心不全と高血圧に対するエンレストの用法・用量・適応患者

 eGRF<30の患者に対してエンレストは使用可能? 高血圧にはARB/ACEIからの切り替えは不要?

エンレストに高血圧の適応が追加された。

もともと心不全(標準治療を行っていること前提)の適応がありましたが、心不全患者を対象とした臨床試験では、eGFR<30の患者は除外されていた。

では、高血圧では?

勉強会の際に聞いたら基本含まれていませんと答えが返ってきたが、インタビューフォームの臨床試験結果を見るとしっかりやられている・・・
適当に回答されましたね。

高血圧の場合、「第一選択としない」となっているが、臨床試験には未治療患者も少し入っていそう。心不全に使用する場合はARB/ACEからの切り替えだが、高血圧にはその縛りがないなど色々気になる点があるので調べてみました。

腎機能障害患者(eGFR<30)への投与


添付文書の記載

心不全の大規模臨床試験(PARADIGM-HF)においては、eGFR<30は除外

添付文書には以下の記載。
重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2 未満)のある患者 
本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがあり、臨床試験では除外されている。

→禁忌ではないので普通に処方はみるが、エビデンスはない。

でも、欧米の添付文書では半量(=エンレスト50㎎を1日2回)から開始となっている。※2
限られたデータしかないとのことで、多少のデータはあるよう。
eGFR<15に関してはデータがないため薦められないとの記載。



高血圧患者に対しては添付文書を見ると微妙に記載が異なっている。

添付文書には以下の記載。
重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2 未満)のある患者 
本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血清カリ ウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。低用量から開始することを考慮すること。本剤の血中濃度が上 昇するおそれがある

→臨床試験がないと記載されていない。



ので、調べてみると載っていた。

重度腎機能障害患者を対象とした安全性試験※1

患者数:日本人32名
追跡期間:8週間
eGFR:15以上~60未満(内訳:30~60が25名、15~30が7名
収縮期血圧:140以上(既治療薬服用者は中止から2~5週間後の値)
投与量:100㎎/日 より開始し、130/80を超えている場合は200㎎、400㎎への増量可能。

結果、重篤な副作用はなし。
カリウム5.5を途中超えた患者が1名いたが、自然に戻りそのまま継続。

臨床的に意味のある検査値の変化はみられなかったとのことだが、検定等はされていない。
腎機能の数値はほとんど変わっておらず、確かに臨床的な変化はなさそうですが、15~30は7人だけなのでこれだけではなんとも・・・


初回投与時の方法について

高血圧に対して第一選択として使用はできない?

添付文書上は過度な血圧低下がみられる場合があるため第1選択としないことと書かれている。

では、既治療薬に追加する感じか? と考えますが、臨床試験だと既治療薬からの切り替えがメイン。
この試験で1161名中3名だけは未治療者であったため、未治療者に初回からエンレストのエビデンスは確かになさそう。

併用については、アムロジピンとの併用試験もあるが、それ以外はなさそう。
心不全に対して使用している場合は普通にいろいろ併用しているので問題はないのでしょうけど・・・

心不全に関してはそもそも切り替えでの投与および標準的な心不全治療がされていることが前提なのでこちらも第一選択ではない。


高血圧に使用する場合、ARB/ACEIからの切り替えでなくても使用可能??

心不全の場合、ARB/ACEからの切り替えでないといけないのに、高血圧にはこの縛りがない。

第一選択には基本しないので、何かしらでコントロール不良の場合に切り替えるか併用するかになる。※ACEIと併用禁忌は変わらず。(変更時は36時間空ける)

だったら心不全もいいのではないかと思うのですが、エビデンスがないのでそうはいえないのでしょう。


まとめ

eGFR>30未満に対するエビデンスについて、
・心不全でないわけではないが大規模臨床試験では除外。
・高血圧は一応臨床試験やられている。
・15未満はエビデンスない。

初回投与について、
・心不全の場合はACEI/ARBからの切り替えが必要
・高血圧では心不全のような縛りはないが、第一選択としないこととされている。


※1 Hypertension Research (2015) 38, 269–275
※2 エンレスト 添付文書
 2021年11月12日

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