制吐薬の種類と作用部位、作用発現時間

吐気のメカニズムと制吐薬の種類 原因別の使い分け

吐き気は感染症、抗がん剤、精神疾患、めまいなど様々な疾患で起こる。

普段食べ過ぎや感染症などにより吐き気がみられる場合はドンペリドン、メトクロプラミド、モサプリドあたりが処方され、抗がん剤やがんによる吐き気の場合は中枢性の薬剤が処方される。

吐気の原因と各薬剤がどこに作用するか及びがん患者の嘔吐原因と使用薬剤について、化学療法時、オピオイド使用時、それ以外についてまとめてみました。

吐気の発症メカニズム

制吐薬適正使用ガイドライン2015(がん診療ガイドライン 制吐療法)※1及びがん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン※2に、吐き気のメカニズムとして以下の図が記載されている。
こちらはがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに記載されている図。

※VC:嘔吐中枢

抗がん剤やがんに限らず、基本的には以下の4つの経路から最終的に嘔吐中枢が刺激されることで吐き気は起こる。(+嘔吐中枢の直接刺激)

嘔吐中枢の刺激につながる4経路※2抜粋、改変

①大脳皮質からの経路
例)精神的なもの、大脳の腫瘍による直接刺激、頭蓋内圧亢進

②CTZ(化学受容器引金帯)からの経路
例)ドパミン、セロトニン等化学物質による刺激、抗がん剤、モルヒネ、ジキダリスなど薬物による直接刺激、末梢から迷走神経経由での刺激

③前庭器からの経路
例)前庭が刺激されるとAch,ヒスタミン神経経由でCTZ,VCが刺激される

④末梢からの経路
例)セロトニンや薬剤により胃、心臓、咽頭、腸など各臓器にある受容体が刺激され、迷走神経、交感神経、舌咽神経を経由して

第4脳室にある最後野は、血管が多いが血液脳関門がなく、様々な催吐性刺激を受けるためCTZと呼ばれている。

そもそも嘔吐中枢は局在性がはっきりしておらず、上記経路がいろいろ絡み合って最終的に嘔吐になるそうです。

メモ:消化管からの吐き気
ドパミン刺激→アセチルコリン減少→運動低下→内圧上昇→消化管伸展→機械的受容体刺激→迷走神経刺激→吐き気

胃粘膜障害→クロム親和性細胞よりセロトニン分泌→迷走神経刺激→吐き気


上記経路により吐き気が起こるわけなので、これらを経路をブロックすればよいことになる。


制吐薬の種類

ドパミンD2受容体遮断薬
→嘔吐中枢、CTZ、消化管のD2受容体遮断により制吐作用を示す。(上記②,④)

ヒスタミンH1受容体遮断薬
→嘔吐中枢、前庭器のヒスタミン受容体遮断。(上記③)

セロトニン5-HT3受容体遮断薬
→嘔吐中枢、CTZ、消化管の5-HT3受容体遮断。(上記②,④)

セロトニン5-HT4受容体刺激薬
→消化管の5-HT4受容体刺激により消化管運動改善(上記④を改善)

ステロイド
→明確な作用機序は不明とのこと。※2

NK1(ニューロキニン)受容体遮断
→嘔吐中枢、CTZに存在するサブスタンスPをリガンドとするNK1受容体を遮断(上記②)


各薬剤の特徴

ドパミンD2受容体遮断薬

消化管運動低下による場合はドンペリドン、メトクロプラミド。
抗がん剤などの化学的な要因の場合はハロペリドール、プロクロルペラジンなどの中枢性のD2遮断薬が用いられる。


ドンペリドン(ナウゼリン)
中枢作用はほぼなし、末梢(消化管)のD2遮断による胃運動改善
妊婦に禁忌

メトクロプラミド(プリンペラン)
中枢作用は弱い(ドンペリドンよりはある)、末梢(消化管)のD2遮断による胃運動改善
+5-HT4刺激作用もあり。

吐き気の原因を無視して投与した場合の有効性は30%、消化管運動に伴う吐き気の場合には75%有効であったとの報告。
がん患者の吐き気においても有効性は十分に示されている。※2

ハロペリドール(セレネース)
中枢のD2遮断
主に化学的な要因(抗がん剤)の吐き気に。
※2ガイドラインにおいて、化学的な要因に対しては第一選択とされているが、化学療法が原因でない場合は弱い推奨、とても弱いエビデンスとなっている
D2遮断作用が強く、その他(5-HT1,2,H1.M)はあまり遮断しない
錐体外路症状などの副作用に注意。

プロクロルペラジン(ノバミン)
中枢のD2遮断、M(ムスカリン)遮断H1遮断作用
主に抗がん剤の吐き気に。
ハロペリドール同様※2において化学療法以外の吐き気には弱い推奨。

リスペリドン(リスパダール)…非定型
D2遮断以外にH1,5-HT2遮断等
主に抗がん剤の吐き気に。

クエチアピン(セロクエル)…非定型
D2遮断以外にH1,5-HT2,M(ムスカリン)等
主に抗がん剤の吐き気に。
糖尿病に禁忌。

オランザピン(ジプレキサ)…非定型
D2遮断以外にH1,5-HT2,M(ムスカリン)等
主にがん患者、抗がん剤の吐き気に。
抗がん剤による吐き気に適応あり。
糖尿病に禁忌。

その他、アセナピン(シクレスト)、ペロスピロン(ルーラン)、アリピプラゾール(エビリファイ)、プレクスピプラゾール(レキサルティ)なども理論上効果はあると考えられるが、エビデンスがない。

ヒスタミン受容体遮断薬

体動(前庭系)が関与する吐き気に有効。
がん患者による吐き気抑制効果はエビデンス不十分、有効とする症例報告はあり。

ジメンヒドリナート(ドラマミン)
H1遮断,Ach(ムスカリン)遮断

ジフェンヒドラミン(レスタミン)
H1遮断,Ach(ムスカリン)遮断

d-クロルフェニラミン(ポララミン)
H1遮断,Ach(ムスカリン)遮断


セロトニン5-HT3受容体遮断薬

通常抗がん剤の予防投与に使用

グラニセトロン(カイトリル)
5-HT3遮断
第1世代

オンダンセトロン(ゾフラン)
5-HT3遮断
第1世代

パロノセトロン(アロキシ)
5-HT3遮断
第2世代であり、遅発期の嘔吐に対して第1世代より優れているとの報告あり(シスプラチン使用時)。※1

その他第1世代と第2世代で明らかに差があるとする報告はなし。

セトロンニン5-HT4受容体刺激薬

モサプリド(ガスモチン)
消化管の5-HT4刺激による胃運動改善
抗がん剤による吐き気には推奨されていない

ステロイド、NK受容体遮断

通常抗がん剤の予防投与に使用
突出的な吐き気には推奨されない。



※がん薬物療法では,NK1受容体拮抗薬,5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾンの3剤をメインに、催吐性リスクによって使い分ける。(下記記載) 詳細は※1ガイドライン参照

制吐薬の作用発現時間(経口投与)

ドンペリドン

IF記載なし Tmax:30分 臨床試験は食前(30分前)投与での奏効率を見ている。
→30分程度で発現と推測

メトクロプラミド

IF記載なし Tmax:1時間
→1時間程度で発現と推測

ハロペリドール

IF記載なし Tmax:5~6時間
→不明

プロクロルペラジン

IF:1 時間で作用が最大となり、4~5時間持続する。 Tmax:2時間
→1時間で発現

オランザピン

IF:記載なし Tmax:4~5時間
→不明 半減期が長く、最大効果までは3,4日かかる。

原因別の薬剤選択

以下の原因により選択する。(対象はがん患者)

①化学療法による吐き気(急性、遅延、突出)
②オピオイドによる吐き気
③化学療法以外の原因(体動時、消化管運動低下、便秘、脳圧亢進、電解質異常)

※胃腸炎など通常の吐き気には
消化器運動低下が原因:ドンペリドン、メトクロプラミド、モサプリド
体動、めまいが原因:H1ブロッカー
胃酸分泌増加が原因:PPI/H2ブロッカー
くらいしか使われないでしょうか。


①化学療法による吐き気※1より抜粋
急性嘔吐(24時間胃内)

高度リスク群:アプレピタント+5-HT3遮断+デキサメタゾン
・NCCNガイドラインでは上記3剤にオランザピンを追加又はアプレピタントの代わりにオランザピンを使用するレジメンがある(この場合5-HT3はパロノセトロン)。
・ASCOガイドラインでも3剤+オランザピンの4剤併用が追加されている。
・オランザピンは5mg~10mg、日本では5mgと10㎎で有効性に差はなしとの報告。


中等度リスク群:5-HT3遮断+デキサメタゾン
・カルボプラチンなどリスクの高い一部の薬剤ではアプレピタントも併用(上図)。
・その他は下図。デキサメタゾンは3日目まで投与、4日目は必要に応じて。


軽度リスク群:デキサメタゾン単剤
・状況に応じてプロクロルペラジン(ノバミン)、メトクロプラミドの併用。


最小度リスク群:基本的には予防投与不要。



遅発性嘔吐(24時間以降)

高度リスク群:アプレピタント+デキサメタゾン(上図の2日目以降)
・第一世代の5-HT3遮断薬では制吐作用に差はなし・
・パロノセトロンはグラニセトロンより優位に遅延性嘔吐を抑制。
・AC療法においては、パロノセトロンを用いることで2日目以降のデキサメタゾンを投与しない方法も選択肢の1つとしてある。(有効性に差なしとの報告)

中等度リクス群:デキサメタゾン単剤or薬剤によっては+アプレピタント(上図の2日目以降)
・2日目以降の5-HT3とデキサメタゾンの併用は各単独療法と有効性に差がないため、通常デキサメタゾン単剤となる。(肝炎、糖尿などでデキサメタゾンが投与できない場合は5-HT3【パロノセトロン】を使用する場合もあり)
・パロノセトロン単剤による有効性が示されているため、デキサメタゾンではなくパロノセトロン単剤も選択肢の1つ。
・中等度リスク群の中でも、カルボプラチン,イホスファミド,イリノテカン,メトトレキサート等が使用されている場合はアプレピタントも併用(この場合デキサメタゾンは必要に応じて投与、4㎎)

軽度リスク群:推奨されない。

最小度リスク群:推奨されない。


突出性の悪心・嘔吐
・まずは抗がん剤によるものか、それ以外の要因があるのかを判別する。
予防投与で用いられている薬剤と作用機序の異なる薬剤を用いる。
・メトクロプラミド:グラニセトロンとのRCT有効性あり。(奏効率は50%以下と低い)
・オランザピン:オランザピン10㎎/日がメトクロプラミド30㎎/日より有効とのRCTあり。
・プロクロルペラジン:投与4時間後に75%が悪心スコア減少。
・ステロイドの有効性は証明されていない。

②オピオイド使用時の吐き気※3抜粋
初めに記載した通り、オピオイドによる吐き気は以下の経路からなる。

・CTZのμ受容体を刺激→ドパミン遊離→ドパミンD2受刺激→嘔吐中枢(VC)に刺激が伝わる。

・前庭器のμ受容体を刺激→ヒスタミン遊離→CTZおよびVCを刺激。

・消化管のμ受容体を刺激→消化管蠕動運動が抑制→胃内容物の停滞→CTZおよびVCが刺激。

よって、これらに作用する薬剤を使用することになる。
ガイドラインに記載されている薬剤は以下の通り。
基本は
・第1選択薬で治療→改善しない場合は第1選択薬から2剤併用または第2選択薬を併用
また、通常吐き気は耐性ができるため継続的な投与は不要。

第1選択

D2遮断(定型)
・ハロペリドール、プロクロルペラジン
オピオイドによる吐気に限定した報告はなし。がん患者の嘔吐に有効との報告はあり。

前庭のヒスタミン受容体遮断
・ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン
オピオイドによる吐気に限定した報告はなし。前後比較研究ではcyclizine やクロルフェニラミンマイレン酸塩が使用されている。

消化管運動改善
・メトクロプラミド、ドンペリドン
オピオイドによる吐気に限定した報告はなし。メトクロプラミドは吐気を訴えるがん患者の嘔吐に対するRCTで有効性あり。


第2選択薬

非定型抗精神病薬
・オランザピン、リスペリドン
オピオイドを使用している15例のがん患者を対象として、オランザピン2.5、5、10mgをそれぞれ2日間ずつ投与したところ、すべての用量において投与前と比較して嘔気の改善を認めた。
後向き研究では、オピオイドによる嘔気・嘔吐を訴えるがん患者20例に対してリスペリドン1mg/日を使用し、50%で嘔気、64%で嘔吐が消失。

フェノチアジン系
・クロルプロマジン、レボメプロマジン

抗セロトニン
・オンダンセトロン
オンダンセトロン、メトクロプラミド、プラセボにおいて有効性に差はなかったとする報告もあり。(42%,33%,52%)

その他の対応としては、オピオイドローテーション、剤型の変更。

"オピオイドによる嘔気・嘔吐に対して制吐薬の効果があることを示す質の高い知見はほとんどないが、臨床経験から、オピオイドの投与を受け嘔気・嘔吐を生じた患者に対して制吐薬を投与することは、嘔気・嘔吐を改善することに有用な可能性があると考えられる。 ~中略~
使用経験が豊富なドパミン受容体拮抗薬、消化管蠕動亢進薬、または、抗ヒスタミン薬を第一選択とする。選択の目安として、持続的な嘔気・嘔吐にはドパミン受容体拮抗薬食後の嘔気・嘔吐には消化管蠕動亢進薬動作時の嘔気・嘔吐には抗ヒスタミン薬を使用する。第一選択の制吐薬が無効であった場合には、第一選択の制吐薬を2種類併用するか、または、第二選択の制吐薬として、非定型抗精神病薬、フェノチアジン系抗精神病薬、またはセロトニン拮抗薬のいずれかを使用する。

となっている。


③化学療法以外の吐き気※2抜粋
がん患者の消化器症状についてになります。
化学療法によるものは①で説明した通り。
それ以外の場合は以下のように示されている。


原因がはっきりしている場合はその除去
・脳圧亢進:マンニトール、コルチコステロイド、
・腹水:利尿剤、ドレナージ
・便秘:下剤
・電解質異常:Na,K,Ca補正


原因がはっきりしない場合は最も考えられる病態を推測して投与。
・化学的な要因が考えられる場合(薬剤)
第一選択薬:ハロペリドール
→D2遮断作用が強いため錐体外路症状の副作用注意。(最初からオランザピン、リスペリドン等でもよいのでは?)

・体動時に吐き気が出る場合
第一選択:抗ヒスタミン薬

・消化管運動低下が疑われる場合
第一選択:メトクロプラミド

第一選択薬を最大量にしてもおさまらない場合は、第2選択としては、それぞれ作用機序の異なる薬剤を追加。
ガイドラインに記載のある薬剤はハロペリドール、抗ヒスタミン薬、メトクロプラミド、スコポラミン、レボメプロマジン、ペロスピロン、リスペリドン、オランザピン。
これらが無効の場合には5-HT3も併用してもよいとの記載。


各薬剤のエビデンス※2より

以下は化学療法以外(原因がはっきりしていない吐き気)に使用する場合のエビデンス。


メトクロプラミド:弱い推奨
化学療法以外の吐き気に対しては、2件のRCTがあるが結果が一致しておらず有効性を示す根拠は乏しい。

FDAは遅延性ジスキネジアのリスクを考え投与を12週までとしている。
同ガイドラインでは4週まで、さらに長期の場合はジスキネジアに十分注意するようにとの記載。(医療従事者による観察で対応可能)


ドンペリドン:不明
エビデンス不足で結論が出せない。
重症不整脈、心臓突然死のリスクを増加させるとの報告もあるため注意。(させないとの報告も)


ハロペリドール:弱い推奨
観察研究が1件、統計レビューが1件
服用により1/3が眠気、口渇、ふらつき、便秘、1/4が振戦がみられているとの報告。
有益性が副作用を上回ってはいるとして弱い推奨。


抗ヒスタミン薬:弱い推奨
比較試験はなく、観察研究が1件。(プロメタジン)
質の高いものではなく根拠不十分だが、治療効果は示されており、臨床現場でも使用される機会は多い。


フェノチアジン系:弱い推奨
クロルプロマジンに関するRTCが2件、レボメプロマジンに関する観察研究が2件、プロクロルペラジンに関する観察研究が1件。(質の高い研究はなし)
クロルプロマジン、レボメプロマジンは高確率で眠気がみられるため注意。


非定型抗精神病薬:弱い推奨
比較試験はなく、観察研究が3件。
根拠は不十分だが、有効性が副作用を上回るとして弱い推奨。


セロトニン拮抗薬:弱い推奨
RCTが3件あるが、結果が一致しておらず根拠不十分。


ミルタザピン:不明
エビデンス不足で結論が出せない。


化学療法以外の吐き気についてはエビデンスを見るとほとんどが弱い推奨となっている。
こうなると、D2遮断薬はわざわざ錐体外路症状の出やすい定型を使わなくてもよいのではと思ってしまう。

最近はアセナピン、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールなどの新しい薬剤も出ているため、これらの使用も考慮してよいのでは?



※1 制吐薬適正使用ガイドライン2015
※2 がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2017年度版)
※3 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)  

 2018年11月5日

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