呼吸困難の緩和に用いる薬剤(非がん性)

 COPDや間質性肺炎(突発性肺線維症)に用いる緩和療法(オピオイド,ベンゾジアゼピン系等)のエビデンス

がんの呼吸器症状の緩和に関するガイドラインや、CODPガイドラインには多少記載があったが、非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021が出された。

まだまだエビデンス不十分な部分が多いようですが、COPDや間質性肺炎(突発性肺線維症)を中心に乗っていたので、薬剤に関する部分を簡単にまとめ。

注:非癌性の呼吸器症状(呼吸困難)にオピオイドなどは適応はなし。

基本

非がん性呼吸器疾患終末期の難治性呼吸困難に対する緩和ケアは,基礎疾患に対して標準的治療が最大限施行されていることが必須条件
標準的治療が最大限施行されても呼吸困難が持続・悪化する場合には,症状緩和のための非薬物療法(NPPV,HFNC,多職種介入等)を上乗せする。
非薬物療法による緩和ケアを行っても症状緩和が不十分な場合に,薬物療法としてオピオイド(モルヒネ,コデイン)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン)の 使用が考慮される。

呼吸困難の評価には,原則として患者が口頭でも回答可能なNRSを使用するが,Visual Analogue Scale(VAS)での評価も選択肢。

急性期疾患に対する酸素療法においては,BTS酸素療法ガイドラインでは,高CO2血症のリスクがなければSpO294~98%,リスクがあればSpO288~92%に酸素飽和度の目標をおいていたが,より新しいガイド ライン※1では目標の酸素飽和度をSpO290~94%とさらに低い数値を提唱している。


間質性肺炎

モルヒネ

特発性肺線維症(IPF)の呼吸困難に対するシステマティックレビューでは,エビデンスレベルは弱いもののCOPDと同様に酸素やモルヒネ,呼吸リハビリテーションなどの有効性が示唆されている。※2

ランダム化比較試験にて、労作時呼吸困難を有する線維化を伴う間質性肺疾患患者にモルヒネ速放製剤 1 回 5 mg /1 日4回(vsプラセボ)の7日間内服は、呼吸困難(VASの変化)の改善なし。

鎮咳薬

IPFの咳嗽においては咳反射を抑制する直接的治療薬である中枢性鎮咳薬が一般的に用いられるが, その効果は限定的であり,十分に抑制できないことが多い
また抗線維化薬の鎮咳効果については評価が不十分。

酸素投与の有効性

間質性肺炎においては,2016 年のシステマティックレビュー※3では酸素の労作時呼吸困難の緩和効果を確認することができなかった。
その後,2018 年に 84 名のILD(fibrotic ILD)患者を対象として行われた労作時のみの酸素吸入と酸素吸入なしの2週間ずつのクロスオーバー試験ので、酸素が労作時呼吸困難を緩和することが示された※4。ただしこの研究では対照群が吸入なしであり,盲検化されていないことが問題として指摘されている。


COPD

モルヒネ

COPD終末期の難治性呼吸困難において,薬物療法の第一選択薬となるのはモルヒネの全身投与である。ベンゾジアゼピン系薬は用量依存性に死亡リスクを増大させるが,オピオイドはモルヒネ換算で30mgまでの低用量であれば死亡リスクに影響しない。※5

メタ解析の結果が複数
・呼吸困難を有する患者に対するオピオイドの効果を検討したプラセボ対照ランダム化比較試験のメタ解析では、オピオイドはプラセボに比べて有意に呼吸困難を改善し, COPD患者を対象にしたサブグループ解析でも同様の結果。

・別の人が行った上記のメタ解析の、COPD 患者を対象にしたサブグループ解析でオピオイドは、プラセボに比べて有意な呼吸困難改善効果を示さなかった(オピオイドの全身投与と吸入投与が区別なし)。

・上記メタ解析後に行われたランダム化比較試験も加えて,COPD 患者を対象にした呼吸困難に対するオピオイドのメタ解析では,オピオイドは全身投与も吸入投与もプラセボに比べて有意に呼吸困難を改善。(小規模な試験が多かった)

→結局明確な有効性は不明?

マクロライド

マクロライド療法は慢性気道感染を併存しているCOPD患者において喀痰症状の改善効果あり。※6


薬剤ごとの投与方法、エビデンス

オピオイド

実際のオピオイドの導入においては,モルヒネ10㎎/ 日以下の定期投与(4~6時間毎)で開始するか,モルヒネ2~3mg/ 回の屯用から開始し,定期投与量を決めていく。(注射の場合、0.25㎎/hから開始)

換算可能な用量まで増量後は、モルヒネ徐放性製剤の使用が望ましい(保険適用外)。 モルヒネ投与中は,呼吸数や可能であれば,動脈血二酸化炭素分圧をモニターする。少量からの投与であれば,二酸化炭素の蓄積することなく,呼吸困難を緩和できる症例が多い。

モルヒネ30mg/日(内服)より多い量では死亡リスクが高くなる可能性が示唆されているが,30mg/日以下の投与では死亡率と相関しないことが明らかになっている、※7

→COPD、間質性肺炎ともにこの量。オキシコンチンやフェンタニルに関する記載はなし。



ステロイド

非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対するコルチコステロイドの有用性は明らかではないが,食欲不振・悪心,倦怠感に対する効果はある程度期待できる。

呼吸器疾患の終末期症例を対象とした研究は検索できなかった。進行したCOPD 患者を対象に 2 週間の経口コルチコステロイド(40 mg のプレドニゾン) 投与を行ったランダム化比較試験では,呼吸困難の有意な改善はなし。※8

COPD患者を対象に2年間の吸入ステロイド単独群,吸入ステロイドと経口プレドニゾロン併用群,プラセボ群を比較したランダム化比較試験では,吸入ステロイドと経口プレドニゾロン併用群は吸入コルチコステロイド 単独群と呼吸困難の改善に有意な差なし。※9

非がん性呼吸器疾患患者の倦怠感を対象にコルチコステロイドの全身投与の有効性は明らかにされていない。

エキスパートオピニオンとして,実臨床においてプレドニゾロン5 ~ 10 mg/ 日の低用量ステロイドを緩和目的で使用される場合がある
→よって指針でも、非がん性呼吸器疾患の終末期において、プレドニゾロ ン20 mg/ 日あるいはデキサメタゾン 2mg以下から漸減し,効果の認められる最小量で維持するという使用法が提案されている。

ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系薬の呼吸困難に対する有効性を支持するエビデンスは乏しい。(不安、不眠には有効である可能性)

進行がんおよび非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対するベンゾジアゼピン系薬の有効性を調べたメタ解析では,COPD患者においてベンゾジアゼピン系薬はプラセボと比較して有意な呼吸困難の改善なし※10

COPD患者を対象としたろ向き研究で,ベンゾジアゼピン系薬の新規開始は、COPDの増悪、 肺炎による救急室受診のリスクが使用していない患者に比べて高かった。※11

ベンゾジアゼピン系薬の使用が避けられない場合には低用量にとどめる(高用量で死亡リスク増加の報告)。

抗うつ薬

非癌性呼吸器疾患の終末期には71%でうつ病態がみられると報告されている。※12

ベンゾジアゼピン系薬が使用しにくい非がん性呼吸器疾患患者の不安に対して薬物療法が必要な場合にはSSRI やミルタザピンといった抗不安作用を有する抗うつ薬の使用を検討。

抑うつに対してメタアナリシスが1件あるが、十分なエビデンスはなしとの結論。※13
不安に対してはシステマティックレビューが1件あるが、効果は結論付けられない。※14
呼吸困難に対してもエビデンスなし。
抑うつについては大うつ病の診断基準を満たすようであれば、抗うつ薬の使用を検討するのは妥当との記載。

鎮静

最終末期における治療抵抗性の苦痛に対しては、苦痛緩和を目的とした鎮静が治療の選択肢となる。
ミダゾラムが鎮静に使用する薬剤の第一選択薬である。持続鎮静の方法は,苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して持続投与する調節型鎮静を原則とする。


まとめると・・・

原則として、まずは原疾患の標準治療→非薬物療法→緩和(モルヒネ等)

モルヒネの投与は10mg/日以下スタート、最大でも30㎎/日。効果なければ中止も検討
(頓服2~3㎎/回から開始も)。

COPD:モルヒネが多少効きそう(効かないとするメタ解析報告もあり一貫していない)
間質性肺炎:モルヒネに関して、COPDよりさらにエビデンスが低そう。
ステロイド:増悪時の投与は別として、呼吸困難の緩和に対するエビデンスはない。
ベンゾジアゼピン系:不眠/不安には少量で。呼吸困難にはエビデンスなし。


以下、ガイドライン中の引用文献
※1 Siemieniuk RAC, Chu DK, Kim LH, et al. BMJ. 2018;363:k4169.
※2 Ryerson CJ, Donesky D, Pantilat SZ, et al.  J Pain Symptom Manage. 2012;43:771-82.
※3 Sharp C, Adamali H, Millar AB.  Cochrane Database Syst Rev. 2016;7:CD011716.
※4 Visca D, Mori L, Tsipouri V, et al. Lancet Respir Med. 2018;6: 759-70.
※5 Ekström MP, Bornefalk-Hermansson A, Abernethy AP, et al. BMJ. 2014;348: g445
※6Y amaya M, Azuma A, Takizawa H, et al.  2012; 40:485-94.
※7 Ekström MP, Bornefalk-Hermansson A, Abernethy AP, et al.  BMJ. 2014;348: g445.)
※8 Eliasson O, Hoffman J, Trueb D, et al.  Chest. 1986;89:484-90.
※9 Renkema TE, Schouten JP, Koëter GH, et al. Chest. 1996; 109:1156-62.
※10 4Simon ST, Higginson IJ, Booth S, et al.  Cochrane Database Syst Rev. 2016;10:CD007354.
※11 5)Vozoris NT, Fischer HD, Wang X, et al. Eur Respir J. 2014;44:332-40.
※12 Edmonds P, Karlsen S, Khan S, et al. Palliat Med. 2001;15:287-95.
※13 Pollok J, van Agteren JE, Carson-Chahhoud KV. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12:CD012346.
※14 Usmani ZA, Carson KV, Cheng JN, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2011;CD008483.
 2021年10月11日

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