高トリグリセリド(TG)血症の診断基準は150(mg/dl)超えだけど、治療開始基準は違う?
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017では、TG>150を高トリグリセリド血症の診断基準として記載されている。
また、同ガイドラインにおいて、LDLはリスクに応じて管理目標値が異なっているが、TGについては一律150の記載がされている。(下図 日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017 より一部改変)
ですが、現場ではTGが200くらいあってもフィブラート系の処方はそんなに見ない。
LDLは低ければ低いほどいいようなエビデンスがあるので、かなりしっかり下げられている印象ですが、TGはなぜ下げられていなんでしょうか?
動脈硬化性疾患予防ガイドラインの記載
ガイドラインでは、以下の記載がある。
"トリグリセリド
空腹時、非空腹時にかかわらずTG値の上昇は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測する(エビデンスレベル:E-1b)"
エビデンスレベルは低いが、TGが高いと冠動脈疾患、脳梗塞のリスクになる可能性について触れられている。
TG値と心血管イベントの関係
血清トリグリセリドと冠動脈疾患の発生頻度
TGが高いとどの程度リスクになるのか、いくつか文献を探してみました。
TG高値が冠動脈疾患等の発症リスクになるとの報告がいくつか見つかる。※1~6
※1では、TG100までの累積発症率が2%程度に対し、150以上では4%、200以上では8%となっている。(全文読めていないので詳細不明)
※2では、2つの試験集団について、年齢や性別、LDLなど既に冠動脈疾患のリスクとされているものを調整した状態(+回帰減衰修正御)でもトリグリセリドが高い上位1/3の人は下位1/3の集団よりオッズ比が1.76(1.39-2.21)、1.57(1.10-2.24)と有意差をもって高くなっている。
※5は日本人に関する15.5年間の追跡調査。
補正は年齢、BMI、食事から採血の時間、喫煙、総コレステロール、高血圧、飲酒、血糖、閉経有無で調整されている。(HDLは調整されていないよう)TGが84未満に比べて、基準値に近い167超えでは冠動脈疾患の発症が3.5倍となっている。
→TG高値が冠動脈疾患のリスクとなることは確かと思われる。
では、なぜそれでもそんなにさげられないんでしょうか?
フィブラート系の心血管イベント抑制効果
スタチンでもTGは多少低下しますが、通常はフィブラート系。
上記から考えればTGが下がれば心血管イベント抑制しそうですが、フィブラート系の動脈硬化性疾患に関しては、十分なエビデンスがない。
というのも、TG低下による心血管イベント抑制効果をみたランダム化比較試験は複数あるが結果に一貫性がないそうで。
2019年にこれらのRCTを対象としたシステマティックレビューが報告されている。※6
この報告では、LDLコレステロール低下作用を調整しても、TGを下げたほうが少しはリスクが減ったが、報告1件を抜かすと差がなくなってしまうという結果になっています。
対象薬剤はフィブラート系、ニコチン酸系、オメガ-3脂肪酸。
この除外した1件というのはイコサペント酸エチルが使用されている試験であり、イコサペント酸エチルはTG低下作用以外の作用による恩恵(抗炎症作用etc)が強いとされており、やたら影響してしまっているので除外してみたそうです。そうすると差がなくなってしまう(相対リスクは0.91、95%信頼区間:0.81–1.006、 P=0.06)
この報告ではさらにnon-HDL(総コレステロール-HDL)を下げた場合のほうがリスク低下がいいとされている。
ガイドラインでも、LDLの管理が出来てもTGが高い場合は、TGの管理ではなくてnon-HDLの管理をするように記載されている。
ただ、TG500を超えるような場合は急性膵炎のリスクとなるため、生活指導と共にしっかり薬物治療も行う。
まとめ
高TGは冠動脈疾患のリスクとなる。
しかし、フィブラート系等でTGを下げても心血管イベントの抑制効果がはっきりしていないので、150を超えていてるからといって薬物治療開始とはならない
まずはLDLをしっかり下げ、その次はnon-HDL
ただし、TGが500を超えるような場合は急性膵炎のリスクがあるため薬物治療を行う
※1 Therapeutic Reserch, 1993, 14, 551-558.
※2 Circulation, 2007, 115, 450-458.
※3 Circulation, 2004, 110, 2678-2686.
※4 Am J Epidemiol 2001, 153, 490-
499.
※5 Circ J 2006, 70, 227-231.