透析患者のインフルエンザ治療薬

透析患者にはタミフル、イナビル、リレンザ?

透析患者のインフルエンザにはタミフル単回投与をよく見る。

肺に直接作用し、全身作用の少ない※2リレンザやイナビルを使用すればいいのではないかと思うのですが、エビデンスはどうなっているんでしょうか。


抗インフルエンザの投与量

添付文書上の記載

タミフル(オセルタミビル)
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30 
治療:1回75mg 1日2回
予防:1回75mg 1日1回

クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30 
治療:1回75mg 1日1回
予防:1回75mg 隔日

クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr≦10 
推奨用量は確立していない

→透析含めCcr≦10では推奨されていない。


リレンザ(ザナミビル)
健康成人に比較して、重度の腎機能障害患者(CLcr:25mL/min未満)でT1/2が約5倍延長し、AUC0-∞は約7倍増加した。

この重度腎機能障害患者に通常用量(1回10mg,1日2回)を5日間吸入投与した時に推定されるAUCは、健康成人に600mgを1日2回5日間静脈内投与し忍容性を認めた時のAUC(73110ng・hr/mL)の約40分の1であった。

このことから、海外では投与量の調整を行う必要はないとされているが、国内において腎機能障害患者を対象とした試験は行われていない。なお、透析を必要とするような腎機能障害患者における本剤の有効性、安全性及び薬物動態は検討されていない。

→具体的な投与量の投与量は記載ないが、忍容性の認められた600㎎静注と比較すると1/40だから安全だと思いますって記載。


イナビル(ラニナミビル)
国内においてクレアチニンクリアランス(Ccr)値により規定された腎機能低下者13例にラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与したところ、活性代謝物ラニナミビルのt1/2に変化は認めずAUC0-infは、腎機能正常者と比較して、軽度(Ccr:50~80mL/min)、中等度(Ccr:30~50mL/min)及び重度(Ccr:30mL/min未満)の腎機能低下者でそれぞれ1.1倍、2.0倍、4.9倍であった

→具体的な投与量は記載なし。安全性等についても記載なし。(インタビューフォーム、審査報告書にも記載なし)




添付文書だけだとリレンザしか投与できない感じになる。
ですが、タミフル単回投与はエビデンスがある。そして、イナビルについても報告がある。


ガイドライン※1の記載

「透析施設における標準的な透析操作と 感染予防に関するガイドライン」では以下のようになっている。

タミフル(オセルタミビル)
治療1回75mg1日のみ、5日後症状が残っている場合はもう1回75mg
予防1回75mg内服1日のみ、5日後もう1回75mgの計2回(で10日予防?)

リレンザ(ザナミビル)
治療1日1回10mg(2ブリスター)吸入を5日間 (=通常用量)
予防1日1回10mg(2ブリスター)吸入を7~10日間

イナビル(ラニナミビル)
治療:1日1回40mg(2キット)吸入を1日 (=通常用量)
予防1日1回20mg(1キット)吸入を2日間

ラピアクタ(ベラミビル)
治療:100mg単回投与
予防:記載なし

添付文書に記載のなかったタミフルのエビデンス及びイナビルの投与方法について記載がある。(ただし、イナビルは引用文献の記載なし)

※イナビルの予防2日間投与は腎機能正常者でも添付文書に記載のある投与方法。


以下、同ガイドライン抜粋

"第5章
4)インフルエンザを発症した患者に接触した透析患者に対して,抗インフルエンザ薬の予防投与が推奨される.(Level1B)

日本感染症学会では,高齢者などで,抗インフルエンザ薬による予防投与をもっと積極的に行うように提言している.インフルエンザを発症した患者に接触した透析患者に対しては,承諾を得た上で,ただちにオセルタミビル,ザナミビル,あるいはラニナミビルによる予防投与を開始する.

いわゆる曝露後予防(post-exposureprophylaxis)である.予防投与の場合は,治療以上に,できるだけ早期から開始する.可能であれば,インフルエンザ初発患者の発症から12〜24時間以内とすべきである.インフルエンザ感染後のまだ症状がない潜伏期間中であっても,発症の1日前から感染力があると考えられているからである.シーズン前のワクチン接種があってもなくても,予防投与は必要である.ワクチン接種で感染と発病を100%抑えられるわけではなく,ワクチン効果は通常60~80%程度であり,透析患者ではさらに効果は低下している可能性がある.

予防投与は,オセルタミビルは1カプセル1回内服とし,5日後,もう1回1カプセル内服する.ザナミビルは1日1回10mg(5mg/ブリスターを2ブリスター)吸入を7~10日間行い,ラニナミビルの場合は1日1回20mg吸入を2日間おこなう.

予防投与の効果は70~80%程度ともされていて,予防投与を実施しても発症することはあり得るので,経過観察・サーベイランスは引き続き行い,発症したら治療量で治療する.

わが国では,2007年の季節性インフルエンザの透析施設での集団発生(9名が2日間で発生)の際に,施設の透析患者に122対してオセルタミビル75mg1回の予防投与が299名でなされ,有効であったとの報告がある.

2009年のインフルエンザ(A/H1N1)2009でも,透析患者441名でオセルタミビルの予防投与がなされたところ,発症者はでず,副作用も軽微で有用であったとの報告がある.

なお,抗インフルエンザ薬の予防投与は保険適用でなく,自己負担となる.


5)透析患者に対する抗インフルエンザ薬の投与量は腎機能を勘案して行う.(Level1B)

免疫能が低下している透析患者では,迅速診断キットが陽性の場合はもちろん,陰性の場合でも,臨床症状からインフルエンザと診断した後は直ちに抗インフルエンザ薬であるノイラミニダーゼ阻害薬を投与することが薦められる.

オセルタミビルの排泄経路は腎臓であり,減量する必要がある.オセルタミビル75mg単回投与で,5日後症状が残っていたら,もう1回投与する.
血液透析患者では,オセルタミビル30mgを一回おきの透析後に,CAPD患者では,30mgを週1回投与で,治療および予防に有効な血中濃度が得られるとする報告もある.

ザナミビルは減量する必要がなく,通常投与量である10mg(5mg/ブリスターを2ブリスター)1日2回5日間の投与が推奨されている

吸入剤であるラニナミビルは一部腎排泄であるが,腎不全患者でも常用量(40mg単回吸入)が使用できる

重症患者に主に用いられる点滴静注剤であるベラミビルも腎排泄であり,透析患者の場合,通常の1/6量に相当する100mgを投与する.また,透析性があるので透析後の投与がよい."


ということで、リレンザ、イナビルなら腎機能正常患者と同量で投与できるため、こちらのほうが確実な有効性を得られるのではないかと思うのですが・・・



透析患者におけるタミフルの薬物動態

タミフルに関する血中濃度は日立薬剤師会が以下のようにまとめている。
投与直後は過剰だが有害事象なく安全な範囲、透析のたびに除去されるが、有効な濃度は継続して保てるということ。

結局タミフル、リレンザ、イナビルどれでもよさそうな感じでしょうか。


まとめ

治療
タミフルは75mg単回投与、リレンザ、イナビルは正常者と同量
なので、リレンザ、イナビルのほうが腎機能障害時は使いやすい?

予防
タミフルは75mg単回投与、リレンザは正常者と同量、イナビルは20mg/日を2日間


※1 透析施設における標準的な透析操作と 感染予防に関するガイドライン
※2 耳展 57:6;341~344,2014抗インフルエンザ薬 ―新薬ファビピラビルを含めて― 北村正樹 
その他:各種インタビューフォーム、添付文書

 2019年1月26日

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