透析患者に対するDOAC投与

イグザレルト、エリキュース、リクシアナなどのDOACは透析患者に投与可能か?

DOACはeGFR<15又は<30で禁忌とされている。
このため通常透析患者でも禁忌であるが、まれに処方を見る。

アメリカではアピキサバンやリバーロキサバンは適応が通っており使用されている。

安全性・有効性について現在どういう状況なんでしょうか。


DOACの腎排泄率


日本内科学会雑誌に排泄率、透析除去率がわかりやすく記載されている。


成分名 ワルファリン アピキサバン リバーロキサバン ダビガトラン エドキサバン
商品名 ワーファリン エリキュース イグザレルト プラザキサ リクシアナ
腎排泄率 1%未満 27% 36% 80% 50%
透析除去率 1%未満 7% 1%未満 50-60 % 9%


ワーファリンは見ての通り肝代謝であるが、血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関 するガイドラインでは有益性がある場合のみ投与となっており、推奨はされていない。

これを考えるとほかのDOACは投与すべきではないと思ってしまいますが、実際の安全性・有効性はどうなんでしょうか。


DOACの透析患者への投与

各国のガイドラインの記載

日本のガイドライン:DOACに関する記載なし。
FDA:アピキサバンのみ承認
AHA/ACC/HRSガイドライ ン:全てのDOACについて推奨しない
欧州不整脈学会ガイドライン:全てのDOACについて推奨しない

→現時点では透析患者に対してルーチンで抗凝固療法を行うことが推奨されていない。※1

「ルーチンでは」ということで投与される場合もある。
後述の通り、米国では抗凝固療法を行っている透析患者の5%程度にDOACが処方されているとのこと。

現在CHA2DS2-VAScスコア2点以上の心房細動を合併した血液透析患者を対象に,DOACとVKAの多施設無作為化比較試験が3試験(リバーロキサバン1試験,アピキサバン2試験)行われているそうです。※1

終了は2019年となっているため、今後安全性、有効性に関する報告が出てくると思われる。

追記
アピキサバン:RENAL-AF試験→終了している(論文化されていないよう)。出血も脳卒中も有意差はなかったよう。
アピキサバン:AXADIA試験→2022年終了予定
リバーロキサバン:valkyria試験→終了し、結果出ている。(2020 Jan;31(1):186-196.)


リバーロキサバンVSワーファリン(Valkyria試験)

上記のvalkria試験の結果について。オープンラベルの無作為化比較試験。

試験の目的としては、ワーファリンには石灰化予防因子を阻害してしまう恐れがあり、大丈夫なのか?というもの。
比較されたのかリバーロキサバン。

副次評価項目で出血も見ている。

主要評価項目:冠動脈と大動脈の石灰化スコア
副次評価項目:大動脈弁と僧帽弁の石灰化スコア、総死亡、急性冠症候群、全身塞栓症、大出血など。
対象患者:心房細動を持っている血液透析患者132例をワーファリン単剤、ワーファリン+リバーロキサバン、リバーロキサバン単剤の3群に割り付け。
追跡期間:18か月

ワーファリン単剤群ではINRを2-3に保つ
リバーロキサバン群は10㎎/日
ワーファリン+リバーロキサバン群はワーファリン2㎎週3回とリバーロキサバン10㎎/日

結果:重度の大出血はリバーロキサバン群で有意に少なく、その他の項目は有意差なし


石灰化抑制に関してはワーファリンでも関係なさそう。
高度大出血以外はワーファリンとかわりないようで、使えるのでしょうか。

それとも、そもそもワーファリンの使用に関して結論がでていないのでリバーロキサバンもこれだけでは微妙な感じなんでしょうか。


ワーファリンVSアピキサバン

ワーファリンとアピキサバンのレトロスペクティブな報告がいくつか。


デザイン:後ろ向きコホート 
対象:発作性心房細動合併、維持透析患者、2082例 
評価項目:脳卒中、TIA、全身性血栓塞栓症での入院 
結果:アピキサバン群(521例)と抗凝固薬なし群(1561例)で主要評価項目の発現率低下なし(HR;1.24, 95%CI 0.69-2.23, P=0.47) アピキサバン群で、致死的出血または頭蓋内出血が有意に増加(HR:2.74, 95%CI 1.37-5.47, P=0.004) 傾向スコアマッチングによる後ろ向きコホートですが、一番安全性が高いであろうと思われていたアピキサバンも微妙な結果。


デザイン:後ろ向きコホート
対象:心房細動合併、血液透析患者、9404例(アピキサバン:2351例、ワーファリン:7053例)
評価項目:出血、塞栓症、総死亡など
結果:脳卒中/全身性塞栓症のリスクに有意差なし(HR、0.88  95%CI 0.69-1.12)。大出血はアピキサバンで有意に低いこと(HR、0.72; 95%CI、0.59-0.87)
アピキサバンを2.5mg/回でなく、5㎎/回だと有意に塞栓症、死亡が減っていた。
ダビガドランやアピキサバンも調べようとしたけど少なかったからアピキサバンとワーファリンだけ比較したよう。

アピキサバンを通常量の1日2回1回5㎎で投与すると出血は高くならず有効であったという結果になっている。


安全性・有効性に関する記載

FDAにおいて認められているアピキサバンに関しても、"添付文書ではPK/PDデータにもとづき,これらの患者に対しても通常とおりアピキサバン5mg 1日2回(80歳以上あるいは体重60kg以下の場合,2.5mg 1日2回)としているが,全体の結果と同様の有効性や安全性が期待できるかはわからないと記載されている※2"そうです。

以下は※3抜粋
"CKD症例においては,サブ解析の結果,それぞれワルファリンと同様に出血性合併症の頻度が高くなることが報告されている.

しかしそれでも適切な用量設定の下で投与された NOACは,少なくとも非末期CKD 患者においては,ワルファリンよりも有効である可能性が高い. ~中略~なお米国では,開発時のデータを基に,FDAが4期のCKD患者に対する ダビガトラン75 mg 1 日 2 回の投与を承認している. 

また最近の報告では,米国では NOACが発売されてから透析患者におけるNOACの投与も実際になされて おり,抗凝固療法患者の5.9%は,ダビガトランまたは リバーロキサバンから投与が開始されているという.

しかし出血性合併症による死亡は,ダビガトラン服用者でワルファリン服用者の1.78倍(95 % 信頼区間 1.18– 2.68),リバーロキサバン服用者で 1.71 倍(同 0.94–3.12) と高い. CKD 患者に対する NOAC の有効性,安全性に対する報告は,その後も少しずつ新たな知見が明らかにされようとしており,CKD患者,透析患者への適応拡大も 期待される.ただし安全な使用のためには,定期的な腎機能のモニタリングが欠かせない."


まとめ

(心房細動を合併した)透析患者において、抗凝固療法がそもそもルーチンに推奨されない。

DOACにおいて、アピキサバンは米国において唯一禁忌となっていないが、安全性・有効性は不明。(出血がワーファリンと比較して高くなっている報告あり)

現在リバーロキサバンとアピキサバンに関して臨床試験が進められている。


※1 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号
※2 抗血栓療法トライアルデータベース 欧州心臓病学会学術集会(ESC 2017)2017年8月26〜30日,バルセロナ
※3 第40回日本脳卒中学会講演 シンポジウム CKD 患者への抗凝固療法による脳梗塞予防
※4Mavrakanas TA, et al. Apixaban versus No Anticoagulation in Patients Undergoing Long-Term Dialysis with Incident Atrial Fibrillation. Clin J Am Soc Nephrol. 2020 May 22.
 2019年11月5日

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