 覚せい剤原料に該当しないアジレクトは副作用も本当に少ない?

2018年5月に薬価収載された2剤目のMAO-B阻害薬であるアジレクト(ラサギリン)はアンフェタミン骨格がないので覚せい剤原料に該当しない。

覚せい剤原料は処方以外の譲渡が禁止されており、調剤済みであっても患者さんから回収できなかったり、破棄にも立ち会いが必要。

上記を考えるとアジレクトのほうが薬局的には楽ですが、その他異なる点についてまとめてみました。

パーキンソン治療におけるMAO-B阻害薬の位置づけ※1

早期治療
有効性に関してはL-ドパ、ドパミンアゴニストにやや劣るとされているが、MAO-Bは単独投与で有効性が占められている。(エビデンスレベルⅠ)

1日1回でよく、海外では初期治療として推奨されている。(日本では単独治療が数年前まで認められていなかった)

L-ドパとの併用にL-ドパ30%増量分の効果があるとされているが、長期にわたる併用によりジスキネジアの出現が増加するとの報告がある。

進行期治療
wearing-off時の症状改善作用、時間短縮が認められている。(海外の経皮吸収製剤にてoff症状、時間短縮ともに改善がみられている)

on-offに対して有効な治療はないとされているが、セレギリンにより改善がみられたとの報告もある。※1

現在ではエフピー、アジレクトは共に単剤投与が可能であり、今後は早期治療として投与される可能性がありそうです。


基本情報

概要


適応
アジレクト:パーキンソン病
エフピー:パーキンソン病(レボドパ含有製剤を併用する場合:Yahr 重症度 ステージⅠ~Ⅳ、レボドパ含有製剤を併用しない場合:Yahr 重症 度ステージⅠ~Ⅲ)

用法
アジレクト:1㎎を1日1回経口投与
エフピー:2.5-5.0mg1回朝食後、5.0-10mg1日2回朝昼食後

代謝
アジレクト:CYP1A2
エフピー:CYP2D6,3A4

アジレクトは用量調整が一切なし。(肝機能障害、低体重、高齢者では減量考慮の記載はあり)

ドパミンの併用や増量がないので楽。

アジレクトでは空腹時血中濃度低下がみられている。
食後の指定はないが、空腹時から食後に変わる場合は血中濃度上昇がみられる可能性があるため注意が必要そう。


薬理作用の比較

どちらも選択的にMAO-Bを阻害する。(非可逆的)

MAO-B阻害の選択性の高さ(MAO-A阻害を示すIC50とMAO-B阻害を示すIC50の比較)は、アジレクトが20~90倍、エフピーが1000倍。※2,3

ラットの脳内MAO-Bを80~90%阻害する1日投与量は、ラサギリン(アジレクト)はセレギリン(エフピー)の約1/20とのこと※3で、1日投与量を考慮すればMAO-A阻害は同じくらいなのかもしれない。(吸収・分布等は無視した場合)

アドレナリンやセロトニンはMAO-Aで代謝される。
MAO-Aも阻害されてしまうと血圧上昇等の循環器障害、不安、イライラなどの精神神経症状、胃腸障害などがでてしまう。

アジレクトは肝機能障害患者においてMAO-Bの選択性の低下がみられている。
一方エフピーは10㎎を超えると選択性が低下するため1日最大投与量が10㎎までとなっている。


禁忌の比較

共通
・ペチジン、トラマドール、タペンタゾール投与中
・三環系抗うつ薬
・SSRI、SNRI、NaSSA(ミルタザピン)、ストラテラ(アトモキセチン)投与中

アジレクト
・肝機能障害(Child-Pugh分類B又はC)
・他のMAO阻害薬投与中
・四環系抗うつ薬

エフピー
・非選択的MAO阻害薬投与中
・統合失調症及びその既往歴
・覚せい剤、コカイン等中枢性興奮薬の依存及びその既往歴

※コンサータには禁忌としてエフピーの記載あり

併用禁忌ではなく、投与中止後14日まで禁止となっている薬剤も多数あるので添付文書要確認。


薬物動態の比較

アジレクトの代謝はCYP1A2、エフピーはCYP2D6、3A4のため相互作用が大きく異なってくる。

併用注意(抜粋)

アジレクト
・シプロフロキサシン(1A2阻害)
・タバコ、フェニトシン(1A2誘導)

エフピー
・シメチジン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アゾール系(3A4阻害)


その他共通事項として、チラミンの多い食品(チーズ、ワイン等)を過剰に摂取すると、MAO-Bによりチラミンの代謝が阻害されているので、血圧上昇等がみられる場合がある。


副作用の比較

アジレクトはエフピーと異なり、アンフェタミン骨格がないため中枢神経系の副作用が少ないとの期待があるようだが、現時点で2剤の直接比較はなく、添付文書に記載されている副作用は他剤の併用があったりして比較しにくい。

医療ビックデータの1つである、FDAが公開している有害事象データ(FAERS)を解析した結果によると、アンフェタミン代謝物特有の副作用がエフピーに多くみられるということはなかったとのこと。※4

どちらもドパミン製剤との併用によりジスキネジア、幻覚のリスクが高まるため注意。


※1パーキンソン病治療ガイドライン2018
※2エフピーインタビューフォーム
※3アジレクトインタビューフォーム
※4第138回日本薬学会 セレギリン、ラサギリン類のシグナル検出による副作用比較

 2018年7月2日

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