「調剤」の定義 どこまで業務を示すのか?
「調剤」の定義を調べると、色々出てくる。
以前は「調剤」=「薬剤の調製」ととらえることが多かったが、最近は薬剤師が行う一連の業務を「調剤」と考えることが多い。
ただ、こうなると延々に調剤が完了しない(投薬後もフォローアップなどを行うので、一連となると、終わらない)
「調剤」というものを定義している法令や通知はない。
そのせいで、業務中悩ましいことがある。
例えば、調剤録には「調剤並びに情報の提供及び指導を行つた年月日 」の記載が必要である。
処方箋を調剤済みとした場合は「調剤年月日」を記載する必要がある。
以前、個別指導の際、処方箋に押してある調剤年月日と調剤録に記載のある調剤年月日の日付が異なることを注意された。
調剤録の日付は薬剤の調製をした日とし、日付をまたいで監査・投薬した場合、処方箋の調剤済みの旨および調剤年月日は翌日としていたため1日ずれていた。
これを説明したが、同じ「調剤日」なので、同じでないとおかしいと指導を受けた。
「調剤」がどこまでか定義があいまいなので、調剤に取り掛かった日も調剤日だし、完了した日も調剤日ではないのか?と思ったんですが・・・
今回は「調剤」および「調剤年月日」について詳しく調べてみました。
薬剤師法、薬剤師法施行規則の「調剤」に関する記載
(処方せんへの記入等)
第二十六条
薬剤師は、調剤したときは、その処方せんに、調剤済みの旨(その調剤によつて、当該処方せんが調剤済みとならなかつたときは、調剤量)、調剤年月日その他厚生労働省令で定める事項を記入し、かつ、記名押印し、又は署名しなければならない。
(調剤録の記入事項)
第十六条 法第二十八条第二項の規定により調剤録に記入しなければならない事項は、次のとおりとする。ただし、その調剤により当該処方箋が調剤済みとなつた場合は、第一号、第三号、第五号及び第六号に掲げる事項のみ記入することで足りる。
一 患者の氏名及び年令
二 薬名及び分量
三 調剤並びに情報の提供及び指導を行つた年月日
→「調剤並びに情報の提供および指導を行った年月日」との記載がある。
ということは、ここでは「調剤」に「情報の提供」、「指導」は含まれないという解釈か。
そして調剤録には「調剤」「情報の提供」「指導」を起こった年月日を記載することになっている。 それぞれ別日の場合、どうすればいいんでしょうか・・・
薬機法上の「調剤」に関する記載
八 薬局開設者が、当該薬局において薬事に関する実務に従事する全ての薬剤師に対し、一年以内ごとに、第一項に規定する傷病の区分ごとの専門的な薬学的知見に基づく調剤及び指導に関する研修を計画的に受けさせていること。
九 当該薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師が、地域における他の薬局に勤務する薬剤師に対して、第一項に規定する傷病の区分ごとの専門的な薬学的知見に基づく調剤及び指導に関する研修を継続的に行つていること。
→こちらも「調剤」と「指導」は別扱いになっている。
他の箇所にも調剤という単語はでてくるが、「調剤」がどこまでを示すか判断できるような記載はない。
ネット上の記載
【A】
受付日:患者が処方箋を4日以内に薬局に提出した日
調剤日:提出された処方箋の薬剤を調剤した日
調剤済日:調剤が完了した日
例えば長期保存困難な医薬品、または後発品のお試しのために分割調剤をした場合、一部の日数分を調剤した後、処方箋を患者に返却し、後日残りの日数分を調剤します。 この場合、調剤日は複数となり、調剤済日はその処方箋すべてを調剤完了し、患者から処方箋を回収した日となります。
(会員からの回答)
引用:https://closedi.jp/8386/
→おそらく薬剤師会の回答でしょうか。
処方箋に記載するのは「調剤済みの旨」と「調剤日」であって、「調剤済み日」という単語は法令上に出てこない。
「調剤日は複数」隣といわれてしまうと、「調剤年月日」は複数記載することになる? もはや収集が付かない・・・
調剤日が「提出された処方箋の薬剤を調剤した日」となると、受付日1/1、調剤1/1、投薬1/2の場合、「調剤日」は1/1となる。 そうなると調剤録も処方箋の調剤年月日も1/1でということになるが、あくまで会員の回答なので正解かは不明。
厚労省の通知内の「調剤済み」の記載
最近の電子処方箋に関する疑義解釈に調剤済みという単語がでてくる。
医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)
(答)満たさない。電子処方箋管理サービスの仕組みにより得られる薬剤情報は
速やかに閲覧可能であるべきところ、医療機関や患者が最新の薬剤情報を
活用し、そのメリットを享受できるようにするため、やむを得ない事態が発
生した場合を除き、当該処方箋が調剤済みになった日に調剤結果を登録す
ること。
これに伴い「疑義解釈資料の送付について(その2)」(令和6年4月 12
日事務連絡)別添4の問4は廃止する。
→調剤情報を管理サービスに登録するためには投薬も終わって、調剤報酬算定して、会計してすべて完了した状況のはず。なので、ここでいう「調剤済みになった日」は投薬まで含めて完了した日のはず。
普通「調剤済み」といったらこのイメージ。
調剤済みになった日=「薬剤の調製→投薬→算定→会計」
ただ、そもそもの問題である「調剤年月日」がいつかは不明。
フォローアップ手引き上(調剤指針上)の「調剤」に関する記載
薬剤師会作成のフォローアップの手引きに、調剤指針から引用されている調剤に関する概念図がある。
これだと上部に「調剤手順」と記載されている。
この流れすべてが「調剤」という表現と思われる。
福岡県薬剤師会の記載
調剤の定義はあるか?
明確な定義は定められていないが、薬剤師法第1条の薬剤師の任務の解説において、「調剤は特定の人または飼育動物の特定の疾患に対する薬剤を調製することをいう」とある。判例では「調剤」とは一般に、「一定の処方に従って一種以上の薬品を配合もしくは一種の薬品を使用して特定の分量に従い特定の用途に適合する如く特定人の特定の疾病に対する薬剤を調製すること」(大正6年3月19日大審院刑二部判決)とされている。
しかしこの判例の定義は、製剤技術が未発達な時代のもので、現在では処方内容の確認、薬剤の調製、薬歴の作成、薬袋への記入、投薬時の服薬指導、医薬品情報提供など、調剤技術上の行為を含めて調剤の概念が極めて広くなっている。
→やはり定義がないので、時代と共に変わっているという解釈。
その他の報告
調剤の概念とその変遷
(1) 処方監査,薬剤の調製,薬剤の交付
1917(大正 6)年大審院(現在の最高裁判所)判決は,調剤とは「一定の処方に従いて一種以
上の薬品を配合し若しくは一種の薬品を使用し,特定の分量に従い特定の用法に適合する如く,
特定の人の特定の疾病に対する薬剤を調製すること」としている。 ここでは調剤は薬剤の調製を意味する。
薬剤師法では「調剤」は,薬剤調製の意味(「狭義
の調剤」,24 条など)とともに,1 条にみるように薬剤師の業務を代表する「広義の調剤」との
両義で用いられている。三輪は,「概念の相対性は他の法律でも良く見られ,時代の要請に弾力的に即応していくことはそれが法解釈上不合理なものでない限り,好ましいというべき」と
している。
1974 年 6 月の政府国会答弁は,「処方せんの監査,疑問点の照会,それに対する回答の処置,
薬剤の確認,秤量,混合,分割,薬袋薬札のチェック,薬剤の監査,服薬指導」の「一連の行為は調剤の本質的な部分」としている。
堀岡(1993)は,「調剤とは,医師,歯科医師らの処方により,医薬品を使用して特定の患者
の特定の疾病に対する薬剤を,特定の使用法に適合するように調製し,患者に交付する業務を
いい,薬剤師の職能により,患者に投与する薬剤の品質,有効性及び安全性を確保することをいう」としている。
引用元:新しい薬学をめざして 45, 217-220 (2016).
「調剤」がどこまで示すかは定義がなく、時代と共にその解釈が変化してきている。
そうなると、「調剤年月日」が時代とともに変わるということになる。
昔は「薬剤の調製」だから、「薬剤の調製」を行った日が調剤日。
今は投薬まで含まれるからそこまで終わった日が調剤日。
はじめの個別指導の指摘に戻るが、調剤録の「調剤並びに情報の提供及び指導を行った年月日」も処方箋の「調剤年月日」も同じ「調剤日」だから同じ日付を記載しろ、という指摘。
個人的には納得できない。
わざわざ調剤録のほうは「調剤並びに情報の提供及び指導を行つた年月日」と「」情報手の提供および指導」を「調剤」と別に記載しているうのだから、ここでいう「調剤」は「薬剤の調製日」と思ってしまう。
まとめ
「調剤」を正確に定義したものはない。
時代とともに変化するものという考え。
現在では薬剤の調製~投薬まですべての業務を示すと考えられている。
「調剤日」は調剤完了日? 取り掛かり日?