ネイリン、イトリゾール、ラミシールの比較

爪白癬菌の治療に使用する経口抗真菌剤3剤の比較

2018年に発売した爪白癬に使用できる経口抗真菌剤として3剤目のネイリン。

肝機能障害が少なく、食事の影響もなく、飲み方も簡単とのことで今までの2剤(イトリゾール、ラミシール)より使いやすいといった話をMRさんから聞きました。

どのくらい何が異なるのか見てみましょう。

基本情報※各添付文書より

ネイリンカプセル10mg(ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物カプセル)
用法:1日1回100mgを12週間投与
適応:爪白癬(これだけ)
禁忌:妊婦
警告:なし
代謝:CYP3A(禁忌はなし)

ラミシール錠125mg(テルビナフィン)
用法:1日1回125mg食後(適宜増減)
適応:表在性皮膚真菌症、深在性皮膚真菌症
禁忌:重篤な肝障害、血液障害(汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少等)
警告:重篤な肝障害、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少による死亡例
代謝:CYP2C9、CYP1A2、CYP3A4、CYP2C8、CYP2C19で代謝、(CYP2D6を阻害)

イトリゾールカプセル50mg(イトラコナゾール)
用法:1回200mg1日2回食直後を1週間+休薬3週間休薬=1サイクル。3サイクル行う。
適応:表在性皮膚真菌症、深在性皮膚真菌症
禁忌:重篤な肝疾患(現病、既往)、妊婦、コルヒチン投与中の肝・腎障害患者、併用禁忌多数
警告:なし
代謝:CYP3A4(禁忌多数)
※爪白癬における用法。また、内用液は空腹時投与。(添付文書要確認)


それでは、1つずつ異なる点を見ていきます。


食事の影響と用法、投与期間

ネイリン1日1回、食事の影響がないためいつでも良い。
投与期間は12週間(≒3ヵ月)投与と決められている。


ラミシール1日1回食事の影響あるため食後。(食後投与は空腹時と比べCmaxが約1.5倍)
投与期間の記載はないが、臨床試験※1では24週投与(≒6ヵ月)
※2中の文献でも6カ月投与の比較試験について記載されているのでこのくらいが一般的なよう。
投与量に関しては適宜増減となっているが、 125mg/dayと250mg/dayで有効率に有意差が認められなかったそうです。※2


イトリゾールカプセルが食直後内用液は空腹時
投与期間はパルス療法(1週投与+3週休=4週間×3サイクル=12週間≒3ヵ月)


代謝と相互作用

ネイリン
併用注意:CYP3Aの基質(シバスタチン、ミダゾラム)、ワーファリン(他のアゾール系でワーファリンの濃度上昇したため)

ラミシール
併用注意:CYP3A4阻害薬(シメチジン、フルコナゾール)、CYP誘導薬(リファンピシン)、CYP2D6の基質(イミプラミン、ノルトリプチリン  アミトリプチリン マプロチリン デキストロメトルファン)、LEP製剤、シクロスポリン

イトリゾール
併用禁忌:CYP3A4の基質(ピモジド、キニジン、ベプリジル、トリアゾラム、シンバスタチン、アゼルニジピン、ニソルジピン、エルゴタ ミン、ジヒドロエルゴタミン、エルゴメトリン、メチル エルゴメトリン、バルデナフィル、エプレレノン、ブロナンセリン、シルデナフィル、タダラフィル、アスナプレビル、バニプレビル、スボレキサント、イブルチニブ、チカグレロル)、P糖タンパクの基質(アリスキレン、ダビガトラン)、CYP3A4とP糖タンパクの基質(リバーロキサバン、リオシグア)
併用注意:多すぎるので添付文書参照

オレンジ:その薬剤の血中濃度上昇
グリーン:抗真菌剤の血中濃度上昇
ブルー:抗真菌剤の血中濃度低下



肝機能に対する影響

ネイリン
慎重投与:肝障害を有する患者
重要な基本的注意:肝機能障害があらわれることがあるので、肝機能検査を行うなど観察を十分に行うこと→必須ではない
副作用発現:承認時臨床試験101例中、γ-GTP増加16例(15.8%)、ALT(GPT)増加9例(8.9%)、AST(GOT)増加8例(7.9%)、及び血中Al-P増加2例(2.0%)

ラミシール
警告:重篤な肝障害の報告、定期的に肝機能検査
禁忌:重篤な肝障害のある患者
使用上の注意:随伴症状に注意し、定期的に肝機能検査
慎重投与:肝障害のある患者
重要な基本的注意:投与開始後2ヵ月は月1回の肝機能検査。その後も定期的に→必須※7
副作用発現:市販後使用成績調査6,929例中、肝障害・肝機能異常等の肝胆道系障害106件(1.53%)、γ-GTP上昇72件(1.04%)、ALT(GPT)上昇51件(0.74%)、LDH上昇42件(0.61%

イトリゾール(カプセル)
禁忌:重篤な肝疾患の現症、既往歴のある患者
慎重投与:肝障害のある患者
重要な基本的注意:肝疾患の既往歴~投与中止又は慎重投与を考慮、定期的な肝機能検査が望ましい→必須ではない
副作用発現:パルス療法の臨床試験症例185例中、ALT(GPT)増加9件(4.86%)、 AST (GOT)増加、 γ-GTP増加各8件(4.32%)、 Al-P増加、 LDH増加各3件(1.62%)


肝機能関連の副作用発現率は症例数が大幅に異なるため比較しにくい。
ラミシールは肝機能障害にて死亡例がでてしまっているため、警告等注意が多いが、あとで紹介するメタ解析において、イトリゾールとラミシールの副作用に大きな差はなかったと報告されている。

重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、テルビナフィンについて以下のように記載さている。
"塩酸テルビナフィン 1997 年から我が国で使用が開始された抗真菌剤で、我が国での肝障害発症頻度などのデータは不十分である。欧米での肝障害の報告は 26,000 例の使用中に 5 例の肝障害発症の報告や、45,000~54,000例に1例の発症の報告がある。使用開始後2 ヶ月以内に発症する症例が大部分で、一部の症例 で 2~6 ヶ月の使用後に発症している。重篤な肝障害は服用 2 ヶ月以内に発症し、いずれの臨床型もあり、全身倦怠感、食思不振、褐色尿、黄疸、掻 痒感などを来す。アレルギー症状や好酸球増多を伴う症例は少なく、肝組 織には単核球や好酸球の浸潤を伴い肝炎像/胆汁うっ滞像を認め、時に肉 芽腫を伴う。2 ヶ月以上の服用後に発症する症例もあることから、原因としては、アレルギー性のものもあるが、代謝性特異体質によるものも含まれている可能性がある。~中略~ イトラコナゾールでも、1 週~9 ヶ月後 に肝障害の発症例が報告されているが多くは投与2ヶ月以降の発症である。"※6

重篤な肝機能障害の発現率はかなり確率的には低そうです。
テルビナフィンは最初2ヵ月、肝機能障害の典型的な症状に要注意。
イトラコナゾールは2ヵ月以降の発症が多い。

ネイリンは今のところ重篤な肝機能障害の報告もなく、検査も必須とされていない。
ただし、肝機能障害の報告はあるため今後の経過も要確認。


有効性の比較

ラミシールVSイトリゾール

※1には以下のように記載されている。
"イトラコナゾールとテルビナフィンの比較については,欧米でいくつかの比較試験がある.論文によって多少異なるが,テルビナフィン250mg日の方がイトラコナゾールより優れているという報告※3が多い~中略~イトラコナゾールパルス療法群の治療完了率は 91.5%(119/130 例)で,イトラコナゾール連続療法群の72.5%(50/69 例)やテルビナフィン連続療法群の 75.2%(85/113 例)に比べて有意(それぞれ P=0.003,P=0.005)に高かった"※1

前半と後半で結果が逆転している。

※3試験の投与量を見ると、テルビナフィン250㎎連日に対してイトラコナゾールはパルス療法の用量で行われている。投与期間は12or16週。
平均追跡期間54ヶ月後の再発率を見ている。

後者の試験内容は詳細不明。

まとめとして、"短期間で治療を完了したい場合はイトラコナゾールのパルス療法を,時間がかかっても高い治癒率を期待する場合はテルビナフィンの連続投与を" と記載されている。


その他の文献を検索してみました。

①長期再発率を比較した試験のメタ解析※4
解析対象:5試験、251名
比較対象:テルビナフィン連日vsイトラコナゾールのパルス療法。
結果:テルビナフィンのほうがイトラコナゾールより再発率がやや低い。


②長期再発率を比較した試験のメタ解析※5
解析対象:8試験、1181名
比較対象:テルビナフィン250㎎連日vsイトラコナゾールのパルス療法
結果:テルビナフィンのほうがイトラコナゾールより再発率が低い。
(治療期間12-16週、追跡期間36-72週、追跡期間終了時の治癒状況を比較)
副作用についても差はなし。(1試験のみでテルビナフィン群で脱落者が多かった)


先ほどのガイドラインの言う通り、治癒率はイトラコナゾールのパルス療法のほうが若干いいのかもしれませんが、長期的に再発しないのはテルビナフィンの6ヵ月投与といったところでしょうか。

ネイリンとの直接比較は今のところなさそうです。
有効率(12投与後、48週における完全治癒率)が約60%。

テルビナフィンの有効率は約70-80%との報告が多いが、24週連続投与後の値。
イトラコナゾールパルス療法の有効率は約80-90%となっている(3サイクル終了後?)
※3では58ヶ月後と超長期だが、テルビナフィンで46%、イトラコナゾールで10%となっていた。


まとめ

有効性
長期間の治癒率:ラミシール>イトリゾール ネイリン不明
短期間での治療:イトリゾール>ラミシール ネイリン不明

 
ラミシール
イトリゾール
ネイリン
用法
食後
カプセル:食直後
内用液:空腹時
指定なし
治療期間
6ヵ月
3ヵ月
3ヵ月
肝機能障害
警告あり 検査必須
開始2ヵ月要注意
検査必須ではない
2ヵ月以降注意
検査必須ではない
今のところ少ない
相互作用
多少あり
かなり多い
少ない



※1 ラミシールインタビューフォーム
※2 皮ふ真菌症診断・治療ガイドライン 日本皮膚科学会誌第119巻第5号
※3 Arch Dermatol. 2002 Mar;138(3):353-7.
※4 J Dermatolog Treat. 2012 Dec;23(6):449-52. 
※5 Indian J Dermatol. 2010 Apr-Jun;55(2):198-9.
※6 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害 厚生労働省
※7 ネイリンnavi FAQ 佐藤製薬

 2018年11月18日

関連記事