ハルナール、ユリーフ、フリバスの比較

α遮断薬、5α還元酵素阻害薬、植物由来成分(エビプロスタット、セルニルトン)の有効性

前立腺治療において、有効性が高く高頻度に用いられる薬剤としてα遮断薬の3種類(ハルナール、ユリーフ、フリバス)、5α還元酵素阻害薬のアボルブがある。

今回はガイドラインを中心にどのように使い分けがされているか調べてみました。
(基本的には※1ガイドライン抜粋)

前立腺肥大の概要


前立腺の平滑筋の緊張はアドレナリン作動性神経系により調節されている。

その受容体は主にα1であり,遺伝子レベルではα1A,α1B,α1Dの3つのサブタイプに分類される。

ヒト前立腺ではmRNAの量でα1a63%,α1d31%,α1b6%とα1aが多く,肥大した前立腺ではα1a85%,α1d14%,α1b1%とさらにα1aの割合が多くなる。

→前立腺における受容体の分布

・α1a:85%
・α1d:14%
・α1b:1%


しかし,肥大前立腺の移行領域における各α1受容体サブタイプの分布はα1a41%,α1d49%とほぼ同率であり,α1aが優位な症例とα1dが優位な症例がほぼ半数ずつ存在するという報告もある。

→α1a遮断が効果的な人と、α1d遮断が効果的な人が半数ずついることになる。



最近のα1a遺伝子ノックアウトマウスを用いた研究により,α1a遺伝子からはプラゾシンに高親和性のα1Aと低親和性のα1Lという異なった特性を示す2つのサブタイプが発現していること,このうち前立腺や尿道の収縮に主に関与するのはα1Lサブタイプであることが明らかになった。

一方,α1D受容体ノックアウトマウスでは排尿回数の減少と膀胱容量の増大が観察されること15)により,α1Dは前立腺収縮ではなく膀胱機能に関与している可能性もある。前立腺肥大症症例から採取した膀胱平滑筋をα1受容体刺激薬で収縮させた後,α1D受容体遮断薬を負荷すると収縮が抑制される。

しかし,ヒト膀胱平滑筋ではα1dmRNAの発現が多いとはいえ,β3受容体の発現に比べるとわずかであり,またα1受容体刺激薬を投与しても収縮反応がほとんどみられないことから,α1D受容体の蓄尿機能との関係を膀胱以外の部位(脊髄など)と関連づける考え方もある。一方,ラット尿道の刺激で誘発される排尿筋過活動がα1Aとα1L受容体に比較的選択的なタムスロシンやより特異的なシロドシンにより抑制されるという報告は,前立腺肥大症の蓄尿症状がα1a遺伝子由来のα1Lサブタイプに主に起因している可能性を示唆する。

→受容体の分布
前立腺:α1a(サブタイプ:α1A<α1L)が関与=タムスロシン、シロドシン有効
膀胱 :α1d,β3が関与=ナフトピジル有効


α遮断薬

概要




タムスロシン(ハルナール) 

推奨グレード:A 

作用機序
α1A/α1D選択的α1遮断薬で,クローニングされたヒトα1サブタイプを用いた研究では,
α1Bへの親和性を1とすると,α1Aは15.3,α1Dは4.6である。

→α1A>α1D>>α1B

なので、α1A有意(前立腺肥大による症状)の患者により効果的。
RCTでも報告。※2

ナフトピジル(フリバス) 

推奨グレード:A  

作用機序
α1D/α1A選択的α1遮断薬で,α1Bへの親和性1に対し,α1Dは16.7,α1Aは5.4である。

→α1D>α1A>α1B

なので、α1D有意(膀胱収縮による症状)の患者により効果的。
RCTでも報告あり。※2


シロドシン(ユリーフ)

推奨グレード:A  

作用機序
α1A選択的遮断薬で,ヒトα1アドレナリン受容体サブタイプを用いた研究では,α1Bへの親和性1に対し,α1A 583,α1Dは10.5である。

α1A>>>α1D>>>α1B

圧倒的にα1Aを遮断。


有効性の比較(α遮断薬)

主に海外の論文を用いたメタアナリシスでは,アルフゾシン,ドキサゾシン,タムスロシン,テラゾシンは, 有効性はほぼ同等で,IPSSを30~40%,最大尿流量を16~25%改善させた。

現在わが国で使用されている薬剤についても,薬剤間の優劣は明らかでない。


副作用の比較(α遮断薬) 

概要
α1遮断薬の主な副作用は,起立性低血圧(めまい),易疲労性,射精障害,鼻づ まり,頭痛,眠気などである。

上記3つのα1遮断薬は前立腺特異性が高く,血管作動性の副作用は一般に少ない。

眩暈、立ちくらみ
国内の比較検討において,起立試験陽性率はナフトピジルとタムスロシンで各々55.0%と 20.0%であった(p<0.05。
→ナフトピジルのほうがめまい、立ちくらみ等が出やすい可能性あり

射精障害
射精障害の発現率は,シロドシンとタムスロシンで各々22.3%と1.6,タムスロシンとナフトピジルで各々16.7%と7.4%(有意差なし)とされている。
→射精障害:シロドシン>タムスロシン≒(≧)ナフトピジル

その他位注意
術中虹彩緊張低下症候群(intraoperative floppy iris syndrome: IFIS)とは,α1遮断薬服用中の患者の白内障手術中に,水流による 虹彩のうねり,虹彩の脱出・嵌頓,進行性の縮瞳を3主徴とする虹彩の異変が生じることである。一般の発症頻度は1.1% であり,タムスロシンとナフトピジ ルで各々43.1%と19.0%という報告がある。白内障手術を予定している患者および眼科医には注意を喚起する。



5α還元酵素阻害薬

デュタステリド(アボルブ)  

推奨グレード:A  

作用機序
デュタステリドは5α還元酵素(type 1 と type 2)の両者を阻害し, 生化学的にはジヒドロテストステロンの産生をほぼ完全に抑制する。 

デュタステリドは血清PSA値に対して影響を与える(約 50% 減少)。
投与前と投与中は定期的なPSA測定とあわせて前立腺癌の評価を行うことが必要。

前立腺の肥大化に関わるジヒドロテストステロンの産生を抑えるため、前立腺肥大の明確な患者(30ml以上)に有効


副作用
肝機能障害、乳房障害の頻度やや高め
めまいや立ちくらみは問題にならない

α遮断薬との併用

併用治療が各々の単独治療より有効とする根拠が十分あり,前立腺体積が30mL以上などの比較的重症な症例に対して推奨される。

詳細はガイドラインCQ7参照。



植物由来製剤

エビプロスタット

推奨グレード:C1

作用機序
抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用、排尿促進(尿道抵抗改善、膀胱平滑筋緊張)※3


有効性
有効性を支持する根拠は認めるが,古い研究であり,α1遮断薬に比べて効果は劣る。

ただし,近年,α1遮断薬との併用にて有用との報告を認める。
タムスロシンを使用しても骨盤部不快感がある症例やナフトピジルに抵抗性症状を示す症例に本剤を追加すると症状が改善したとされる。

セルニルトン

推奨グレード:C1  

作用機序
抗炎症作用、排尿促進(尿道筋弛緩、膀胱平滑筋緊張)、前立腺肥大抑制※4

有効性
夜間頻尿などの症状に対する有効性は示唆されているが,他覚的所見の改善効果は認められない。

副作用は少ない。  

プラセボやと比較し夜間頻尿への効果が示唆されているが,尿流量,残尿量への改善効果はない。

慢性非細菌性前立腺炎,慢性骨盤痛症候群に対する有用性を示す報告がある。


その他の薬剤

ホスホジエステラーゼ阻害薬

タダラフィル(ザルティア)
エビデンスレベル1、推奨グレードは保留(ガイドライン作成時保険適応外)

尿道や前立腺の平滑筋もNOを介して弛緩するので,下部尿路症状を改善する

タムスロシン単独投与とタムスロシンとタダラフィルの併用投与を比較し,併用投与で IPSSおよび QOLスコアの有意な改善を認めた。


まとめ

排尿障害治療
α遮断薬(前立腺症状:ユリーフ、ハルナール 膀胱症状:フリバス)が有効
※今後のエビデンスでザルティアも?

前立腺肥大治療
5α還元酵素阻害薬(アボルブ)が有効

併用療法(α遮断薬がベース)
α遮断薬+ザルティア=単剤より有効
α遮断薬+アボルブ=重症例に有効
α遮断薬+エビプロスタット=単剤よりたぶん有効


※1 前立腺肥大症診療ガイドライン  
※2 宮前公一,木谷公亮,宮本健次,中熊健介,濱田泰之,山本敏廣,寺崎 博,前原昭仁,中村 武利,中神正巳,川野 尚,大塚芳明,大塚知博,瀬戸浩司.α1遮断薬の早期治療効果の検討 -患者評価を主体とした比較研究.泌尿外科 2009; 22: 1541–1548
※3 エビプロスタット添付文書
※4 セルニルトン添付文書

 2018年8月21日

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