ノイロトロピンによる抗体置換法

アトピー性皮膚炎に対するノイロトロピンの有効性

先日アトピーの患者さんにノイロトロピンが処方されていた。

話を聞くと、先生からノイロトロピンでアトピーを引き起こしている抗体を追い出すといわれたそうです。

ノイロトロピンの錠剤は適応がないが、注射剤はアレルギー疾患(掻痒、アレルギー性鼻炎)に適応がある。

今まで見たことはなかったので調べてみると「抗体置換法」というものが出てきました。

抗体置換法とは

何かしらの抗原を投与し、それに対する抗体(異常を起こさない抗体)を産生させることで、アトピーを引き起こしている抗体(自己抗体)を追い出すことによりアレルギー反応をなくす方法だそうです。
(参考:渋谷塚田クリニックHP)

肥満細胞や抗体受容体をノイロトロピンで占領するとのことで、アレルギー物質(=抗原)が結合するのを阻害するとのこと。
(参考:わたなべヒ膚科・整形外科HP)

ノイロトロピンの作用

抗体置換法の理論上の作用

ノイロトロピンはワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液。
ウサギにウイルスを投与し、その時に生産された物質(非たんぱく質分画)。
成分の詳細は分かっていない。

が、上記理論だと、ノイロトロピンが抗原となり、抗体受容体に結合しておくことでその他の抗原が結合しないようにしているとのこと。

ノイロトロピンが結合してもIgEは産生されないことは証明されている。※4

ノイロトロピンは抗原抗体反応によるヒスタミン遊離を抑制するがT細胞やB細胞を直接抑制する作用はないとのこと。※2

※アレルギー反応の簡単な流れ
Th2細胞→IL-4,13分泌→B細胞が形質細胞に分化→形質細胞からIgE分泌
(ILの種類により、どの免疫グロブリンを産生する形質細胞に分化するかが決まっている。例:インターロイキン4(IL4)…IgM・IgDからIgG1やIgEへのクラススイッチ 、インターロイキン5(IL5)…IgM・IgDからIgAへのクラススイッチ)

インタビューフォーム上の記載

インタビューフォームではアレルギー抑制作用は好酸球の遊走抑制と記載されている。
”本剤の抗アレルギー作用は、好酸球の局所浸潤抑制作用及び局所の過敏性に関与するコリン作動性の神経を介した鼻粘膜ムスカリン作動性アセチルコリン受容体 (m-AChR)数の増加抑制作用が示唆されている。”

好酸球は炎症部位に浸潤し、細胞内物質(塩基性蛋白質)を放出し、細胞障害を起こしたり、ロイコトリエンの分泌等によりアレルギー症状を悪化させる※3
(塩基性蛋白質はヒスタミンを分解する作用もあるため以前はアレルギー症状の悪化を抑えるものと考えられていた。)

どちらの作用機序も考えられるのでしょうか。

アトピー性皮膚炎の病態

T細胞
炎症の初期の段階ではTh2細胞と呼ばれるリンパ球が重要であり、慢性期の炎症ではTh1細胞も関与する。 本症の炎症ではTh2やTh1細胞が産生するIL-4、IL-5、IL-13あるいはIFN-γやIL-12などのサイトカインが重要な役割を担っていると考えられている。

マスト細胞、好酸球、好中球、単球など
 マスト細胞はIgE抗体を付着して抗原と反応するとヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症性 化学伝達物質を遊離したりサイトカインを産生してアトピー性皮膚炎の炎症に関与する。好酸球 などその他の細胞も総合的に炎症に関与する。

アトピー性皮膚炎には2つのタイプがあるとの考えられており、1つはIgE抗体を産生しやすいタイプで70~80%はこのタイプといわれている。他の20~30%はIgE抗体をあまり産生しないタイプと考えられている。※1

生物学的製剤のデュピクセントはIL-4,13のシグナルを阻害することでアトピーの病態を抑制する。

ヘルパーT細胞の産生するL-4によりB細胞は刺激されIgEを産生する。
そしてIgEがマスト細胞にくっつき、そこに抗原が来るとマスト細胞からヒスタミン等のアレルギー物質が放出される。(抗原抗体反応)


アトピー皮膚炎に対するノイロトロピンの有効性

以下インタビューフォームより

“③皮膚疾患に伴うそう痒:プラセボとの比較
慢性蕁麻疹及び湿疹・皮膚炎群を対象に、プラセボとの二重盲検比較試験を実施した。湿疹・皮膚炎群における診断名の内訳は、慢性湿疹44%、皮脂欠乏性湿疹21%、アトピー性皮膚炎10%、貨幣状湿疹9%、神経皮膚炎9%、その他7%であった。
用法・用量は1日1管3.6NU、1週間に3回で2週間、計6管を筋肉内投与した。プラセボ群には5%ブドウ糖液を投与した。
併用薬剤として、慢性蕁麻疹群ではクレマスチンフマル酸塩1mg錠を1日1回就寝前に経口投与し、湿疹・皮膚炎群では0.25%ヒドロコルチゾン酢酸エステル軟膏を1日2回単純塗布した。
症状観察は計6回の投与日及び最終投与日の翌日又は翌々日を観察日として計7回実施した。全般改善度は、第1回投与日の症状と比較して、症状消失、著しく改善、かなり軽快、やや軽快、不変及び悪化の6段階とし、止痒効果を重視して判定した。
慢性蕁麻疹において、ノイロトロピン群ではかなり軽快以上がプラセボ群より高いものの、両群間に有意差が認められなかった湿疹・皮膚炎において、ノイロトロピン群ではかなり軽快以上が64%であり、プラセボ群の48%に比し有意な改善が認められた。”


皮膚疾患に対して有効性はあるようですが、なぜ抗体置換と言われているのかはよくわかりませんでした。

まとめ

ノイロトロピンの作用
①抗原となり抗体受容体を占領=抗体置換:明確にはわかっていない?
②好酸球の浸潤抑制:薬理データあり

皮膚疾患に対する有効性は臨床試験である程度証明されている。

※1 日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎Q&A
※2 The Japanese Society of Allergology 1980年 29巻 7 号 p.412-
※3日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)125 265-270  (2005)
※4 ノイロトロピンインタビューフォーム

 2018年8月3日

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