HIF-PH阻害薬の比較

腎性貧血の経口剤HIF-PH阻害薬5剤(エベレンゾ、バフセオ、ダーブロック、マスーレッド、エナロイ)の比較

腎障害になると、腎臓でのエリスロポエチン産生量が低下することで腎性貧血となる。

エリスロポエチン製剤は注射剤であり、投与経路は透析患者の場合透析経路からの静脈内投与、CKD患者では皮下注射となっている。

HIF-PH阻害薬は経口剤であり、エリスロポエチン製剤にとって代わるのではないかと期待されており、ここ最近処方も多くみるようになってきた。

短期間で何種類も販売されたので整理。



HIF-PH阻害薬について

作用機序

HIF-PH:低酸素誘導因子(HIF)-プロリン水酸化酵素含有タンパク質(PH)の略。

HIF:細胞への酸素供給が不足すると産生される転写因子。
血管新生や造血反応など様々な遺伝子発現に関与するのだが、そのうちの1つにエリスロポエチンの産生がある。※1

このHIFは通常PHによってすぐ分解されてしまう
HIF-PH阻害薬はHIF-PHを阻害することで、HIFの分解を抑制し、エリスロポエチンの産生を増やすことができる。


HIF-PH阻害薬の効果は、人間が酸素が薄い場所(高地)にいった際に体内で起こるメカニズムと一緒とのこと。

HIFの鉄利用能改善作用

ESA製剤を使用していても貧血が改善しない(ESA抵抗性)症例が存在する。

原因は様々であるため精査が必要になることもあるが、鉄利用能の低下が原因である場合が存在する。

HIF-PH阻害薬には鉄輸送の改善、吸収促進、再利用促進などを介した鉄利用能改善効果があるとされており、EPA抵抗性でも効果がみられる場合がある。※4



HIF-PH阻害薬の発売状況


2021年7月現在、以下の5成分が薬価収載されている。

ロキサデュスタット(アステラス):2019年11月発売(商品名エベレンゾ)
バダデュスタット(田辺三菱):2020年8月発売(商品名:バフセオ)
ダプロデュスタット(グラクソ):2020年8月発売(商品名:ダーブロック)
モリデュスタット(バイエル):2021年4月発売(消費名:マスーレッド)
エナロデュスタット(鳥居):2020年12月発売(商品名:エナロイ)


基本情報の一覧比較

各添付文書、インタビューフォームから作成

ここから各薬剤について。

有効性についてはそれぞれを直接比較していないので不明。
どれもESA製剤と同等。
患者の状態(ESA抵抗性)、アドヒアランス等も考慮し、ESA製剤かHIF-PH阻害薬を選択していくことになるよう。

注:以下「ESA使用」とは、いままでESAを使用していた患者が切り替える場合を示しており、併用という意味ではないです。(ESAとHIF-PHの併用データは現在なし、推奨されない※3)

エベレンゾ(ロキサデュスタット)

用法が週3回(2~3日おき、1週間に3回)で使いにくい印象。

開始用量は2パターン 
・ESA使用者:70mgまたは100mg(切り替え前ESAの投与量で判断)
・ESA未使用者:50mg
※透析有無によらない。

食事の影響は受けない(食後でCmaxは20%低下したが、AUCは変化なし)

一部のリン吸着剤および陽イオンにより吸収低下するため透析患者等は要注意。


バフセオ(ダバデュスタット)

透析の有無やESA製剤の使用・未使用に関わらず、開始用量は300mgのみで分かりやすい。
(臨床試験もESA使用・未使用どちらも開始は300mgで実施、その後150mg単位で調整し、1日用量として150~600mgで調整

食事によりTmaxの延長は見られているが、AUCはほぼ変化なし。


ダーブロック(ダプロデュスタット)

開始用量は2パターン
・非透析CKDでESA未使用:2mg(Hb≧9)または4mg(Hb<9)
・非透析CKDでESA使用、透析(ESA無関係):4mg

相互作用が少なく、食事の影響もほぼないため用法の指定もなし。
多剤併用の透析患者では使いやすそう。

ただ、クロピドグレルによりダーブロックのAUCが、クロピドグレル非併用例に比べて1.75~2.65倍と報告されている。
しかし、投与4週時のヘモグロビン変化量の分布は重なっており、クロピドグレルの併用有無による投与初期のヘモグロビン変化への影響はみられなかったとなっているので、Hb見ながら用量調整する薬剤であることを考えるとそこまで問題にもならなそう。


マスーレット(モリデュスタット)

用法が食後指定のため注意。
※食後は空腹時と比べ、Cmax、AUC低下、Tmax延長=空腹時だと効果増強してしまうかも。

開始用量が3パターン
・非透析CKDでESA未使用:25mg
・非透析CKDでESA使用:25mgまたは50mg(切り替え前ESAの投与量でどちらか判断)
・透析(ESA無関係):75mg


エナロイ(エナロデュスタット)

開始用量は2パターン
・非透析CKDおよび腹膜透析:2mg
・血液透析:4mg

エナロイの開始用量は、腹膜透析については非透析と同じほうに入るため注意。

用法は空腹時(食前、寝る前)となっているが、エナロイの食事の影響を調べた試験では100㎎と通常の25倍の量で行われているので、正直それをもとにして空腹時指定にすることに意味があるか不明。



HIF-PH阻害薬の副作用

悪性腫瘍について

HIF-PH阻害薬の副作用として心配されているのが、HIFによる血管新生に関連する副作用。

先ほど記載したように、HIFは血管新生に関するVEGFの産生も促進してしまう可能性がある。

VEGF(血管内皮細胞増殖因子)はがん細胞の増殖、糖尿病性網膜症における異常血管新生の進行、リウマチの炎症等に関与しているため、HIF-PHによりこれらの疾患が発生・進行するのではないかと心配されている。

現時点ではがんの発現頻度を高めたというエビデンスはないが、長期的な安全性は不明。

血栓塞栓症について

添付文書には警告として血栓塞栓症の記載がある。

急激な血球増加によるものと考えられている。
各添付文書にはHb値の単位期間あたりの変化量に応じて減量・増量の基準が書いてあるため要注意。

虚血性心疾患,脳血管障害や末梢血管病(閉塞性動脈 硬化症や深部静脈血栓症など)のある患者については, そのリスクを評価したうえで適応の可否を慎重に判断する※3とされている。


腎性貧血と鉄剤投与について

腎性貧血とは,腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチンが産生されないことによって引き起こされる貧血であり、貧血の主因が腎障害以外に求められないもの。

貧血を合併するCKD患者は鉄欠乏・鉄過剰となることがあるため定期的な鉄評価を行う必要がある。
鉄欠乏や鉄過剰を診断する検査法は確立していないが、血清フェリチン、TSATの測定を推奨している。
経口鉄剤は貯蔵鉄量を確認しながら100~200mg/日を投与する。※2

鉄補充を考慮すべき基準は?

HIF-PH阻害薬自体によって鉄の利用障害が改善されるため,フェリチン<100 ng/mL または TSAT<20 % HIF-PH阻害薬使用中の鉄補充のカットオフに設定することが妥当と考えられる。※3

HIF-PH阻害薬に限らず、造血能力だけ上がっても鉄がなければ意味がない。「添付文書上も造血には鉄が必要であることから、鉄欠乏時には鉄剤の投与を行うこと」と記載されている。

注意:HIF-PH阻害薬開始時に急激に造血が亢進することで, TSAT やフェリチンが著しく低下する症例がある。


ドーピング対象薬剤?

作用機序的にドーピングに引っ掛かりそうなので検索。

Global DROの検索ではまだ表示されませんでしたが、禁止表国際基準という世界アンチドーピング機構が策定している禁止薬物一覧には記載あり。

日本語版抜粋
”以下の物質および類似の化学構造又は類似の生物学的効果を有する物質は禁止される。
1. エリスロポエチン(EPO)および赤血球造血に影響を与える因子 以下の物質が禁止されるが、これらに限定するものではない: 1.1 エリスロポエチン受容体作動薬 ダルベポエチン(dEPO);エリスロポエチン(EPO); EPOの構造に基づいて作製された化合物[EPO-Fc、メトキシポリエチレングリコール-エポエチン ベータ(CERA)等]; EPO模倣ペプチドおよびそれらの作製された化合物[CNTO-530、ペギネサタイド等]等 1.2 低酸素誘導因子(HIF)活性化薬 コバルト;ダプロデュスタット(GSK1278863);IOX2;モリデュスタット(BAY 85-3934); ロキサデュスタット(FG-4592);バダデュスタット(AKB-6548);キセノン 等 1.3 GATA阻害薬  K-11706 等 1.4 形質転換成長因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害薬 ラスパテルセプト;ソタテルセプト 等 1.5 内因性修復受容体作用薬 アシアロEPO;カルバミル化EPO(CEPO)等”

まとめ

開始用量がが透析(血液、腹膜)、ESAからの切り替えおよび投与量、Hb値によりそれぞれの薬剤は大きく異なるため初回注意。

投与中はHb値に合わせて用量調整が必要。添付文書上2~4週間おきに確認。

相互作用が薬剤ごとに異なるため注意。

鉄欠乏(TSAT<20%、フェリチン<100)であれば鉄の補充もしっかり。


※1 日本透析医学会 2015 HIFと貧血と鉄代謝 田中哲洋
※2 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン 日本透析医学会 2015
※4 Folia Pharmacol. Jpn., 156,187~197(2021)

 2018/08/18

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