卵アレルギーを持った乳児に、卵を食べた母親が授乳をするとアレルギー反応は起こるのか
まだ母乳も摂取しているということで、卵アレルギーの乳児に授乳する際、母親も卵の摂取をしてはいけないのかという質問を受けた。
薬剤もそうだが、アレルゲンによって母乳への移行は異なるし、そもそも母乳に移行するアレルゲンはごく少量なので、問題にはならないのだろうと考えましたが、根拠がなかったため調べてみました。
母乳と食物アレルギー発症(初発)リスク
まずは、母乳を介してアレルギーを発症してしまう(アレルギーになってしまう)ことがあるのか。
食物アレルギー診療ガイドライン※1には以下の記載がある。
1.食物アレルギーの発症リスクに影響する因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが検討されているが、中でもアトピー性皮膚炎の存在が重要である。
2.食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない。
3.ハイリスク乳児に対して特定の食物の摂取開始時期を遅らせることは、発症リスクを低下させることには つながらず、推奨されない。
4.完全母乳栄養がアレルギー疾患の予防という点において優れているという十分なエビデンスはない。
5.ハイリスク乳児への新生児期からの保湿スキンケアがアトピー性皮膚炎発症を予防する可能性が報告されたが、食物アレルギーの発症予防効果は証明されていない。
2.食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない。
3.ハイリスク乳児に対して特定の食物の摂取開始時期を遅らせることは、発症リスクを低下させることには つながらず、推奨されない。
4.完全母乳栄養がアレルギー疾患の予防という点において優れているという十分なエビデンスはない。
5.ハイリスク乳児への新生児期からの保湿スキンケアがアトピー性皮膚炎発症を予防する可能性が報告されたが、食物アレルギーの発症予防効果は証明されていない。
"近年のコクランレビューにより、妊娠・授乳中の母親の食物除去による食物アレルギー発症予防効果は否定されている。
完全母乳栄養と食物アレルギーの関連については、予防に有用である、発症に関連しない、発症リスクである、と報告が分かれている。
近年、ハイリスクの乳児において、ピーナッツおよび鶏卵の摂取開始時期を遅らせることが発症リスクを増加させるという報告がなされた。しかし、乳児期に安全かつ効果的に耐性を誘導させる食物の量や質、方法については現在も研究段階にあり、今後の課題である。"
と、いうことで発症予防に関してはその食品を母親が避ける必要はないようです。
では、今回のように既に食物アレルギーを発症している場合に、母乳を介いてアレルギー反応がでてしまうのか。
許容量がわかっていればむやみに避けず、最小限の除去により栄養的な面と安全面を確保すればよい。
負荷試験で許容範囲(母親が摂取→授乳で症状なし)がわかれば、その量を母親が摂取した程度ならまず問題ない。
ごく少量でもアレルギー反応を起こす可能性があるので、許容範囲がわからなければ母乳経由での摂取が100%問題ないと言い切ることは難しい。
普段母親が摂取していて問題なかったのであれば、問題ないと思いますが・・・100%と言い切れないので上記のような回答しかできないでしょうか。
各年齢の食物アレルギーの報告割合は以下のようになっている。
※1 食物アレルギー診療ガイドライン2016ダイジェスト版
※2 兵庫県医師会HP
※3 厚生労働省 食物アレルギー(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf)
※4母乳中のアレルゲン濃度と食事との関連、続報 -母乳中のオボアルブミン濃度とラクトフェリンについて-日本食育学会誌 第7巻第2号/平成 25(2013)年4月 155
※5 小児のアレルギー疾患保健指導の手引き
では、今回のように既に食物アレルギーを発症している場合に、母乳を介いてアレルギー反応がでてしまうのか。
母乳によりアレルギー反応は起こるか
先ほどは予防できるか=初発を防げるかについてですが、ここからはアレルギーである乳児に、その食品を摂取した母親の母乳によりアレルギー反応がまた起きてしまうのか。
母乳経由でのアレルゲンの摂取量が、その子のアレルギーを起こしてしまう許容摂取量を越えなければ良いと考えられるのでこの2点についてみてみます。
母乳からのアレルゲン摂取量
母乳にアレルゲンが移行するということは判明しているが、母乳婦による個人差が大きいようです。
以下※4文献より抜粋
"通常の食生活をしている授乳婦の母乳79検体(授乳婦28名)のオボアルブミン(=卵のアレルゲン) 、グリアジン(=小麦のアレルゲン)、 カゼイン(=牛乳のアレルゲン)、β-ラクトグロブリン(=牛乳のアレルゲン)濃度を市販のELISA キットで測定し本誌に前報した。
その結果を以下に要約する。
① 母乳中オボアルブミン値が312ng/ml 以上を示した検体の検出率は、卵製品を摂取した授乳婦の母乳58検体中26検体で44.9%だった。
② 少数例の検討であるが、加熱卵と生卵など調理形態の違いではオボアルブミン濃度に差はみられず、またマヨネーズやクッキー、プリンなどの加工食品では母乳中にオボアルブミンは検出されなかった。
③ 母乳中にオボアルブミンが検出された時間は、関連食品摂取後2時間~13時間で、5~6 時間後が多かった。
④ 母乳中グリアジンの検出率は小麦製品を摂取した授乳婦の母乳52検体中2検体で3.8%だった。
⑤ カゼインの検出率は乳製品を摂取した授乳婦の母乳43検体のうち5検体で11.6%、β-ラクトグロブリンは1検体で2.3%だった。
これらのデータの解析の過程で同程度のアレルゲン関連食品を摂取したにもかかわらず、母乳中にアレルゲンが検出されたサンプルと検出されなかったサンプルがあった。
~中略~
母乳中のアレルゲン濃度については、授乳婦の腸管 でのアレルゲンの吸収率、アレルゲンの血中濃度、ア レルゲンの母乳への分泌(移行)過程で多くの要素が複雑に絡んでいる。授乳婦の食事からの摂取たんぱ く量が母乳中のたんぱく濃度に反映されないことは衆 知の事実である。母乳中のアレルゲン濃度に関与する 因子について検討した論文は少なく、またアレルゲン の母乳中への分泌機序については未知の分野である。"
どの程度母乳からアレルゲンを摂取してしまうのかを調べたかったのですが、個人差が大きく、加工有無等によっても異なるし、同量摂取で検出すらされない人もいる。
このため一概にはどの程度摂取したらどの程度母乳に移行するかということを判断するのは困難と思われる。
そうなると、どうすればよいのでしょうか。
摂取許容範囲がわかっていれば、母親がその量を摂取した量では問題にならないと推測はできるので、許容摂取量を把握することが確実でしょうか。
以下※4文献より抜粋
"通常の食生活をしている授乳婦の母乳79検体(授乳婦28名)のオボアルブミン(=卵のアレルゲン) 、グリアジン(=小麦のアレルゲン)、 カゼイン(=牛乳のアレルゲン)、β-ラクトグロブリン(=牛乳のアレルゲン)濃度を市販のELISA キットで測定し本誌に前報した。
その結果を以下に要約する。
① 母乳中オボアルブミン値が312ng/ml 以上を示した検体の検出率は、卵製品を摂取した授乳婦の母乳58検体中26検体で44.9%だった。
② 少数例の検討であるが、加熱卵と生卵など調理形態の違いではオボアルブミン濃度に差はみられず、またマヨネーズやクッキー、プリンなどの加工食品では母乳中にオボアルブミンは検出されなかった。
③ 母乳中にオボアルブミンが検出された時間は、関連食品摂取後2時間~13時間で、5~6 時間後が多かった。
④ 母乳中グリアジンの検出率は小麦製品を摂取した授乳婦の母乳52検体中2検体で3.8%だった。
⑤ カゼインの検出率は乳製品を摂取した授乳婦の母乳43検体のうち5検体で11.6%、β-ラクトグロブリンは1検体で2.3%だった。
これらのデータの解析の過程で同程度のアレルゲン関連食品を摂取したにもかかわらず、母乳中にアレルゲンが検出されたサンプルと検出されなかったサンプルがあった。
~中略~
母乳中のアレルゲン濃度については、授乳婦の腸管 でのアレルゲンの吸収率、アレルゲンの血中濃度、ア レルゲンの母乳への分泌(移行)過程で多くの要素が複雑に絡んでいる。授乳婦の食事からの摂取たんぱ く量が母乳中のたんぱく濃度に反映されないことは衆 知の事実である。母乳中のアレルゲン濃度に関与する 因子について検討した論文は少なく、またアレルゲン の母乳中への分泌機序については未知の分野である。"
どの程度母乳からアレルゲンを摂取してしまうのかを調べたかったのですが、個人差が大きく、加工有無等によっても異なるし、同量摂取で検出すらされない人もいる。
このため一概にはどの程度摂取したらどの程度母乳に移行するかということを判断するのは困難と思われる。
そうなると、どうすればよいのでしょうか。
摂取許容範囲がわかっていれば、母親がその量を摂取した量では問題にならないと推測はできるので、許容摂取量を把握することが確実でしょうか。
アレルゲンの許容摂取量
アレルギーの重症度によって摂取許容が異なるので、微量でも起こる可能性がある場合は避ける必要がある。
”食物アレルギーが起こるかどうかは、加工品の場合も含めてその原因となるアレルゲンの含有量が大切です。不完全除去で経過を見る場合は、不必要な除去は避け、食べてもよい量までたべて、耐性をつけることが大切です。最近では、新しい治療法として、経口減感作療法(経口免疫療法)というアレルギー食品を食べながら治すという方法もあります。※2”
アレルギーの確定診断には経口負荷試験がある。
上記は直接摂取することを想定している。
母乳の場合、「母親がある量を摂取→授乳→アレルギーの有無」によって負荷試験と同じことができる。
同ガイドラインにおいて、「栄養食事指導のポイントは、必要最小限の除去、安全性の確保、栄養面への配慮、患者と家族のQOL維持である。・・・食物経口負荷試験などによる評価をもとに、安全性を確保しつつ具体的な食品を挙げるなどして個々の患者に合わせた食事指導をする」とされている。アレルギーの確定診断には経口負荷試験がある。
上記は直接摂取することを想定している。
母乳の場合、「母親がある量を摂取→授乳→アレルギーの有無」によって負荷試験と同じことができる。
許容量がわかっていればむやみに避けず、最小限の除去により栄養的な面と安全面を確保すればよい。
小児のアレルギー疾患保健指導の手引き
こちらは2019.3月に厚労省の補助事業としてまとめられた手引き。
除去が必要となることは少ないとのこと。
ただし、逆にいえば必要な場合もあるということ。
負荷試験で許容範囲(母親が摂取→授乳で症状なし)がわかれば、その量を母親が摂取した程度ならまず問題ない。
ごく少量でもアレルギー反応を起こす可能性があるので、許容範囲がわからなければ母乳経由での摂取が100%問題ないと言い切ることは難しい。
普段母親が摂取していて問題なかったのであれば、問題ないと思いますが・・・100%と言い切れないので上記のような回答しかできないでしょうか。
食物アレルギーの予後
乳児期の食物アレルギーは9割以上が自然緩解する。※3各年齢の食物アレルギーの報告割合は以下のようになっている。
食物アレルギーの自然耐性獲得率※1より
鶏卵アレルギー:6歳で66%が耐性化
牛乳アレルギー:3歳で60%が耐性化
小麦アレルギー:3歳で63%が耐性化
鶏卵アレルギー:6歳で66%が耐性化
牛乳アレルギー:3歳で60%が耐性化
小麦アレルギー:3歳で63%が耐性化
まとめ
初発予防
母親のアレルゲン除去によるアレルギー予防効果はなし
アレルギー発症後
・母乳へのアレルゲン移行量:個人差が大きいため一概には示せない。
・母親が摂取を控える必要があることは少ない。
・移行はごく少量であり問題ないことが多いが、少量でもアレルギー反応が起こる場合があるため100%問題ないとは言えない。
・移行はごく少量であり問題ないことが多いが、少量でもアレルギー反応が起こる場合があるため100%問題ないとは言えない。
・負荷試験(母親摂取→授乳→アレルギー反応有無)により、許容量を把握できれいればその量は問題なし。
※1 食物アレルギー診療ガイドライン2016ダイジェスト版
※2 兵庫県医師会HP
※3 厚生労働省 食物アレルギー(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf)
※4母乳中のアレルゲン濃度と食事との関連、続報 -母乳中のオボアルブミン濃度とラクトフェリンについて-日本食育学会誌 第7巻第2号/平成 25(2013)年4月 155
※5 小児のアレルギー疾患保健指導の手引き