NSAIDsと腎機能低下について

NSAIDsはCKD患者の腎機能低下にどの程度影響する? 健常人でも腎機能低下を起こす? 薬剤ごとにリスクは異なる?

「NSAIDsは重篤な腎機能障害に禁忌。」

「NSAIDsは腎機能を低下させる。」

このように覚えている人がほとんどかと思いますが普通に処方はみる。
CKD患者の腎機能をどの程度悪化させていくのでしょうか。

NSAIDsはCOX阻害により腎血流量を低下させるので、AKIが起こらなくても徐々に腎機能を悪化させていきそうですが、実際はどうなんでしょうか。


NSIADsの長期投与と腎機能の推移

ガイドライン上の記載

CKD診療ガイド※1には以下の記載がある。

CQ 1 疼痛のあるCKD患者にNSAIDsかアセトアミノフェンのいずれが推奨されるか? 

推奨  疼痛のあるCKD患者への短期投与においては,特に腎血流やGFRの減少している高齢 者を中心にアセトアミノフェンはNSAIDsより安全な可能性があり,その使用を提案する.ただしアセトアミノフェンについても長期投与時の安全性は不確定である (D2) .

"アセトアミノフェン,アスピリンを含むNSAIDsの長期投与を検討した症例対照研究ではアセトアミノフェン,アスピリンのいずれも腎不全発症へ寄与する可能性が示唆され,また別の後ろ向き研究では,CKDステージG3~5の進行例においていずれの薬剤においても投与量とCKD進展には明らかな関連性はないとされた.しかし同一著者らによるアスピリン常用,アセトアミノフェン常用,非常用の3群の比較では前2者で腎機能の悪化はむしろ緩徐であったとする報告もあり,見解が一 定しない.また,アセトアミノフェンは他の鎮痛薬との複合剤の長期大量服用が原因で腎乳頭壊死をきたすという報告もあり,複合剤を含むアセトアミ ノフェンの長期投与時における安全性に関しては明 確なエビデンスはない.


CKDステージ3~5を対象としたメタ解析の結果


以下のメタ解析※2では投与量によって、異なるとの報告。
対象:45歳以上 CKDステージ3~5
評価:eGFRが15以上低下した場合を悪化と定義
解析:7つの試験(コホート5つ、症例対照研究1つ、横断研究1つ)
投与期間:6カ月以上
その他:NSIADsの高用量、通常用量は研究者があらかじめ定義したものを使用
結果通常用量では悪化リスクなし(95%CI 0.86-1.07) 高用量では悪化リスクあり(95%CI 1.06-1.50)




当たり前のように腎機能障害=NSAIDs使わずアセトアミノフェンと考えることが多いですが、CKD3-5患者において、アセトアミノフェンなら大丈夫という根拠もなさそう。

NSIADsで腎機能悪化が見られた試験では、アセトアミノフェンでも腎機能が悪化している。


NSAIDsとAKIについて

CKD患者がNSAIDsによりAKIを起こしやすいということはいくつも報告があるので、AKIが起こりやすい投与初期(2~7日)やAKIのリスクとされている低アルブミン患者、高齢者、脱水、利尿剤使用者などは要注意で、継続している患者さんの今後の腎機能低下を危惧して中止する必要はないのかもしれないですね。

ただ、健常人ではAKIの発症リスクにならないとのコクランの報告※3もある。
こちらは正常腎機能者において、術後の短期的な投与は腎機能に影響しないので、差し控える必要はないと結論付けている。

ですが、NSAIDs個々のAKIリスクを評価したメタ解析では、ほとんどすべてのNSAIDsで有意にAKIリスクとなっているとしている。※4
全文見れないため、投与期間や対象患者は不明。


健常人(腎機能正常者)もNSAIDsで腎機能は低下する?

NSAIDsの投与で腎機能が低下するかについて、eGFR60ml/分以上の18歳以上1,982,488人)を対象とした後ろ向き研究の報告が2021年にされている。※5

対象者のeGFRベースライン中央値は113となっており、腎機能低下のない集団となっている。

追跡期間は6.3年で、ベースラインの患者背景で補正して、NSAID非投与群とNSAIDs投与群のリスクを算出している。

eGFR30未満になってしまうリスクはNSAIDs投与で1.71倍、eGFRが30%低下するリスクは1.93倍となった。


NSAIDsごとの腎機能への影響

それぞれのリスク比が出されている。

NSAIDsごとの腎機能に与える影響 ※5より

もっともリスクが低かったイブプロフェンでもHR 1.12( 95% CI 1.02 ~ 1.23)で有意差をもってリスクとなっている。


まとめ

理論上、NSAIDsは腎機能を悪化させると考えられているが、短期は影響なさそう、長期は影響ありそう。

・CKD3-5患者において、短期投与であればNSAIDsが腎機能悪化には寄与しなそう。
・CKD3-5患者において、長期投与では悪化するとの報告。
・アセトアミノフェンのほうが絶対安全という根拠もない。
・通常用量(定義は曖昧)であればCKDを悪化させないとの報告。
・健常人に短期使用であればAKIのリスクもあがらない。
・健常人でも長期(追跡6.3年)では非投与と比べて有意にeGFRが低下するとの報告。

※1 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018 日本腎臓病学会
※2 Fam Pract. 2013 Jun;30(3):247-55. Epub 2013 Jan 8. 
※3 Cochrane Database Syst Rev . 2007 Apr 18;2007(2):CD002765.
※4 Eur J Intern Med . 2015 May;26(4):285-91.  
※5 Clin J Am Soc Nephrol. 2021 Jun;16(6):898-907.
 2021年6月30日

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