シックデイ時に中止すべき糖尿病治療薬は?

ガイドライン上でシックデイ時に中止となっている薬剤はどれ?

シックデイ時の対応は基本的に主治医の指示に従う。
ですが、指示を受けていない場合も多い。特に2型糖尿病でそんなに薬の種類も多くない場合はそんな感じが多い。(個人的印象)
 
そのような場合、ちゃんと確認しておくように説明はしますが、通常中止すべき薬剤はどれか、人や病院によって結構異なっているので、一般的な対応をガイドラインより。


シックデイ時の対応 糖尿病診療ガイドライン2019より

Q20-8 シックデイにはどう対応するか。

【ステートメント】
●日ごろから,シックデイの際に医療機関に相談できる体制を確立しておく.
●日ごろから,決して自己判断で経口血糖降下薬やインスリンを中断しないように指導する .
●食事摂取が困難な際は早期に医療機関に連絡し,指示を受ける.
●シックデイの際には,脱水予防のため,十分に水分を摂取し,できるだけ摂取しやすい形(お粥,麺類,果汁など)で糖分を摂取し,エネルギーを補給する.
●できるだけ血糖自己測定やケトン体測定を頻回に行う.


受診勧奨の目安

以下の場合には,速やかに医療機関を受診するべきである. 

①発熱,消化器症状が強いとき 
②24時間にわたって経口摂取ができない/著しく少ないとき 
③血糖値 350 mg/dL 以上の持続,血中ケトン体高値,尿中ケトン体強陽性のとき 
④意識状態の悪化がみられるとき 

来院時には必ず血中,尿中ケトン体の測定を行う. 


薬剤調整について

以下にシックデイに際しての血糖降下薬の使い方の例を示す.実際には,病状,普段の血糖コントロール状況,現在の食事・水分の摂取状況,食事療法の遵守状況なども勘案し個別にインスリンや経口血糖降下薬の使用量を医療機関が指示する. 

[インスリンの場合] 
①中間型または持効型インスリン注射の継続を原則とする. 
②追加インスリンは,食事量(主に糖質)、血糖値、ケトン体に応じて調整する. 
③頻回に血糖値/ケトン体を測定する. 

[経口血糖降下薬の場合] 
インスリン分泌促進薬[SU 薬・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)]:食事摂取不良である場合は調整が必要なため,医療機関に連絡することが望ましい.診察時の状態により中止,減量を判断する. 
αグルコシダーゼ阻害薬:消化器症状の強いときには中止する. 
ビグアナイド薬:シックデイの間は中止するように普段から指導しておく.受診時には, 投薬の変更などを考慮する. 
チアゾリジン薬:シックデイの間は中止することが可能である. 
インクレチン関連薬:シックデイの間の使用については,現在,コンセンサスが得られていない.GLP-1(glucagon-like peptide 1)受容体作動薬については,血糖自己測定値を参考に,インスリンへの切り替えも含めて対応する. 
SGLT2阻害薬:シックデイの間は,中止するように指導しておく.


以上、正直参考にならない気がしてしまう・・・結局は症例ごとに個別の判断が必須ということ。

インスリン製剤は継続/調整、SU剤(速効型含む)は調整/中止、それ以外は中止といったところ。
GLP-1やDPP-4阻害薬に関しては全く不明。ただ、血糖依存的に作用することを考えると一番継続して問題なさそう・・・。


心不全にて服用中のSGLT2阻害薬もシックデイ時は中止?

気になるのはSUGT2阻害薬。
心不全の場合もシックデイ時はやめたほうがよいのでしょうか?

SGLT2阻害薬によるアシドーシスの機序

SGLT2阻害薬は、高ストレス下や絶食時において、血糖の上昇なしでケトアシドーシスを起こす可能性があるため、注意が必要とされている。

シックデイ/高ストレスによりインスリン作用減弱→血糖上昇/グルコースからエネルギーが作られない→SGLT2阻害薬により血糖は低下→脂肪分解でエネルギー産生→ケトン体上昇→血糖上昇を伴わないケトアシドーシス

ジャディアンス訂正使用ガイドのお願い(一部改変) より


中止に関する情報

SGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendationでも「5.発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。」とされております。

これをこのまま心不全でもと考えていいのか不明ですが、糖尿病患者に限らず上記の機序でケトアシドーシスは起こりうると考えられるので、心不全時も同様の対応が必要と思われる。

慢性心不全ガイドラインでは、未解決項目として、「副作用について 泌尿生殖器感染症,正常血糖ケトーシス,ナトリウム利尿亢進と血管内脱水,骨折,サルコペニア,など有害事象への配慮と,これらリスク合併が懸念される心不全症例への配慮」とだけ記載されている。

正常者にSGLT2阻害薬を投与しても低血糖リスク上がらない?

今回の主旨とはずれますが、調べているうちに根本的に気になったので、臨床試験のデータを確認。

添付文書より
”本試験において本剤10mgを1日1回投与した2368例(うち日本人163例)及びプラセボを投与した2368例(うち日本人179例)中、注目すべき有害事象は、体液量減少注10)が本剤10mg群170例(7.2%)及びプラセボ群153例(6.5%)、糖尿病ケトアシドーシスが本剤10mg群3例(0.1%)及びプラセボ群0例、重度の低血糖が本剤10mg群4例(0.2%)及びプラセボ群4例(0.2%)であった。”

低血糖もアシドーシスも特にプラセボ群と差はなし。(ただし、アシドーシスは発症率が低いのでこれだけでは判断できないと考えられる)


まとめ

シックデイ時の対応として、
・症例ごとの対応指示が第1。
・受診勧奨も考慮
・インスリンは自己判断でやめない、SU剤は調整、その他は中止が一般的。(GLP-1関連は不明)
・心不全で使用しているSGLT2阻害薬も同様の対応でよいと思われる(情報なし)

参考
糖尿病診療ガイドライン2019
SGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendation
2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
 2022年2月13日

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