褥瘡に対するゲンタシン、ゲーベンの比較

褥瘡に抗生剤は使わない? 褥瘡にはなぜゲーベン? ゲンタシンは使えない?

褥瘡部位に感染がみられる場合ゲーベンクリームやユーパスタ軟膏が処方される。

ゲンタシン軟膏(ゲンタマイシン)は外傷(普通の怪我)、火傷などでは処方を見るが、褥瘡で処方されているのはみたことがない。

ゲンタマイシンはアミノグリコシド系であり、殺菌作用のある抗生剤に分類されており、効果はあるのではないかと疑問に思ったので調べてみた。

ちなみに、まず前提として褥瘡予防・管理ガイドラインには以下の記載がある。

"潰瘍面などに感染症を合併した場合には、非特異的抗菌活性を有するスルファジアジン銀などが有用である。抗生物質含有軟膏は一般に効果に乏しい"

答えが出ているような気もしますが、もう少し詳しく。

作用機序の比較

ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)
スルファジアジン銀は Sulfonamide の誘導体であるが,p-aminobenzoic acid によって競合的阻害を受けず 、いわゆるサルファ剤とは異なる作用機序を有し、銀が細胞膜、細胞壁に作用して抗菌作用を発現すると考え られている。なお,スルファジアジン銀は、体内で吸収されて薬理作用を発現するものではなく,創傷面で菌との接触により抗菌力を発揮する。※1

ゲンタシン軟膏・クリーム(ゲンタマイシン)
作用部位:感染部位において本剤に感受性を有する病原微生物に作用する。
作用機序:主な作用機序は細菌のリボゾームに結合し蛋白合成を阻害することにあると考えられている。※2

ゲンタシンはタンパク合成阻害だが、マクロライド系の静菌作用と違い、異種タンパクを合成させることで殺菌作用を示す。


どちらも殺菌作用はあるが、
ゲーベンは銀が細胞膜、細胞壁に作用:非特異的、耐性菌もできにくい
ゲンタシンはタンパク合成阻害:特異的、耐性機構もあり(修飾酵素の産生※3)

ゲーベンで耐性菌ができにくいことはin vitroの試験でも示されている。※1


作用機序より、耐性菌リスクのあるゲンタシンは褥瘡の長期使用に向いていない


ただし、ゲンタマイシンを塗布すると800ug/ml程度まで局所濃度が上昇※3するため、体積んでMICが100ug/mlあったとしても殺菌できると思われる。



褥瘡に関わる原因喜と2剤の抗菌スペクトル

褥瘡の感染に関わる主要細菌
黄色ブドウ球菌、化膿性レンサ球菌、緑膿菌※4
大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター、表皮ブドウ球菌※1


ゲーベンの抗菌スペクトル※1
スルファジアジン銀は熱傷,創傷などへの侵襲菌といわれているグラム陰性菌(クレブシエラ属,エンテロバクター属,緑膿菌),グラム陽性菌(ブドウ球菌属,レンサ球菌属)及び真菌(カンジダ属)に抗菌 スペクトルを有する。 また,多剤耐性菌に対しても良好な感受性が認められている。

ゲンタマイシンの抗菌スペクトル※2
ゲンタマイシン硫酸塩はグラム陽性菌及びグラム陰性菌に広範な抗菌スペクトルを有し、 特に緑膿菌、変形菌、セラチア、大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター及び黄色ブド ウ球菌に優れた抗菌力を示す。但し大部分の嫌気性菌(Clostridium、Bacteroides属)及 びレンサ球菌は多くの場合、本剤に感受性を示さない

原因菌的にはゲンタマイシンでも問題はなさそう。
殺菌作用自体は問題ないと思われるデータがゲーベンIFにもある。
ゲンタマイシン、ゲーベンともに同程度に菌数は減少している。

抗菌スペクトル的には問題ない


殺菌と治癒

消毒などで殺菌してしまうと常在菌も死んでしまい、治りが遅くなる。
※5には以下の記載がある。

"消毒はこの表層の細菌しか殺さず、深層の細菌には効果がありません。~中略~このため局所感染コントロールのためには、組織障害性が低い「できるだけ低濃度の殺菌剤」を、深部に浸透させるために「できるだけ長時間創面に接触させる」ことが必要です。 この条件をかなえるのは、ユーパスタ、カデックス、ゲーベンクリームだけだといわれています"



ゲーベンは褥瘡に特化しているのでしょう。
わざわざ耐性菌ができるかもしれなかったり、有効性が乏しいと報告されているゲンタマイシンを使う必要はなさそうです。


ちなみに両剤の適応は、
ゲーベン:外傷・熱傷及び手術創等の二次感染,びらん・潰瘍の二次感染
ゲンタシン:表在性皮膚感染症、慢性膿皮症、びらん・潰瘍の二次感染

用法は
ゲーベン:1日1回 創面を覆うに必要かつ十分な厚さ(約2~3mm)に直接塗布
ゲンタシン:1日1~数回患部に塗布するか、あるいはガーゼなどにのばしたものを患部に貼付


まとめ

ガイドライン的に抗生剤(ゲンタマイシン)は有効性に乏しい

耐性菌のリスクがあるゲンタマイシンをわざわざ使う必要がない

抗菌作用自体はどちらも問題ない

※1 ゲーベンクリームインタビューフォーム
※2 ゲンタシンインタビューフォーム
※3 YAKUGAYUZASSHI 131(11) 1653-1659 皮膚感染症関連菌に対するゲンタマイシンの抗菌力と突然変異耐性菌出現頻度
※4 褥瘡と感染症 https://www.kao.co.jp/pro/hospital/pdf/03/03_02.pdf
※5 在宅属層治療のエッセンス 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 
※6 褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)

 2018年10月4日

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