グリベック、タシグナ、スプリセルの比較

慢性骨髄性白血病の第一選択薬 チロシンキナーゼ阻害薬3剤の比較

現在の慢性骨髄性白血病の第一選択薬は分子標的薬であるチロシンキナーゼ(BCR-ABL)阻害薬。

初めて出たのがグリベック(イマチニブ)で、劇的な予後改善を示した。
グリベックが出る前はインターフェロンやヒドロキシカルバミド(ハイドレア)、造血幹細胞移植が行われていたが、急性転化を防げる割合が今よりずっと低かった。
(現在ではチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性となってしまった場合に用いられるという状況になっている。)

現在第一選択薬となるチロシンキナーゼ阻害薬はグリベック(イマチニブ)、タシグナ(ニロチニブ)、スプリセル(ダサチニブ)がある。

そのほかボシュリフ(ボスチニブ)、アイクルシグ(ポナチニブ)があるが、この2剤は前治療に抵抗性を示した場合の適応となっている。

今回は第一選択薬となる3剤について比較してみました。

基本情報

グリベック(イマチニブ)
用法:1日1回 1回400㎎
適応:慢性骨髄性白血病、KIT陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病 、FIP1L1-PDGFRα陽性の下記疾患 好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病

タシグナ(ニロチニブ)
用法:1日2回 1回300㎎
適応:慢性期または移行期の慢性骨髄性白血病

スプリセル(ダサチニブ)
用法:1日1回 1回100㎎
適応:慢性骨髄性白血病、再発又は難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病


治療薬の選択フローチャート

初回(1st line)TKI(イマチニブ,ニロチニブ,またはダサチニブ)に抵抗性あるいは不耐容を示した場合は,別のTKIへの切り替えが必要である。

TKI抵抗症例ではBCR-ABL1 遺伝子の点突然変異の解析を行い,点突然変異クローンの薬剤感受性に応じたTKIの選択が必要であり,不耐容症例ではTKIの有害事象を鑑みた薬剤選択が必要である。

2nd line以降ではイマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブに加え第二世代TKIボスチニブと第三世代TKIポナチニブが使用できる。

イマチニブはABLキナーゼに対する阻害活性が第二世代TKIに劣るので,抵抗例に対する切り替えの際は,イマチニブへの切り替えは推奨されない

ボスチニブは二次治療,三次治療としてT315I以外のABL1 遺伝子変異を有する症例に有効であり,忍容性も良好である。ポナチニブは3次治療としてT315Iを含むABL1 遺伝子変異を有する症例や前治療薬に抵抗性または不耐容の症例に有効である※1


第1、第2~3に関しては上記の通りですが、第一となる3剤についての成績を見ていきます。


臨床成績

グリベックが初代であり、使用成績が豊富であるが、阻害作用はタシグナ、スプリセルのほうが強いとされている。

臨床試験でもグリベックより後者2剤のほうが良い成績となっている。

"ニロチニブとダサチニブは,イマチニブ治療に抵抗性・不耐容のCMLに対する治療薬として開発された第二世代TKIであるが,イマチニブとの比較試験の結果,初発CML-CP期の治療としても選択できる。※1"

では試験内容を具体的に見ていきます。

タシグナ VS  グリベック※2

国内第3相試験(無作為化、非盲検)
初発の患者 タシグナ300㎎、400㎎群とグリベック300㎎群


※MR:分子遺伝学的奏効。MMRはBCR-ABL融合遺伝子の割合が0.1%以下となった場合。
※CyR:細胞遺伝学的奏効。フィラデルフィア染色体を確認。complete CyRはフィラデルフィラ染色体が検出できないレベル。


グリベック(イマチニブ)抵抗性の慢性期患者
※慢性期対象、移行期だともう少し成績は落ちるが、それでも抵抗性に対してある程度有効性を示している。

→タシグナはグリベック抵抗性にも有効、グリベックとの比較試験ではより有効とする結果がでている


スプリセル VS グリベック※3

国内第3相試験
初発の患者 スプリセル100㎎とグリベック400㎎群


グリベック(イマチニブ)抵抗性の慢性期,移行期患者

→タシグナ同様、グリベック抵抗性に対しても有効性があり、初発ではグリベックより有利。


どちらも一部の試験しか抜粋していないので詳しくはインタビューフォーム参照。


これらの結果から、タシグナやスプリセルがグリベックにより優れているとされている。
ただし、観察期間が~2年と短いため、長期的なエビデンスはグリベック。
今後の結果によって変わっていきそう。


副作用の比較

チロシンキナーゼ阻害薬共通の副作用としては、血液障害(好中球減少、血小板減少、白血球減少)。
それ以外に吐き気・嘔吐、頭痛、肝機能障害が3剤とも高頻度でみられている。

薬剤ごとの特徴的な副作用としては、

グリベック:発疹、体液貯留、発疹(重篤)、消化管出血
タシグナ:高血糖、QT延長、膵炎
スプリセル:体液貯留、出血(脳、消化管)、QT延長

などがある。


グリベック投与時の慢性骨髄性白血病の予後

IRIS試験の8年フォローの結果では、8年全生存率は85%、無イベント生存期間81%、副作用による中止は6%となっている。※4


まとめ

3剤とも慢性骨髄性白血病の第一選択薬。

長期の安全性、有効性はグリベック。

タシグナ、スプリセルはグリベック抵抗性でも有効な例があり、初発に対してもグリベックより優れているが、長期の有効性、安全性はこれから。


※1 造血器腫瘍診療ガイドライン2018
※2 タシグナインタビューフォーム
※3 スプリセルインタビューフォーム
※4 がん診療レジデントマニュアル

 2019年5月30日

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