ベサコリンとウブレチドの比較

排尿障害時に処方されるベサコリンとウブレチドの有効性の違いは? カテーテル抜去後に効果はある?

ベサコリン、ウブレチドは膀胱収縮を促進することで排尿障害を改善する。

排尿障害が尿道抵抗(主に男性)のせいであればα遮断薬を用いるが、膀胱収縮が弱い場合や神経因性膀胱の場合にベサコリンやウブレチドを使用することがある。

尿閉時にはカテーテル挿入を行うが、その後はなるべく抜去を目指す。
その際、ベサコリンやウブレチチ、α遮断薬が処方されることがありますが、これらの有効性はどうなんでしょうか。


排尿障害の原因と治療薬※1

前立腺肥大(=下部尿路閉塞)
尿道抵抗→α遮断薬

神経因性膀胱(=神経性の排尿筋収縮異常)
基礎疾患:脳血管障害、脊髄障害、パーキンソン病、糖尿病性神経症
膀胱収縮減弱→コリン作動薬により収縮増強

薬剤性
抗コリン、抗ヒスタミン、抗精神病薬など→中止

その他
加齢による排尿筋低活動→コリン作動薬による収縮増強

前立腺肥大や神経因性膀胱で、畜尿障害により頻尿となっている場合には抗コリン薬が使用されるが、排尿障害の場合はコリン作動薬を使うということですね。(ただし、今から記載するように有効性は微妙なところ)

女性下部尿路症状診療疾患ガイドラインでは以下のようになっている。
尿道抵抗による排尿障害は前立腺肥大によるものがほとんどだが、女性においても尿道抵抗による排尿障害がみられることがあるそうです。
※女性の尿道抵抗に対して適応を持っている薬剤はエブランチルのみ。


前立腺肥大の方にα遮断+ベサコリン、α遮断+ウブレチドが処方されたり、尿カテーテル抜去時にベサコリンやウブレチドが処方される患者さんがいますが、有効性等はどうなんでしょうか。


基本情報

概要

ベサコリン(ベタネコール)

適応:手術後、分娩後及び神経因性膀胱などの低緊張性膀胱による排尿困難
用法:1日30~50㎎を分3~4(適宜増減)

ウブレチド(ジスチグミン)

適応:手術後及び神経因性膀胱などの低緊張性膀胱による排尿困難
用法:1日5㎎を経口投与

泌尿器領域の適応に関しては大差なし。

※泌尿器以外の適応
ベサコリン:消化機能低下
ウブレチド:重症筋無力症

禁忌

ベサコリン
甲状腺機能亢進症、気管支喘息、消化管及び膀胱頸部に閉塞、消化性潰瘍の患者、妊婦、冠動脈閉塞、強度の徐脈、てんかん、パーキンソニズム

ウブレチド
消化管又は尿路の器質的閉塞、迷走神経緊張症、脱分極性筋弛緩剤


コリン刺激により、胃酸分泌促進、気道収縮が起こるためベサコリンは禁忌、ウブレチドは禁忌になっていないが慎重投与。

ベサコリンは消化機能低下に適応があることからもわかるように、胃にも特異的に作用し、胃酸分泌を促進してしまう。※4

ジスチグミンは骨格筋刺激作用(ニコチン様作用)によりてんかん、パーキンソン症状を悪化させる恐れがあると記載されているが慎重投与にとどまる。

一方のベサコリンは禁忌。
薬理作用を見ると、ベサコリンにはニコチン作用はない※4(ガイドラインには弱いがあるとの記載)と記載されており、理論的にはベサコリンのほうが問題にならないはずなのですが逆転している。

臨床試験や審査等の問題でしょうか。


薬物動態

ベサコリン
ベサコリンはアセチルコリンエステラーゼで分解されにくい。
95%以上が代謝物として尿中から排泄(その他詳細記載なし)


ウブレチド
動物において絶食時Cmax,AUCが大幅に上昇(Cmax10倍)→ヒトでも注意。※3
腎代謝:腎障害には慎重投与(詳細な記載はなし)
作用時間:12-24時間※1


薬理作用

ベサコリン
ベタネコール塩化物はコリンエステラーゼに安定で、かつニコチン様作用もなく、膀胱や消化器に特異的に作用し、運動や緊張及び胃液分泌を促進する※4

ウブレチド
ジスチグミン臭化物は可逆的にAChE またはChEを阻害し、シナプス間隙のAChの蓄積を起こす ことにより、間接的にACh の作用を増強、持続させ、コリン作動性作用すなわち副交感神経支配臓器でムスカリン様作用を、また、骨格筋の神経筋接合部でニコチン様作用を示す※3


メモ
ムスカリン受容体
部位:心臓、膀胱平滑筋、胃
作用:刺激により心拍低下、膀胱収縮、胃酸分泌促進

ニコチン受容体
部位:自律神経の節前、骨格筋
作用:刺激により骨格筋収縮


排尿障害に対する有効性の比較

女性下部尿路症状診療ガイドライン上ではともに推奨度C1、エビデンスレベル3となっており、RCTで有効性は証明されていないよう。

神経因性膀胱患者で,コリン作動薬とウラピジルの併用療法が単独療法に比較して有効性が高いことも報告されているとのこと。

男性下部尿路疾患、脊損時の排尿障害に関してもコリン作動薬のエビデンスはエビデンス不十分となっている。※6,7


男性下部尿路障害診療ガイドラインの記載は以下の通り。

"低緊張性膀胱による排尿困難(尿閉)に対する保険適用はある。ただし,低活動膀胱に対して有効とする報告より,無効とする報告の方が多い(レベル 1)。有害事象には,腹痛,下痢などのほかに,コリン作動性クリーゼ,狭心症,不整脈などの重篤なものもある。尿路閉塞のある患者は禁忌である。専門医のみが注意しつつ使用すべきである。
~中略~
男女の低活動膀胱に対するコリン作動薬の効果を検証したメタアナリシスでは,RCT10論文中3編でプラセボへの優越性を認めたが,7 論文では認めなかった(女性骨盤臓器脱術後尿閉患者に対するジスチグミンの効果を検討した1論文では,プラセボよりむしろ増悪した。また,男性のみを対象とした RCT2論文では,それぞれ正常男性, 前立腺肥大症術後症例で,いずれもプラセボに対しての優越性を認めなかった。本邦の報告では,前立腺肥大症手術後の排尿困難にジスチグミンが有効であったという少数例の報告と,低活動膀胱に対してα1遮断薬ウラピジルとジスチグミンの併用がジスチグミン単独より有効とする報告がある。"

コリン作動薬の有効性はエビデンスが不十分なようです。※1,5,6,7


導尿カテーテル抜去後の薬物治療

前立腺肥大による導尿カテーテル抜去後は、α1遮断薬,5α還元酵素阻害薬の投与でカテーテル離脱が期待できる(レベル 1)とされている。。〔推奨グレード B〕

"急性尿閉後のα1遮断薬投与についての RCT では,対照群ではカテーテル離脱率が 36.7% だったのに対し,投与群では76.7%でカテーテルが不要となり有意な効果を示し た。他のメタアナリシスでは対照群での離脱率が38.9%であったのに対し,α1遮断薬投与群では56.8%と有意に高かったと報告されているα1遮断薬投与でのカテーテル離脱が困難な要因としては,70 歳以上,前立腺体積が 50 mL 以上と尿閉時の残尿量1,000mL以上があげられている。一方,α1遮断薬投与下でのカテーテル離脱困難症例に5α還元酵素阻害薬を併用した結果,7 カ月後に63.5%離脱が可能で,performance status(PS)が良好な群で有意に効果があったとされている5"※7


前立腺肥肥大を伴っている場合、カテーテル抜去後の自尿を期待したければ、ベサコリンやウブレチドではなく、α遮断薬をメインに使用すべきということになりそうです。



副作用の比較

コリン作動性クリーゼ
コリン作動薬で注意すべき副作用はコリン作動性クリーゼ。
ウブレチドには警告の記載があるが、ベサコリンに同様の記載がない。

報告件数はウブレチドで260件(2011年時点)、ベサコリンで5件(2010年時点)となっているそうです。※2

ベサコリンは2010年にコリン作動性クリーゼの副作用が添付文書に追記された。
患者数がどちらが多いのかわかりませんが、ウブレチドでの報告が多いのはどのような違いから生じるのでしょうか。

コリン作動性クリーゼの多くが投与開始2週間以内に起こっているため初期は要注意。


まとめ

有効性
排尿障害に対して、ベサコリン、ウブレチドの有効性はともにエビデンス不十分。

副作用
コリン作動薬性クリーゼはウブレチドで報告が多い。

禁忌
薬理作用の説明と一致していない部分があるが、ベサコリンで禁忌疾患多数

その他
前立腺肥大によるカテーテル留置後は、α遮断薬によりカテーテル抜去成功率が上昇。
ウブレチド、ベサコリンはエビデンスなし。

※1 女性下部尿路症状診療ガイドライン
※2 日経DI 2011.9.20 ウブレチドとベサコリンによる「クリーゼ」
※3 ウブレチドインタビューフォーム
※4 ベサコリンインタビューフォーム
※5 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)129,368~373 2007 
※6脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン 
※男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン

 2018年12月8日

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