飲んではいけない薬の根拠は? ~②スタチン系~

週刊誌で叩かれているクレストール(ロスバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)などの高コレステロール血症治療薬の有効性について

こちらもとある週刊誌で医師が自分では飲みたくない薬として紹介されている高脂血症治療薬(高LDL血症)の第一選択薬※1です。

飲まない理由としては、「70歳以上ではコレステロール高めの人が元気に生活している。コレステロールは必要なもので下げる必要がない」、「頸動脈エコーで所見がなく、血中コレステロール値が250以下であれば処方しないし自分も飲まない」との記載がある。

患者さんの既往歴等に関して何も触れずにコレステロールは必要で,下げる必要がないとはすごい解釈ですね・・・

(週刊誌で答えいてる)医師が飲みたくないらしいスタチン系の有効性について

LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)は動脈硬化の原因であり、心疾患のリスクを増加させる。

各ガイドラインの記載は以下の通り。

脂質異常症に関するガイドライン

動脈性硬化疾患予防ガイドライン2017(日本動脈硬化学会)の内容

既往歴(糖尿病、慢性腎臓病、 非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患)や年齢、喫煙歴より低、中、高リスク群に分ける。(吹田スコアというものがある)

・高リスクに関しては一次予防よりLDL120未満を目標にする。
・二次予防(心筋梗塞の経験がある人)はLDL100未満(合併症によっては70未満)を目標にする。


高齢者脂質異常症ガイドライン2018 (日本老年学会)の内容
・高齢者において,総コレステロール,Non HDL コ レステロール,LDL コレステロール値が高くなれば,冠動脈疾患の発症が増加する.
・高齢者におけるスタチン治療は冠動脈疾患の二次予防効果が期待できる(推奨グレード A)
前期高齢者(75 歳未満)の高LDL-C血症に対するスタチン治療は冠動脈疾患,非心原性脳梗塞の一次予防効果が期待できる(推奨グレード A)
・後期高齢者(75 歳以上)の高 LDL-C血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない

※推奨グレードA:質の高い論文がある 又はいくつかの論文で同じ結論

高リスクは何もしないと10年間のうちに冠動脈疾患を起こす可能性が9%以上と推測されている。

なぜここまで下げるべきかというと、下げることによるメリットがいくつかの大規模臨床試験で証明されているからです。※2


なので、少なくとも週刊誌の70歳以上は下げる必要ないという文言は違和感。


たしかに、75歳以上に対する一次予防は有効性が明らかでなかったり、余命1年未満では有効性がないとの報告や、65歳以上で既往歴がない場合には1次予防として死亡率は減らせなかったとする報告はありますが、それでも脳卒中、心筋梗塞の発生は減らすことができています。※3

※一次予防:一脳梗塞や心筋梗塞に一回もなったことがない人に対する予防効果
※二次予防:1度はなったことがある人の再発予防効果

そして逆に高齢者(平均73歳)に対してスタチン投与により死亡率、冠動脈疾患ともに減少したとする試験もあります。※4

ですので現時点で処方されている人で75歳以上で今まで心筋梗塞になったことがない人や高リスク群に入らない人はもしかしたら飲まなくてもいいかもしれませんが、それ以外の人は通常必要です。

なんなら低リスク群に対する有効性も報告されている。※5



次は心筋梗塞に関するガイドライン上のスタチンに関する記載について

心筋梗塞の2次予防に関するガイドライン

心筋梗塞2次予防に関するガイドライン2011

・クラスⅠ
1.高LDLコレステロール血症にはスタチンを投与する. (エビデンス A)
2.高LDLコレステロール血症にはスタチンに加え高 純度EPA製剤も考慮する. (エビデンス B) 
心筋梗塞の2次予防としては高LDLにはスタチン投与は行うべきとなっている。

値としてもLDL100未満を目標にすべきとされています。

臨床試験の詳細についてはガイドラインに細かく書いてありますが多すぎるので割愛。気になる方はこちら:心筋梗塞2次予防に関するガイドライン2011(P25-26)


週刊誌に語っている方が飲まないのは自由ですが・・・診断されて、理由があって処方されている方がほとんどですので、しっかり服用しましょう。


スタチン系の主なエビデンス(ガイドラインより抜粋)
心筋梗塞患者の後ろ向き研究
プラバスタチン投 与群(17.1/1,000人・年)の心血管イベント発症率はコレステロール低下薬非投与群(54.3/1,000人・年)より 低かった。さらに死亡率もプラバスタチン群が有意に低かった

REVERSAL試験
プラバスタチン40mgによる通常療法(LDLコレステロール:110mg/dL)とアトルバ スタチン80mgによる強化療法(LDLコレステロール:79mg/dL)を比較した結果,強化療法群でアテローム進展が有意に抑制.

PROVE IT-TIMI 22試験
プラバスタ チン40mgによる標準的治療(LDLコレステロール:95mg/dL)とアトルバスタチン80mgによる強化療法(LDLコレステロール:62mg/ dL)を比較したところ,強化療法群で死亡および主要心血管イベントの相対リスクが16%低下

※5メタ解析
27試験/17万4,149例(スタチン vs 対照:22試験/3万4,537例m強化スタチン療法 vs スタチン通常療法:5試験/39,612例)。
主要血管イベントは LDL-Cの低下によりリスクは有意に低下(LDL-C 38.7mg/dL低下あたりのリスク低下率0.79)。これは年齢,性別,LDL-Cベースライン値,血管疾患既往,血管死/全死亡にかかわらず認められた。

※6メタ解析
スタチンによる標準的治療(目標LDL-コレステロール:100mg/dL)と積極的脂質低下療法(目標LDL-コレステロール:80mg/dL未満)を比較したランダム化試験のメタ解析では,積極的脂質低下療法は標準的治療と比べて総死亡に差はなかったが,主要心血管イベン トや脳血管障害が有意に抑制された


まとめ

心筋梗塞の既往歴がある人はLDL100未満を目標に。さらに低いほうが再発生率が下がるとの報告もあり。

既往歴がない人でも合併症や喫煙歴によって一次予防からLDL120未満を目標にする。

1次予防に限っては、高リスク群に該当しない場合や75歳以上の場合は不要な可能性もある。


※1 脂質異常症診療ガイド2018
※2 動脈性疾病予防ガイドライン2017
※3 Lancet. 2010 Nov 13;376(9753):1670-81
※4 Lancet. 2002 Nov 23;360(9346):1623-30.
※5 Lancet. 2012 Aug 11;380(9841):581-90. 
※6 J Am Coll Cardiol. 2006 Aug 1;48(3):438-45. Epub 2006 Jul 12. 
 2020年2月27日

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