イソジンうがい液からのヨウ素吸収量と甲状腺機能異常

イソジンうがい液(ヨウ素含有うがい薬)の過剰使用で本当に甲状腺機能異常は起こる? うがい液からどの程度ヨウ素は吸収される?

コロナにイソジン(ヨウ素含有製剤)のうがいが効くと騒がれ、一時期品薄になった。
その後学会からヨウ素系うがい液の使い過ぎに関して注意喚起がされた。


ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必要。

なので、欠乏すると甲状腺低下症になる。

しかし、通常の食事で足りている地域では、逆に過剰摂取すると甲状腺機能が低下する場合があると言われている。(機序は推測されているが、明らかにはされてはいない)

逆に欠乏地域で過剰に摂取すると甲状腺機能亢進症がみられることもあるらしい。


ただ、この辺の日本人に対するエビデンスがあまり見つからない。
そうなるかもと書かれている記事はよく見るが根拠が見つからない。

何か文献がないか探してみました。


ヨードの過剰摂取が甲状腺機能に与える影響


ヨウ素のサプリメントの接種と甲状腺機能低下症に関する研究

デザイン:RCT
対象:甲状腺機能が正常な256名(中国人対象) 4週間
介入:0~2000μgのヨード投与
結果:高投与群(1500-2000μg)で甲状腺の質量が減少、無症候性甲状腺機能低下症が400μg群で5%、500-2000μg投与で15-47%に見られた。

※甲状腺機能低下症(TSH> 5 mIU / LおよびFT4 <11.5 pmol / L)および無症候性甲状腺機能低下症(TSH> 5 mIU / Lおよび正常なFT4)で判断。

以下、各群の無症候性甲状腺機能低下症の発生割合。発症割合に関して検定は行われていないが、すべての群で0μgと比較して有意にTSHが増加。ただし、200μgまでは正常範囲の値とのこと。
750μg超えたあたりから明らかに発症率が増えている。
投与は4週間までで、その後のフォローアップを見ると中止すれば1,2カ月後には正常に戻っている。

サプリで400μg+食事量の接種も勘案して、1日800μg(0.8㎎)で危険なのではないかと結論付けている。

以下に記載していますが、ヨウ素の許容量は人種差(地域差)が大きいので、この結果は日本人対象じゃないのであまり参考にならないかも・・・


日本人の摂取上限について

ちなみに、日本人の食事摂取基準は1日に摂取してよいヨウ素の量を3㎎としている。※2

ただ、「日本人において、推定平均必要量の算定に有用な報告がないため、欧米の研究結果に基づき成人と小児の推定平均必要量と推奨量を算定した。」と書かれている。

上限に関しては「耐容上限量に関しては、日本人がヨウ素を食卓塩ではなく一般の食品から摂取しているこ と、通常の食生活においてヨウ素過剰障害がほとんど認められないことから、日本人のヨウ素摂取 量、日本人を対象にした実験及び食品中ヨウ素の吸収率に基づき策定した」とのことで、こちらは日本人に当てはめて問題なさそう。

連日1.7 mg/日のヨウ素(ヨウ化物)を摂取した人に甲状腺機能低下が生じることから、アメリカ・カナダの食事摂取基準は成人のヨウ素の耐容上限量を 1.1 mg/日としている。~中略~。しかし、日本人のヨウ素給源である昆布に含まれるヨウ素の吸収率がヨウ化物よりも低いとする報告があること~中略~この値は日本人のヨウ素の耐容上限量に適用できないと判断した。  前述のように、日本人のヨウ素摂取量は平均で1〜3mg/日と推定できるが、甲状腺機能低下や甲状腺腫の発症は極めて稀である。これより、我が国の一般成人に限定すれば、3mg/日をヨウ素摂取の最大許容量、すなわち健康障害非発現量とみなせると判断した。そして、3.0mg/日が 一般集団についての推定値であることから、不確実性因子を1として耐容上限量を 3.0mg/日と試算した。

こちらにある程度根拠も載っていました。
それぞれ引用文献もあるので気になる方はご確認ください。

一般的に日本人は3㎎とってても異常内からその量は大丈夫でしょ、という感じ。

どのくらい摂取すると甲状腺機能に異常が生じる?

先ほどの食事摂取基準を読み進めると以下の記載もある。

"我が国の健康な者を対象にした実験では、昆布から 35〜70 mg/日のヨウ素(乾燥昆布 15〜30 g)を10人が7〜10 日間摂取した場合に血清TSHの可逆的な上昇 、27 mg/日のヨウ素製剤を28日間摂取した場合に甲状腺機能低下と甲状腺容積の可逆的な増加※5が生じている "

引用文献※5を見てみましたが、対象は10人、甲状腺機能低下(=TSHの上昇)はみられたが、8人は正常範囲内での変化とのことで、これだけ接種しても日本人は影響が出ていない人のほうが多い。

日本人対象の健常人がどのくらい摂取すると低下症リスクが高まるか、これだけでは不明でした。

せめて甲状腺機能低下症になった人の症例対照研究とかないんですかね・・・


イソジンのヨード含量および吸収量は?

イソジンうがい液中のヨード含量

医療用医薬品のイソジンうがい液(イソジンガーグルなど)は7%。
「ポビドンヨード」として7%であり、ヨウ素に換算すると7mg/mlとなっている。※4

1回のうがいで2~4mlなので、1回のうがい液のヨウ素含量は14~28㎎。
(ただ、このすべてが吸収されるわけではない)


うがい液中のヨードはどの程度吸収される?

上記記の文献では結論として1日上限3㎎であれば日本人はまず安全なようですが、イソジンうがい液の過剰使用はどのくらい摂取することになるのでしょう。

コロナ禍のイソジン使用について学会から以下の通知に以下の記載がある。※3

"ヨウ素系のうがい薬には 7%の「ポビドンヨード」が含まれており、 15—30 倍に希釈して使用しますが、1回のうがい液には 14-28mg のヨウ素が含まれます。このうち口腔、咽頭粘膜から体内へ吸収されるヨウ素の量は不明ですが、日常、食品から摂取する量よりもかなり多いヨウ素が吸収される可能性があります

前半は上記で述べた通り、添付文書の内容ですね。

結局吸収量は不明なんですね。
文献みつからないですし、色々調べるとUMINの臨床試験登録情報で、「ヨウ素系口腔消毒剤の甲状腺機能への影響、予備実験:口腔消毒剤からのヨウ素吸収量」といったもが見つかりましたが、試験終了予定は2022年3月となっている。(その他中止となってしまっているにたような試験もあった)

現状情報がないため、臨床試験を行っているようですね。

まとめ

ヨウ素摂取量と甲状腺機能障害の発現に関して、人種差(地域差)が大きい。

日本人は割と多めにとっても影響がでることがなく、上限は3㎎/日。

日本人がどの程度ヨウ素を摂取すると甲状腺機能に影響がでるかは不明。

イソジンうがい液1回でヨウ素14~28㎎だが、吸収量は不明。臨床試験進行中。


※1 Am J Clin Nutr . 2012 Feb;95(2):367-73. 
※2 日本人の食事摂取基準(2020 年版) 厚生労働省 
※3 新型コロナウイルス感染症への ヨウ素系うがい薬の使用についての見解 
※4 イソジンガーグル液7% 添付文書
※5 J Clin Endocrinol Metab . 1993 Mar;76(3):605-8.  
 2021年7月1日

関連記事