ダクチルとウテメリンの違い

切迫流産・早産に適応をもつダクチルとウテメリンの違いは? そもそも長期投与すべきでない?


妊娠16週未満ではダクチル、それ以降はウテメリンが処方されているのをよく見る。
(ウテメリンは妊娠16週未満に禁忌のため)

どちらも早産・切迫流産に適応がありますが、どのように異なるのでしょうか。
※正確にはダクチルは諸症状の改善に適応

薬理作用

ダクチル(ピベリドレート)※1

副交感節後神経末端において,アトロピン様の遮断効果をもつ。→抗コリン作用

ピペリドレート塩酸塩はアセチルコリン,バリウムイオン,オキシトシンによる収縮を顕著に抑制した。その抑制は,バリウムイオン,オキシトシンでは妊娠前期よりも 妊娠後期の方が強く,アセチルコリンでは収縮前期と収縮後期に大差はなかった。

特異な子宮収縮緩和作用がある。 :子宮体部に対しては強力であるが,頚管に対しては弱い。(子宮頚管は子宮と膣をつないでいる部分、緩んでしまうと流産の原因となる)


ウテメリン(リトドリン)※2

リトドリン塩酸塩はβ受容体に対する選択的な刺激効果に基づき c-AMP含量を増加させ,Ca2+の貯蔵部位への取り込みを促進して子宮運動抑制をきたすと考えられるとともに,膜の過分極,膜抵抗減少及びスパイ ク電位発生抑制をきたし,子宮収縮抑制作用を発揮する。→β刺激

妊娠ラット摘出子宮筋の自発運動ならびにアセチルコリン, オキシトシン,PGF2α,KCl および電気刺激による誘発子宮収縮をリトドリン塩酸塩は濃度依存的に著明に抑制。

リトドリン塩酸塩はイソプロテレノール塩酸塩, イソクスプリン塩酸塩に比し子宮筋への高い選択性を示した。



ダクチルは抗コリン作用、ウテメリンはβ刺激による子宮収縮抑制。
それとは別にオキシトシンによる収縮はどちらも抑制。
子宮頚管に対する作用についてウテメリンは記載なし。

リトドリンは子宮筋への選択性が高いとされているが、副作用を見ていくと安心できない。

禁忌の比較

ダクチル抗コリン作用があるため以下が禁忌となる。
緑内障、(前立腺肥大)、重篤な心疾患、麻痺性イレウス

ウテメリンβ刺激作用があるため以下が禁忌となる。
甲状腺機能亢進症、重篤な高血圧、重篤な心疾患、重篤な糖尿病、重篤な肺高血圧


※ウテメリンは妊娠16週未満に禁忌となっているのは、使用経験が少ないためなだけ。
そもそもウテメリンの有効性は…後述


どちらも心疾患に影響が出る可能性があるが、ダクチルは抗コリン作用=心機能抑制なので徐脈や心不全症状に注意。
ウテメリンは反対にβ刺激=心機能亢進なので高血圧、心拍数増加に注意。


エビデンス

16週未満でウテメリンは使用できないので、エビデンスもダクチルは流産、ウテメリンは早産対象のものが多い。

※日本では妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産、妊娠22週未満の出産は流産

ダクチル

切迫流産症例132例を対象としたRCTでは、切迫流産による症状(下腹部緊張感などの自覚症状)の緩和はみられたが、流産予防効果は示されなかったとされており、ガイドライン上では切迫流産に対する確率した薬物治療はないことから経過観察が基本と記載されている。※3


ウテメリン

切迫早産治療において、国外ではリトドリンよりアダラート(20週未満は禁忌)のほうが副作用が少なく、システマティックレビューでもエビデンスレベルが高いとされている。※3

欧州においては、副作用と有効性を考慮し、リトドリンの経口投与は承認が取り消されたとのこと。
また、β刺激薬を服用していた母体から生まれた児は低血糖を起こしやすいとの報告もある※3

リトドリンの点滴48時間投与により48時間までの妊娠延長効果(緊急処置)は認められているが、長期投与は推奨できないようです。


コクラン・ライブラリ

コクランには以下のシステマティックレビューがある。※4

"切迫早産後の維持療法のための経口β刺激薬投与は切迫早産を予防しない。この結論は、女性総数1,551名を対象とする13件のランダム化比較試験に基づくものである。本レビューでは、β刺激薬リトドリンおよびテルブタリンをプラセボ、無治療またはその他の陣痛抑制薬と比較したが、早産率を低下させず(8件の試験)、新生児の集中治療室への入院を要する問題を回避できなかった(2件の試験)。β刺激薬は副作用として、妊婦の心拍数を上昇させ(動悸)、呼吸数を増加、低血圧、悪心および嘔吐の発現を増加し、血糖濃度を増加させる可能性がある。"



リトドリンの使用に対してガイドライン,メタ解析では否定的、ピペリドレートも有効性は確立していない。

リトドリンのインタビューフォームにはピペリドレートとの比較試験の内容が記載されている。

"妊娠12週以後,24週未満の切迫流産患者240例を対象に, リトドリン塩酸塩の有用性をピペリドレート塩酸塩を対照薬として,多施設二重盲検法により検討した。本剤は 1回5mg, 1日3回経口投与,ピペリドレート塩酸塩は1回50mg,1日4回投与し,有効性(自覚症状改善効果,妊娠維持効果),安全性を検討した。その結果,リトドリン塩酸塩の有用性が確認された。"

ですが、上記ガイドラインやコクランの結果を見ると・・・投与する必要はどうなんでしょうか。


リトドリンの副作用報告は以下のようになっている。

2,122例中83例(3.9%),100 件に認められた。
心悸亢進(動悸)60 件(2.8%)
手指振戦14件(0.7 %)
嘔気8件(0.4%)
重大な副作用として,横紋筋融解症,汎血球減少,血清カリウム 値の低下,高血糖,糖尿病性ケトアシドーシス,新生児腸閉塞が報告。


有効性が確立しておらず、重大な副作用報告があることからあまり推奨できないのでしょう。

hCG製剤や黄体ホルモン製剤も切迫流産に使用されるが、メタ解析でその予防効果を十分に示したエビデンスはないとのこと。※3


まとめ

ダクチルの切迫流産に対する有効性は不確実。
経過観察でいいいのでは?

ウテメリンの切迫早産に対する長期使用は否定的な結果が多い。
点滴48時間以内の有効性はある程度。


※1 ダクチルインタビューフォーム
※2 ウテメリンインタビューフォーム
※3 産婦人科診療ガイドライン 産科編2017
※4 Cochrane 切迫早産後の維持療法のための経口β刺激薬

 2018年10月12日

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