STOPP & START criteria と ポリファーマシー

ポリファーマシー改善を行うためのスクリーンツールについて

ポリファーマシーとは簡単にいうと多剤併用しているもの。

ですが、厚労省の資料には以下のように記載されている。

"多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼び、本指針でも両者を使い分けた。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。"

ということで、具体的に何剤とか決まっているわけでなく、多剤併用により患者がデメリットを被っている場合にポリファーマシーとなる。


ポリファーマシーのスクリーンツールとしては、

・STOPP & START criteria(欧州)
beer criteria(欧州)
高齢者の安全な薬物治療ガイドライン(日本)

などがあり、これらには患者背景と中止すべき薬剤、開始すべき薬剤が記載されている。

病院において入院時に使用されていたり、論文の中でも使用されているSTOPP & START criteriaについて、内容を確認。

STOPP & START criteria ver2

オックスフォードのジャーナル「Age and Ageing」に投稿されたスクリーニングツール。
下記項目ごとの基準に照らし合わせて潜在的に不適切な処方(potentially inappropriate medications: PIMs)を抽出する。

※ポリファーマシーということでSTOPPのほうだけ見ました。
赤字は自分で追加。青字はやめるべき理由の訳。

65歳以上の高齢者が対象
 Section A: 薬剤適応    
 1. エビデンスに基づいた臨床適応ではない薬剤    
 2. 推奨期間を超えて処方されている薬剤    
 3. 同効薬剤の重複(例:2種類のNSAIDs,SSRI,ループ利尿薬,ACEI,抗凝固薬)

 Section B: 心血管系    
 1. 左室収縮能が保たれた心不全にジゴキシン投与→エビデンス不十分  
 2. NYHA Ⅲ〜Ⅳの心不全患者にベラパミル、ジルチアゼム投与 →心不全悪化  
 3. ベラパミル、ジルチアゼムにβ遮断薬を併用→房室ブロックのリスク  
 4.徐脈(50回/分未満)や2度心ブロック、完全房室ブロックがある患者へのβ遮断薬→完全房室ブロック、心静止のリスク 
 5. 上室性頻拍に対して第一選択でアミオダロン→上室性頻拍はベラパミル、ジルチアゼム、ジゴキシンのほうがSE少ない ※QOL低下なければ発作時のみ(QOL低下時第一選択はアブレーション)
 6. 高血圧の第一選択としてループ利尿薬投与
 7. 心不全・肝不全・ネフローゼ症候群や腎不全と臨床・生物・画像的エビデンスで診断されているない患者の下腿浮腫に対するループ利尿薬 →足の挙上、弾性ストッキングで対応
 8. 低カリウム血症(K<3.0)、低ナトリウム血症(Na<130)、高カルシウム血症(Ca>10.6)または痛風既往患者へのサイアザイド系利尿薬投与→憎悪
 9. 尿失禁を合併した高血圧患者に対するループ利尿薬投与→尿失禁を憎悪  
 10.他の薬が有効・容認性がある場合に中枢性降圧薬(メチルドパ、クロニジン、モキソニジン、リルメニジン、グアンファシン)投与→一般的に高齢者に対して中枢性降圧薬は容認性が低く、効果も低いため  
 11. 高カリウム血症患者へのACE阻害薬投与    
 12. カリウム値のモニターなしでアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)とカリウム保持性薬剤(ACE阻害薬、ARB、アミロライド、トリアムテレン)の併用→重篤な高カリウム血症(>6.0)のリスク、併用する場合は最低6ヶ月毎にモニタリング
 13. 重度心不全患者(収縮期血圧<90mmHgの低血圧)や硝酸剤投与中の狭心症に対するPDE-5阻害剤(シルデナフィル、タダラフィル、バラデナフィル)投与→心血管虚脱のリスク

Section C: 抗血小板薬・抗凝固薬 
 1. 160mg/日以上の長期アスピリン投与 →有効性エビデンスなし、出血リスク増加  
 2. 消化性潰瘍既往歴患者にPPI併用無しでアスピリン投与→再発リスク  
 3. アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、ビタミンK拮抗薬、DOACを出血リスクが高い患者(コントロール不良重度高血圧、出血傾向、非軽度の出血)に投与   
 4. 脳卒中の二次予防アスピリン+クロピドグレル併用(1年以内の冠動脈ステント留置or急性冠症候群合併or高度症候性頚動脈狭窄がある場合を除く)→クロピトグレル単剤を超える有効性なし  
 5. 慢性心房細動に対してビタミンK拮抗薬or DOADにアスピリン併用→アスピリン追加の有効性エビデンスなし  
 6. 安定型狭心症、脳血管障害、末梢動脈疾患に対して抗血小板薬にビタミンK拮抗薬or DOAC併用→ビタミンK拮抗薬、DOAC併用の有効性エビデンスなし
 7. チクロピジンの使用→クロピドグレル、プラスグレルと効果は同等だが、副作用大    8. 6か月以上持続する血栓リスク(血栓性素因等)のない初発深部静脈血栓症患者に対して、ビタミンK拮抗薬or DOAC投与→有効性エビデンスなし    
 9. 12か月以上持続する血栓リスク(血栓性素因等)のない肺血栓塞栓症患者に対して、ビタミンK拮抗薬or DOAC投与→有効性エビデンスなし    
 10. NSAIDsとビタミンK拮抗薬or DOAD併用→消化管出血リスク  
 11. PPIなしでNSAIDsと抗血小板薬の併用→消化性潰瘍リスク

 Section D: 中枢神経系・精神科系    
 1. 認知症,狭隅角緑内障,心伝導系障害,前立腺肥大,尿閉既往歴のある患者に対する三環系抗うつ薬→各疾患の憎悪  
 2. うつ病に三環系抗うつ薬を第一選択としてに使用→SSRI,SNRIより有害事象リスクが高い
 3. 前立腺肥大や尿閉既往患者に対する中等度の抗コリン作用がある向精神病薬(クロルプロマジン、クロザピン、フルペンチキソール、フルフェナジン、ピポチアジン、プロマジン、ズクロペンチキソール→尿閉のリスク   
 4. 低ナトリウム血症(直近の既往歴含む,Na<130mmol/L)に対するSSRI→憎悪、誘発
 5. 4週間以上ベンゾジアゼピン系薬剤→鎮静、せん妄、転倒等のリスク  
 6. パーキンソニズムやレビー小体型認知症に対する向精神病薬(クエチアピン、クロザピンを除く)→錐体外路症状の悪化  
 7. 向精神病薬の副作用としての錐体外路症状に抗コリン薬投与→抗コリン中毒リスク 
 8. せん妄や認知症に抗コリン/抗ムスカリン薬投与→認知障害の悪化  
 9. 非重症、非薬物療法が無効であった場合以外のBPSDに対する向精神病薬投与→脳卒中のリスク
 10.精神疾患や認知症が原因でない睡眠障害に対する向精神病薬投与→せん妄、低血圧、錐体外路症状、転倒のリスク
 11. 持続的な徐脈(60回/分未満)、心ブロック、原因不明の再発性失神、心拍減少薬剤投与(β遮断薬・ジゴキシン・ジルチアゼム・ベラパミル)患者へのコリンエステラーゼ阻害薬→心伝達障害、失神、ケガのリスク  
 12. フェノチアジン系薬剤を第一選択。(プロクロルペラジンを嘔気/嘔吐/めまいに、クロルプロマジンを持続的なしゃっくりに、レボメプロマジンを制吐剤として使用する場合は別)→フェノチアジン系は抗コリン作用が大、別剤のほうが有効かつ安全  
 13. レボドパやドパミンアゴニストを本態性振戦に投与→有効性エビデンスなし 
 14. 第1世代抗ヒスタミン薬の使用→より有効性、安全性が高い薬剤がある(=第2世代)  

Section E: 腎臓系 (eGFRが以下の値である急性or慢性腎障害患者には不適切)    
 1. eGFR<30へのジゴキシン0.125㎎/day以上の投与→TDMをしていない場合は中毒リスク 
 2. eGFR<30 へのダビガトラン(プラザキサ)→出血リスク 
 3. eGFR<15へのエドキサバン(リクシアナ)、リバロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)→出血リスク 
 4. eGFR<5へのNSAIDs →腎機能悪化リスク  
 5. eGFR<10へのコルヒチン→コルヒチン中毒リスク
 6. eGFR<30へのメトホルミン→乳酸アシドーシスのリスク 

 Section F:消化器系 
 1. パーキンソン病にプロクロルペラジン、メトクロプラミドパ投与→パーキンソン悪化
 2. 単純な消化性潰瘍やびらん性逆流性食道炎に対して高用量PPIを8週間以上投与  
 3. 慢性便秘患者に便秘を引き起こす薬剤(抗コリン薬・,鉄剤,オピオイド,ベラパミル,Al制酸剤)を投与→悪化リスク
 4. 経口鉄剤200mg/日以上の投与→鉄吸収がより増加するエビデンスなし 

 Section G: 呼吸器系    
 1. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対してテオフィリン単剤投与→有効性、安全性が勝る別の治療法あり(吸入抗コリン、β刺激)
 2. 中等度〜重度のCOPDの維持療法において吸入ステロイドでなく経口ステロイドを使用→吸入のほうが有効、不必要な暴露 
 3.狭隅角緑内障や尿路閉塞の既往歴がある患者への抗コリン薬(イプラトロピウム、チオトロピウム)→悪化リスク  
 4. 治療を要する喘息既往歴のある患者への非選択的β遮断薬(点眼も) →気管支痙攣のリスク  
 5. 急性or慢性呼吸不全(pO2<60mmHg、pCO2>40mmHg)にベンゾジアゼピン系薬剤→呼吸不全の悪化 

 Section H: 筋骨格系  
 1. 消化性潰瘍や消化管出血の既往歴がある患者に、PPI,H2ブロッカー併用なしでCOX-2非選択性NSAIDs投与→再発リスク  
 2. 重度の高血圧or重度の心不全患者にNSAIDs →憎悪リスク  
 3. 変形性関節症の症状緩和にアセトアミノフェンの使用歴なしで長期間(3か月以上)NSAIDs投与 →アセトアミノフェンが好ましく、通常は有効  
 4. 関節リウマチに長期間(3か月以上)ステロイド単剤投与→全身性副作用のリスク  
 5. 変形性関節症に対するステロイド投与(単関節痛への関節内注射は除く) →全身性副作用のリスク  
 6. キサンチンオキシダーゼ阻害剤(アロプリノール・フェブキソスタット)が禁忌でない慢性痛風患者に長期間(>3か月)NSAIDs orコルヒチン投与→キサンチンオキシダーゼ阻害が第一選択  
 7. 心血管疾患を合併している患者にCOX-2選択性NSAIDs 投与→脳梗塞、脳卒中リスク 
 8. PPIの予防投与なしでNSAIDsとステロイド併用→消化管潰瘍リスク  
 9. 直近の上部消化管疾患(嚥下障害,食道炎,胃炎,十二指腸炎,消化性潰瘍,上部消化管出血)既往歴患者に対する経口ビスホスホネート製剤→再発、憎悪リスク 

 Section I: 泌尿器科系  
 1. 認知症、慢性認知障害、狭隅角緑内障、慢性前立腺疾患に抗コリン薬→せん妄、緑内障急性増悪、尿閉のリスク  
 2.症候性起立性低血圧、排尿失神に対するα1遮断薬→失神のリスク 

 Section J. 内分泌系  
 1. 2型糖尿病に長時間作用型SU剤(グリベンクラミド,クロルプロパミド,グリメピリド) →持続的な低血糖のリスク  
 2. 心不全患者にチアゾリジン系(ロシグリタゾン、ピオグリタゾン) →憎悪リスク  
 3. 低血糖を繰り返す糖尿病患者にβ遮断薬 →低血糖症状を不顕性化  
 4. 乳癌や深部静脈血栓症の既往歴患者に対するエストロゲン→再発リスク  
 5. プロゲステロン併用なしでエストロゲン投与→子宮体癌リスク  
 6. 原発or続発性性腺機能低下症が無い患者へのアンドロゲン投与→androgen toxicityのリスク 

 Section K: 高齢者で転倒リスクとなる薬剤 
 1. ベンゾジアゼピン系
 2. 抗精神病薬 →パーキンソン症状誘発による転倒リスク  
 3. 持続的な起立性低血圧患者(収縮期血圧20mmHg以上低下を繰り返す)に対する降圧薬(α1受容体遮断薬、Ca拮抗薬、長時間作用型硝酸剤、ACEI、ARB) →失神、転倒リスク  
 4. Z-drug系睡眠薬(ゾピクロン、ゾルピデム、ザレプロン)

 Section L: 麻薬系 
 1. 経口or経皮の強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ブプレノルフィン、ジアモルフィン、メタドン、トラマドール、ペチヂン、ペンタゾシン)を軽度疼痛に対して第一選択→WHO除痛ラダーを見るように  
 2. 下剤なしで定オピオイドを定期投与→重篤な便秘リスク 
 3. 長時間作用型オピオイドを突出中に対するレスキューなしで投与→疼痛持続リスク 

Section M: 抗ムスカリン/抗コリン作動薬 
 2種類以上の抗コリン作用のある薬剤(膀胱作動薬、腸管作動薬、三環系抗うつ薬、第1世代抗ヒスタミン薬)を併用→抗コリン作用増強


※原著論文はこちら
上記訳は補助資料のSTOPPより:こちら
 2019年6月2日

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