腎機能の各種指標の特性

血清クレアチニン値(SCr)、クレアチニンクリアランス(CCr)、糸球体ろ過量(GFR)の基準値、特製、使用時の注意点

腎機能を評価する際にクレアチニンクリアランス(CCr)と糸球体ろ過量(eGFR)が一般的に用いられる。

計算式、計算式を設定した際の患者背景からそれぞれ不向きな患者や注意点があるので簡単にまとめ。


腎機能検査値概要

m=実測
e=推算

GFRはよくeGFRと記載されているが、CCrはCCrと書かれていることが多い気がするが、基本はeCCrのこと。実測していることは少ない。

①mGFR(イヌリン投与) (ml/min)

最も正確なGFRを求めることが可能。
イヌリンは再吸収、再分泌されない=糸球体ろ過量のみ反映。
測定が困難(時間及び患者負担)なため、使用されることはめったにない。

②mCCr (ml/min)

畜尿から測定可能。時間はある程度かかるが、患者負担は①より少なく、正確な値を知ることができる。
クレアチニンは糸球体ろ過量に加え、若干尿細管分泌されるためGFRの1.2~1.3倍となる。


①,②が最も正確な値だが、実際は測定の手間・負担より日常的に用いることは困難、このため推算式を用いる。

③Cockcroft&Gault式でのeCCr (ml/min)

添付文書に係れているCCrは基本的にこちら。
尿細管分泌を考慮し、CCr×0.789≒eGFRと換算することがある。
メリット:eGFRよりSCr低値の際の過大評価が少ない。
デメリット:体重に比例するため肥満の際に過大評価→標準体重を代入

④(クレアチニンの)標準化eGFR (ml/min/1.73㎡)

平均的な日本人男性(身長170cm,体重68kg)の体格とした場合の値。
CKDの診断基準に用いる。(薬物投与量を決定するときは個別化eGFRを使用する)
デメリット:SCr低値(<0.6)の場合に過大評価となる。体格が全く考慮されていない。(小さい人で過小評価)

⑤(クレアチニンの)個別化eGFR (ml/min)

標準化eGFRの体系を考慮した場合の数値。
個々の薬物投与量を設定する際に使用。
デメリット:④同様SCr低値(<0.6)の場合に過大評価となる。

⑥(シスタチンCの)個別化eGFR )(ml/mi)

シスタチンC(Cys-C)はクレアチニンと異なり筋肉量の影響を受けないため高齢者や寝たきり等の患者に有用。
ステロイド、甲状腺機能亢進症で過小評価となる。

⑦血清クレアチニン:SCr(mg/dl)

高度腎機能障害にならないと変動は小さく、このままでは有用性はあまりない。
重度~末期では明らかに上昇するため有用。
0.6未満は腎機能が良いのではなく、筋肉量が少ないことがほとんど。
酵素法が今は主流。以前はJaffe法で測定されているものも多く、酵素法SCr+0.2≒Jaffe法SCrとなる。




それぞれさらに詳しく。(①,②は正確な値なので説明なし。普通にそのまま用いればよい。めったに測定されないですが。)


Cockcroft&GaultのeCCr (ml/min)

式の特徴
Cokcroft&Gault式(CG式)はカナダ人249名の実測値をもとに導き出された式。

249名は男性ばかり。0.85をかけるのはそうすることでそれっぽくなるからといったところ。なので女性では男性より精度が落ちる。

母集団には高齢者、寝たきりの人も含まれている及び加齢による低下が大きい式のため、eGFR式よりこれらの背景の患者に適応しやすい。


注意点
式に体重が含まれているため、肥満の場合、CCrが高く計算される=過大評価
このようにならないよう肥満に対しては標準体重を用いる。

eGFRほどではないが、SCr低値(筋肉量の低下している人)の場合、過大評価となる。
SCr<0.6の場合、一律0.6を代入する方法も用いられる。

筋肉低下のない高齢者に使用するとやや過小評価となる。


標準化eGFR (ml/min/1.73㎡)


式の特徴(標準化、個別化共通)
日本腎臓学会が413例の日本人の実測GFRをもとに作成した式。

GFRを実測する際は先述の通りイヌリン投与による測定となり患者負担が大きく、高齢者、寝たきりの人には難しい。よってこの式はそのような患者背景の人は含まれていないと考えられており、高齢者・寝たきりの人に用いると過大評価となる。

注意点
上記の通り、SCr低下が考えられる患者(筋肉量の低下した高齢者、寝たきりの人)に使用するとeGFRは高くなる≒過大評価

一般の人、高齢者でも活動性が保たれており筋力が低下していない場合、日本人データをもとに作成されているためeCCrより精度が高い。

標準化と個別化の使い分け

標準化eGFRは標準体型の人のeGFRを示したものであり、薬物投与量を決定する際は個別化eGFRを用いる。

標準化eGFRはCKD(慢性腎不全)のステージ等の判断に用いる。

例)
極端な例として、標準化eGFが80ml/min/1.73㎡の小柄な女性(体表面積0.9㎡)の個別化eGFRは80×0.9/1.73≒40ml/minとなる。

もしCKDの分類に個別化eGFRを使用すると、体が小さいせいでeGFRが小さいだけなのにCKDとされてしまう。
小さい体なので40ml/minあれば十分であるはずなので、このような判断にならないようCKDの基準値等には標準化eGFRが用いられる。

薬物投与量を決定する場合、実際にその薬を処理する能力を考えなければならないので、小柄なせいで処理能力が低い(40ml/min)であることを考慮して投与量を決定するため個別化eGFRを用いる。

個別化eGFR (ml/min)


式の特徴
標準化eGFRの体表面積補正を外し、実際の患者さんのeGFRにしたもの。
注意点等は標準化eGFRと同様。
薬物投与量を決定する際はこちらを用いる。


シスタチンCのeGFR

今までeGFRと書いてきたのはクレアチニンのeGFR。
クレアチニンはほぼ100%筋肉にあり、その1%程度が1日に尿中に排泄される。
よって筋力低下の影響をかなり受ける。

シスタチンCは筋肉量に影響を受けず、eGFRが使用しにくい高齢者、寝たきり患者にも適応しやすい。
また、SCrは尿細管分泌されるためにある程度腎機能が低下しないと上昇しないため、腎機能障害が進行してからでないとわからないという欠点があるが、シスタチンCは割と早期から上昇する。

ただし、シスタチンCは腎臓以外でも数パーセント分解されるため頭打ちとなり、末期腎不全(mGFR<15)時に精度が落ちる。

また、ステロイド投与や甲状腺機能亢進症によりシスタチンCは高くなってしまう=過小評価。シクロスポリンでは低下する=過大評価。



CCr、標準化eGFR、個別化eGFRの比較、換算

クレアチニンは尿細管分泌されてしまうため、若年者において、eCCrをeGFRに直すときは0.7~0.8をかける
高齢者の場合、eCCrは年齢による低下の影響を受けやすいため、0.789をかけないでeCCr≒eGFRとする。

実例での比較

高齢者、筋肉量などの影響がどのようにでるのか。
日本腎臓病薬物療法学会HPで自動計算できる。

女性、76歳、体重32㎏、身長144㎝
血清クレアチニン(Scr):0.6でそれぞれの推算式を用いて計算すると

eCCr:60.6(ml/min)
個別化eGFR:48.1(ml/min)

となる。
60を境に投与量が変わるような薬物ではCCrとeGFRどちらを用いればよいのか判断できない。

この場合、患者さんの筋肉量がどういう状況であるのか等を考慮し判断するか、シスタチンCを用いるか、実測値を用いらなければ本当に適切な投与量は求められない。

あとは薬効を優先すべき状況(生命にかかわる感染症etc)なのか、安全性を優先すべき状況(慢性疾患etc)なのかにより投与量を決定していく。


まとめ

通常の患者
CCr(ml/min)、eGFR(ml/min)どちらでも腎機能評価は可能。
日本人データで作成されているeGFRのほうが精度は高い。

筋力低下(高齢者、寝たきり)
eGFRは過大評価となりやすい。
CCrはeGFRよりましだがそれでも過大評価となる可能性はある。(SCr<0.6は注意)
eGFR(シスタチンC)が適しているが、末期腎不全時や特定の薬剤使用時は注意。

確実なのは実測値だが、一般的に測定困難。

腎機能評価は上記数値だけでなく、その薬物の緊急性、安全性を考慮し投与量を考える。


 2019年11月4日

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