透析患者の血圧管理

透析患者の降圧薬選択 血圧の目標値

透析患者さんは通常の高血圧患者より血圧の変動が激しく、通常の患者さんと治療が異なる。

Ca拮抗薬の併用や透析日服用、非透析日服用など複雑な処方がきますが、ガイドライン上ではどのような記載になっているんでしょうか。

高血圧治療ガイドライン2014

6) 透析患者
血液透析患者では,非透析患者とは異なり,適切な降圧目標や降圧薬の選択についてのエビデンスが乏しく,また血圧測定方法自体の標準化も十分ではない。
 血液透析患者では血圧水準と生命予後との関係は,一 般とは大きく異なり,U字型を呈し,透析前収縮期血圧が120-160mmHgで死亡率が最も低くなる

透析中の血圧低下や透析直後の起立性低血圧が全死亡の独立した危険因子であることも報 告されている。

透析患者の高血圧の主たる要因は体液量の過剰に基 づいている。したがって,透析医によるドライウエイ ト(体液量管理の際に必要となる血液透析後の目標体 重)の適正化と透析間の体重増加の抑制が最も重要となる

日本透析医学会によって「血液透析患者におけ る心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」 が作成されており,透析患者の血圧測定法,降圧目標 値,降圧薬投与のタイミング,降圧薬の選択などについての指針が示されている。したがって現時点で は透析患者については,透析医が透析医学会のガイド ラインに基づき,個々の患者の状況に応じて血圧管理を行い,必要に応じて透析専門医に相談する。


ということで、透析のほうのガイドラインを見てみます。


→透析患者の血圧管理は透析のガイドラインを見るようにとのこと。


血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン

高血圧
ステートメント
・透析患者における血圧は,透析室における血圧のみならず家庭血圧を含めて評価すべきである(1B)
・心機能低下がない,安定した慢性維持透析患者における降圧目標値は,週初めの透析前血圧で140/90 mmHg 未満とする(オピニオン)
・目標血圧の達成にはドライウェイト(DW)の適正な設定が最も重要である(1B)
DW の達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を投与する(1B). .


概要
透析患者の週初めの透析開始前収縮期血圧の平均は154mmHgで,日本高血圧学会の 2004年版高血圧治療ガイドラインにおける収縮期血圧基準を当てはめると, 全透析患者の74.5%が高血圧となる.

~中略~

透析患者の血圧は透析操作に伴う除水による体液量減少,次回透析までの体重増加による影響を強く受け, 短期(1 日,1 週間),長期(1 年,季節的)に変動す る.血圧の測定条件によって血圧の値が異なり,透析前血圧,透析後血圧,24時間自由行動下血圧,週平均化血圧などさまざまな測定指標がある.少なくとも家庭血圧を加味し,血圧の測定時期を明記し同一条件下で評価することが重要である.

~中略~

透析患者でも血圧が変動しやすいほど生命予後が不良である.

~中略~

家庭血圧を利用した週平均化血圧の脈圧(収縮期と拡張期の差)が70mmHg を超えると全死亡が有意に高くなると報告した.
一方,透析患者では,透析前の血圧と生命予後を検討した多くのコホート研究で,高血圧群の生命予後がむしろ良好で,血圧低値の患者群が不良である.しかし,血圧低値群では栄養不良や重症慢性心不全の頻度が高いことが影響している ことが指摘されている.日本透析医学会の報告でも, 高血圧患者の方が血清アルブミン,BMI,総コレステロール等が高めで,栄養状態が良好である.高血圧患者を対象にした前向き介入研究による検討,および統計調査委員会報告でも高圧治療群の予後が良好である.

~中略~

体液量過剰は主因として寄与し,その是正によって60%以上 の患者で血圧を正常化できることが報告されている.すなわち,透析患者における降圧治療の原則はドライウェイトの適正化が最も重要で,その達成と維持によっても降圧が不十分な場合に降圧薬投与が有効となる.


薬物治療
降圧目標値透析患者では血圧と生命予後との間にU字型現象がみられ,HD後収縮期血圧110mmHg未満および180mmHg以上は,140〜149を基準とした場合,心血管死亡率が,それぞれ,2.8倍,2倍増加する

また,透析期間が短い場合には血圧の低値(拡張期血圧が75mmHg以下)が,透析期間が長くなると血圧の高値(収縮期血圧が160mmHg以上)が予後不良に相関する.

降圧目標値の決定はその対象と目的の明確化が重要である.降圧目標値は安定した慢性維持透析患者で,長期的に心血管障害の発症を予防することを目的に決められる.したがって,心機能低下例などはこの限りではなく,高度に左室駆出率が低下した例,高度左室肥大によって拡張機能が低下した症例などでは,個々の例で心機能を評価した上で総合的に血圧の目標値を決定すべきである.

とくに,大動脈石灰化が高度で大動脈壁が硬化(aortastiffnessの増大)している例では拡張期血圧は過度に低下して脈圧が増大する.以上の例は,いずれも生命予後は不良と報告され,慢性心不全や冠血流に及ぼす拡張期血圧の影響を考慮すれば過度の降圧はかえって危険で注意を要する.1,000例以上を対象としたわが国における大規模観察研究でも,過度の降圧の危険性が示され,収縮期血圧が139mmHg以下,拡張期が69mmHg以下では死亡率が高い.
しかしながら,この研究では心血管障害に関する併存疾患の記載がなく,既存の心血管障害が予後に影響した可能性がある.したがって,患者の併存疾患を考慮せずに,血圧管理基準をすべての患者に一律に規定することには問題がある.


これらを踏まえて,本ガイドラインでは,明らかな心機能低下がなく,安定して外来透析治療をうけている患者についての血圧管理基準を示す

目標となる血圧値を明記するにはエビデンスが不足している.しかし,一般的には,週初めの透析前血圧値として140/90mmHg未満を目標とすべきである

これまで,透析前の平均血圧値(拡張期血圧+脈圧の1/3)が99mmHg以上は予後不良や,合併症のない透析患者で,昼間135/85mmHg未満,夜間120/80mmHg未満を目標とすべしとの報告があり,これらを参考にすれば,透析中の血圧低下,過度な起立性低血圧がない限り,透析開始時の収縮期血圧140mmHg未満,拡張期血圧90mmHg未満は受け入れ可能な値と考えられる.

そのほかの報告としては,透析前収縮期血圧160mmHg以下にすれば予後が良いという報告や,家庭血圧を用いた週平均化血圧(WAB)の前向き検討などで透析前血圧がおよそ140/90mmHgが妥当との報告も,140/90mmHgを支持する報告である.

同様に,透析室ではなく家庭血圧を用いた収縮期血圧で125〜145mmHgが最も透析患者の予後が良いとの報告がある.

最近報告されたメタアナリシスでは,1,679人を含む8報の報告から,降圧薬(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,カルシウム拮抗薬,β遮断薬)によって,収縮期血圧を4.5mmHg,拡張期血圧を2.3mmHg低下させることにより心血管障害発生のriskreduction(RR)が0.71(95%CI:0.55-0.0.92,P=0.009),全死亡ではRR0.80(95%CI:0.66-0.96,P=0.014),心血管障害死はRR0.71(95%CI:0.50-0.99,P=0.044)との結果であった.

~中略~

 日本透析医学会の調査でも降圧薬使用群が透析前の血圧値によらず生命予後が良好であり,降圧薬自体の効果も示唆される.

ただし,透析中の急激な血圧低下(収縮期血圧30mmHg以上)や透析終了後の起立性低血圧は予後不良との報告があるので今後の検討も必要である.

 ~中略~

心血管障害の危険性がより高い患者の場合には,透析中の最低血圧が110/60mmHg以下になると5年間の死亡率と有意に相関したと報告されているので注意を要する

~中略~

(3)降圧薬の選択
適切なDWを設定し,それが達成されても降圧が得られない場合に降圧薬投与を考慮する.透析患者における降圧薬選択についてのエビデンスは乏しいが,非透析例で得られた成績を参考にして適用することになる. 

~中略~

降圧薬の選択にあたっては,心肥大抑制など臓器保護効果があることを優先する,作用時間の長短を組み合わせる透析性と血圧変動を考慮して服薬時間を決定する,透析後に服薬する場合には帰宅後,家庭において降圧が過度に陥る危険性があることに注意する

~中略~

アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)などのレニン・アンジオテンシン阻害薬は左室肥大抑制効果など心血管系保護効果が明らかで,透析患者についても第一選択薬となる降圧薬である.

とくに,ARBは胆汁排泄が主体で,透析性もなく,咳嗽などの副作用もないので投与しやすい.しかしながら,Taiらは,メタ解析によって,ARBには左室肥大抑制効果はあっても心血管イベント発症を有意に抑制していないと報告し,厳密には今後も大規模な検討が必要である.

β遮断薬は,心筋梗塞の既往例や有意な冠動脈疾患を有する例で積極的な適応となる.DOPPS研究では,β遮断薬使用群の生存率が最も良好であったと報告されている.

カルシウム拮抗薬の投与も奨められる.いくつかの前向き観察研究で,全死亡や心血管障害死亡を有意に減少させた.

透析患者では交感神経活性の亢進も存在し,以上の降圧薬で管理できない場合に中枢性交感神経作動薬やa遮断薬も考慮される.しかし,起立性低血圧など,副作用も多いことから2次的選択薬となる



→まず最初に薬物治療の前にドライウエイトの適正化

それでもだめなら薬物治療

→薬物選択は以下の通り
・第1選択:ARB,ACE阻害薬 ARBは肝代謝が多く使いやすい
・冠動脈疾患例:β遮断薬も積極的な適応
・カルシウム拮抗薬:心血管障害死亡減少効果報告あり使用推奨
・α遮断薬や中枢性交感神経作動薬:上記で管理できない場合の2次選択
・透析性や持続時間、家庭での薬効発現時間等を考慮して選択


ARB,カルシウム拮抗薬は基本推奨という感じでしょうか。
そこに冠動脈疾患があればβ遮断も投与される。

ガイドライン上にも記載があったが、心機能低下時や石灰化が進んでいる場合、過度の降圧はかえって危険であり、個々の状態に合わせた管理が必要であり、一律どれでということは難しい。



脂質異常症についてもメモ
脂質異常症 
脂質低下療法が心血管イベント発症リスクを有意に低下させるかどうかについて,透析患者における RCTのエビデンスは不十分である.

CKDにおけるス タチンの心血管イベント抑制効果についての最近発表されたメタ解析では,スタチン治療は心血管イベント抑制に作用しており,CKD 病期(保存期,透析療法 期,移植後)によらないものであるとの結果が示されている.

一方,2型糖尿病血液透析患者1,255名を対象に,アトルバスタチン20 mg/day の効果をプラセボと比較した4D試験では,心血管死亡,非致死的 心筋梗塞,脳血管障害の複合1 次エンドポイントのリスクは8%のみの低下で有意ではなかった.

また,透析患者2,776名を対象に,ロスバスタチン10mg/day とプラセボを比較した AURORA試験1では,心血管死亡,非致死的心筋梗塞,非致死的脳血管障害の複合エンドポイントのリスクは4%低下したものの,有意ではなかった

これらの結果から,透析療法期に入った患者に対し,新たにスタチン投与を開始しても,心血管疾患全般のリスク低下は期待できないと考えられる. しかし,4D試験では,スタチン投与により2次エンドポイントである虚血性心事故(心臓死,非致死的心筋梗塞,PTCA,CABG,その他の冠動脈疾患に対するインターベンションの合計)のリスクは 18%有意に低下している.

虚血性心疾患リスクを低下させる目的で,LDL-C や Non-HDLC の高い透析患者にスタチンを投与開始することに は,一定の根拠があると考えられる.

また,透析導入期あるいは維持透析期にスタチン投与を受けてい る患者は,そうでない群に比較して,死亡率が低いとの観察研究もあり,すでに投与中のスタチンを中止する医学的根拠も乏しい. 薬物治療を行う場合は,スタチンが第一選択となる. 薬剤にもよるが,LDL-C低下作用は 25〜40%である. 上記の4D試験や AURORA 試験において,有害事象の発現頻度はスタチン群とプラセボ群で同等で あったことから,安全性に問題はないと考えられる.

 2019年2月3日

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