セレコキシブ(セレコックス)とPPIの併用について

 COX-2選択性NSAIDs(セレコキシブ)の場合、胃潰瘍予防としてPPIは併用しなくても大丈夫? 

NSAIDsは胃潰瘍のリスクになる。

普通のNSAIDsと比較し、COX-2選択性のあるセレコキシブではその発現率が低い※1


消化性潰瘍診療ガイドライン2020※2では、NSAIDs服用時は1次予防を含めてPPIの服用を推奨している。

ただし、COX-2選択性薬剤の場合は、潰瘍既往歴の有無などによって推奨が異なっている。
推奨されていないけど、抑制効果ありと書いてあったりと分かりにくいのでまとめてみました。


非選択的NSAIDs服用時のPPI併用について

潰瘍既往歴のない患者(1次予防)


ガイドライン上の記載CQ 5-3 潰瘍既往歴がない患者における NSAIDs 潰瘍発生予防治療は有用か?

NSAIDs 潰瘍の発生予防は潰瘍既往歴がない患者においても必要であり,PPIによる予防を行うよう提案する.(エビデンスレベルA) ※保険対象外

システマティックレビュー※3にて有効性が証明されている
症状のある胃十二指腸潰瘍予防効果あり:PPI、ミソプロストール(PG製剤)
内視鏡的な胃十二指腸潰瘍の予防効果あり:PPI、PG製剤、H2ブロッカー
対象は3週間以上NSAIDsを投与されている患者

もっとも優れているのはPPIとのこと※4(タケキャブはデータなし)




潰瘍既往歴のある患者(2次予防)


ガイドライン上の記載CQ 5-4 潰瘍既往歴,出血性潰瘍既往歴がある患者が NSAIDs を服用する場合,再発予防はどうするか? 

・潰瘍既往歴のある患者のNSAIDs潰瘍の予防には,PPIを推奨し,ボノプラザンを提案する(エビデンスレベルB)
・出血性潰瘍既往歴のある患者のNSAIDs 出血性潰瘍の再発予防には,COX-2選択的阻害薬にPPI併用を推奨する。(エビデンスレベルB)


こちらのCQにCOX-2選択性の話もでてきてしまっていますが、後ほどさらに詳しく。


2次予防はPPI、タケキャブとなっているが、メタアナリシスでPG製剤の有効性が証明されており、直接比較で胃潰瘍予防についてはミソプロストール800μgがランソプラゾール15mg/30mgに勝るとの結果がある。

ただし、PPIとPG製剤の直接比較試験を対象としたメタアナリシス※5では胃潰瘍については有意差なし、十二指腸潰瘍はPPIが勝るとの結果になっているので、最終的にPPIが推奨となってる。(あとミソプロストールは下痢が問題になる)

RCTのエビデンスがあるのはランソプラゾール15㎎、エソメプラゾール20㎎




COX-2選択性NSAIDs服用時のPPI併用について


ガイドライン上の記載CQ 5-7 COX-2 選択的阻害薬服用時に潰瘍発生予防治療は必要か?

胃十二指腸潰瘍既往歴のない患者では潰瘍予防薬の併用は必要ないが,胃十二指腸潰瘍や潰瘍出血の既往歴がある患者では PPI による潰瘍発生予防治療を行うことを推奨する

潰瘍既往歴のない患者(1次予防)

上記の通り、ガイドライン上は必要ないとされている。
ただし、内容をみると、「COX-2選択的阻害薬単独群とプラセボ群で発生率に差はなかった」が、「COX-2 選択的阻害薬の単独使用時とPPI併用時の比較で,PPI の併用が胃十二指腸潰瘍の発症率を有意に抑制するという報告がある」となっている。

つまり、PPI使わなくてもプラセボと同様だから予防効果はないけど、PPI飲んだほうが発症減った≒NSAIDs関係なくすべての人がPPI飲んだほうが胃潰瘍予防になる、と考えられてしまいそう。

さすがにこれで推奨になると費用対効果の問題があるのでしょうか。1次予防の保険適応が通れば処方されまくるのでしょうか・・・


潰瘍既往歴のある患者(2次予防)

こちらは素直にPPIを併用したほうがよいとなっている。

「胃十二指腸潰瘍出血の既往のある対象者では,COX-2選択的阻害薬の単独使用群よりも PPI併用群のほうが潰瘍出血を有意に抑制するという報告がある」と記載されている。

こちらは1報のRCT※6の結果からのよう。
対象:441名、ピロリ菌は陰性、関節炎患者
治療:セレコキシブ400mg/日に対してエソメプラゾール20mgで予防
結果:13カ月後の累積再発率は併用群0%、対照群8.9%




PPIの併用が急性腎障害のリスクになる?

先ほど1次予防でPPI追加でいいのでは? と記載しましたが、最近PPIはNSAIDsと併用するとAKI(急性腎障害)のリスクになるという報告がでてきている。※7

試験デザインはA nested case–control studyというコホート研究の中で症例対照研究鵜のような解析方法をする手法。

結果、PPIとNSAIDを併用した場合のAKI発症率は、NSAIDを使用していない場合に比べてOR3.12(95% CI 1.84~5.37)となった。


これは併用でリスク増加ということではなく、PPIの開始自体がAKIのリスク(同報告では、PPI開始後30日内のAKIリスクは過去のPPI使用者と比べてOR2.79倍とのこと。腎毒性薬物、併存疾患で調整後。)とされており、そこにNSAIDsが入るとPP単独に比べてさらにリスクになるということ。

PPI開始30日が注意とのことで、この時期は注意が必要そう。

そのほか観察研究を対象としたメタ解析でもPPIの使用はAKI,CKDの発症に関与している可能性があると報告※8されており、日本腎臓病学会からもコメントが出された※9経緯がある。

機序としてはpH上昇によるマグネシウムの吸収低下と考えられている。

コメントの内容としては、患者へ与えるリスクとベネフィットを勘案して、漫然とした長期投与を避ける注意が必要ということで、どちらをとるか考えるしかないという状況。



まとめ

非選択性NSAIDs服用時:PPI併用が推奨(1次予防は保険適応ないが)

COX-2選択性(セレコキシブ)服用時:既往歴がなければ不要、既往歴があればPPI

ただし、PPIの併用がAKI、CKDのリスクになるとの報告もあるため注意

※既往歴のある患者は非選択性ではなくCOX-2選択性+PPIが推奨


※1 Arthritis Rheum. 2010 Jun;62(6):1592-601. 
※2 消化性潰瘍診療ガイドライン2020
※3 BMJ. 2004 Oct 23;329(7472):948. 
※4 Lancet Gastroenterol Hepatol. 2018 Apr;3(4):231-241.
※5 Cochrane Database Syst Rev. 2002;(4):CD002296. 
※6 Lancet. 2007 May 12;369(9573):1621-6.
※7 BMJ Open. 2021 Feb 15;11(2):e041543. 
※8 Int Urol Nephrol. 2018 Oct;50(10):1835-1843.
※9 日本腎臓学会 https://jsn.or.jp/medic/newstopics/formember/post-479.php
 2022年12月5日

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