抗不整脈薬の使い分け

不整脈の種類と薬剤の使い分けについて


外来で抗不整脈の処方を見てもいまいちどんな状況で、なぜその薬剤が処方されているか分からないことが多い。

今回はガイドラインを中心に、どのような場合にどの薬剤が処方されるのかまとめてみました。

不整脈の種類

下記は不整脈治療薬物に関するガイドラインに記載のある不整脈の種類。(徐脈は症状なければ治療しないので割愛)

血行動態、心機能、心拍数などでさらに細かく治療が変わってくるが、大まかに治療方針をまとめました。

心室性不整脈

心室性期外収縮
症状に合わせ抗不整脈(無症候は無治療)

心室頻拍
・QRS波の波形により単形性/多形成、持続時間により持続性/非持続性がある。
・発作は即停止治療
※多形性心室頻拍および無脈性(血行動態が破綻しているもの)心室頻拍は心室細動と同等の扱いによる治療方針。
・発作予防:ペースメーカー(ICD)→できなければ抗不整脈薬→再発予防困難な場合はアブレーション

心室細動
発作は即停止治療→予防にICD→できなければ抗不整脈薬→再発予防困難な場合はアブレーション

発作性心室頻拍(QT延長で起こる=トルサード・ド・ポワンツ、多形性心室頻拍※)
発作時は即停止治療→QT延長の原因治療、β遮断、ICD

※この2つは発作性だが、心室細動に移行しやすいため、治療として心室細動と同じ項目で扱われていたが、2020年版から別になっている。

上室(心房)性不整脈

上室性(心房)期外収縮
症状に合わせ抗不整脈(無症候は無治療)

発作性上室頻拍
発作は緊急性に応じ治療→予防にアブレーション→できなければ抗不整脈薬

心房細動(発作性・持続性)
抗不整脈(リズムコントール)+抗凝固
β遮断、Ca遮断(レートコントロール)+抗凝固

心房粗動
リズムコントロールorレートコントロール+場合により抗凝固


まとめると・・・
・期外収縮は症状がなければ基本治療はしない。
抗凝固薬が必要になるのは心房細動。(心房粗動の血栓リスクは細動の1/3であり、必要性は個々に判断)
・心室性は突然死等につながるため要治療、心房性は症状に合わせて。

※アブレーション:心臓の一部を焼き、異常な伝達を遮断する


各不整脈と薬剤選択

各不整脈に対してどのような薬剤が使用されるか見ていきます。

抗不整脈が使用される不整脈

・自覚症状のある期外収縮
・持続性心室頻拍の予防
・心室細動の予防
・発作性上室頻拍の予防
・心室細動(+抗凝固薬)
・心室粗動(+場合により抗凝固薬)


心房性期外収縮

概要
・心房性:基本は無症状、発現する症状としては動機、胸部違和感。

薬物治療
・自覚症状が強い場合はβ遮断薬、Naチャネル遮断。

心室性期外収縮

概要
・心房性:突発性で無症状かつ心疾患がなければ薬物治療は不要。症状が強い場合や、心室頻拍/心房細動の発現リスクがある場合や、心機能低下例(血行動態不良例)は治療。

薬物治療
・心筋梗塞急性期でみられた場合:Naチャネル遮断、Kチャネル遮断薬、β遮断。
・心臓の基礎疾患あり:β遮断薬、アミオダロン、メキシレチンなど。
※アミオダロンは心機能抑制があまりない。メキシレチンは1bで1a,1cと比較すると心機能抑制が弱い。

薬物治療
・自覚症状が強い場合はβ遮断薬、Naチャネル遮断(=クラスⅠ)

持続性心室頻拍

概要
突然死の主因で突然出現する。
・リエントリーにより起こるとされている。
・発作時はまず停止が最優先で直流通電、アミオダロン等の静注。
・基礎心疾患有の場合、再発予防の基本はICD(推奨ⅠエビデンスA)。
・心筋梗塞等基礎疾患がない場合(=突発性心室頻拍)はアブレーションを第一選択、できない場合に薬物治療で予防。
・ICDの埋め込みができなかったり、ICD埋め込みをしたうえでさらに再発予防のために薬物治療が行われる
・1次予防に関しては患者背景によりICDの有効性が分かれていたり、アミオダロンのRCT結果に一貫性がない。


薬物治療

・基礎疾患あり
発作停止:アミオダロン、ニフェカラント、ランジオロールが用いられる。
予防:アミオダロン、ソタロールが多く用いられる。その他ベプリジル、β遮断薬。

2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より



・基礎疾患なし(=突発性心室頻拍)
アブレーション失敗・施行不可の場合、Ca遮断薬、β遮断
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より



※ソタロール(β遮断薬)の適応は心室頻拍、心室細動のみ
アミオダロン、ソタロールともに他の抗不整脈薬が無効の場合のみ使用可能。


心室細動

概要
・急激に血流不足となり意識消失する最も重篤な不整脈
・発作時は直ちに直流電量、回復しない場合ニフェカラント、アミオダロンなど。


薬物治療(予防)

各疾患(ブルガダ、早期再分極症候群)ごとに異なるが、基本はICD。



QT延長症候群に伴うトルサード・ド・ポワンツ(多形性心室頻拍)

概要
・QT 延長症候群(LQTS):QT 間隔の延長と torsadede pointes(TdP)とよばれる多形性心室頻拍を認め,失神や突然死を引き起こす症候群。
・LQTSには1次性と2次性があるが、薬物治療は同じと考えてよい。(2次性の原則は原因除去、基礎疾患の治療)

薬物治療
・発作時
硫酸マグネシウムの静注注(30 ~ 40 mg/kg,で 5 ~ 10 分間で静注、さらに効果があれば成人の場合 3 ~ 20 mg/分 の持続点滴)。
心室細動に移行しやすく、移行してしまった場合はただちに電気的除細動。
その他、β遮断薬(プロプラノロール、ランジオロール)が有効で、患者により抗不整脈薬(リドカインおよびメキシレチン)、Ca 拮抗薬(ベラパミル)。
・予防
β遮断薬が有効。遺伝子系で有効性が異なる(LQT1~3)




発作性上室頻拍

概要
・房室結節リエントリー、房室回帰、心房内リエントリー、異所性自動能亢進により起こる。(90%は房室結節のリエントリー・回帰=ここを抑えればよい=Ca拮抗薬)
・WPW症候群では副伝導路も関与するためK遮断、Na遮断が有効。
・動悸、胸部不快感を生じる。
ほとんどの場合アブレーションで根治可能なため薬物治療は限られてた場合のみ。

薬物治療(予防)
基本はアブレーションだが、不成功・希望しない場合は心機能に応じ抗不整脈

・心機能中等度以上低下
①WPWあり:陰性変力作用(心房収縮力抑制)の少ないNa遮断薬(アプリンジン、プロカインアミド)を用いる。
②WPWなし:β遮断薬、無効な場合にNa遮断薬

・心機能が正常~手低度低下
①WPWなし:心房結節の伝導を遮断するCa遮断薬、β遮断薬、ジルチアゼムが第一選択
②WPWあり:Na遮断薬(Ⅰa,Ⅰc)
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より


心房細動

概要
・機序は明確にわかっていないが、複数のリエントリーがみられる。
・統率のない早い複数の興奮により、心房収縮が十分にできなくなり、心房なの血液がよどんでしまうため血栓を形成しやすい状態となる。
・様々な背景(弁膜性、初発、発作性、持続性、副伝導路等)があり、各状況ごとに治療が異なる。
・症候性心房細動は次期を見てカテーテルアブレーションも選択肢。(特に持続性や、持続性に移行しそうなもの)。不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)では推奨クラス I,エビデンスレベル Aとなっている。


薬物治療(再発予防、慢性期)
・第1に抗凝固療法。
・第2に心拍数調整(レートコントロール)又は洞調律調整(リズムコントロール)のどちらか
(最近はレートコントロールが優先)

洞調律維持(リズムコントロール)
心房細動を止める=除細動
使用薬剤:Na遮断(ピルジカイニド、シベンゾリン等)、ベプリジル、心疾患がある場合アミオダロン、ソタロール。
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より



心拍数調整(レートコントロール)
・心房細動はそのままで、心拍数をコントロールする。
心拍数は安静時80~110を目安に個々に対応厳格な心拍数調節療法(安静時心拍数< 80 拍/分)と緩やかな心拍数調節療法(安静時心拍数< 110 拍/分)との間で,イベント発生率に差がないことが示されている)

・使用薬剤:β遮断、Ca遮断、ジキタリス、ベラパミル

J-RHYTHM試験ではどちらの治療でも生命予後に差はなかったが、発作性心房細動の場合リズムコントロールのほうがQOLが良かった


・心機能低下なし(LVEF≧40%)
・β遮断薬、Ca拮抗薬どちらも使用可能(WPW症候群を合併している場合はCa拮抗薬で悪化するため使用しない

・心機能低下あり(LVEF<40%)
・まずはその原因治療(ARB、ACE、β遮断)=アップストリーム改善。
・新保護作用のあるビソプロロール、カルベジロール。
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より




薬物治療(除細動 洞調律化)

洞調律化の際は血栓に要注意。心房細動が48 時間以上持続していることを否定できない症
例では、緊急の場合を除き、塞栓症の発症を最小限に抑える。
2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より



抗凝固療法

先に述べたように心房細動では心房内の血流がよどんだ状態になっており、血栓ができやすい状態のため抗凝固薬が必要であり、リスクに応じてワーファリン、各DOACを用いる。

アスピリンは抗血小板薬であり、心房細動における血栓予防効果は否定されている


2020 年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン より

ワーファリン使用の場合、目標PT-INRは、
・血栓低リスクおよび1次予防は1.6~2.6
・血栓高リスクおよび2次予防は70歳以上で1.6~2.6、70歳未満は2.0~3.0


※CHADsスコア
心不全/高血圧/年齢(≧75 歳)/糖尿病:各 1 点、脳卒中 /TIA:2 点

※HAS-BLEDスコア
収縮期血圧≧160、腎障害、肝障害、脳卒中、出血歴/出血傾向、不安定なINR、65歳以上、アルコール、薬剤(抗血小板、NSAIDs)各1点
ASBLED スコア別の補正年間大出血発症率
0点:1.13%1点:1.02%、2点:1.88%3点:3.74%、4点:8.70%、5点:12.50%


※心筋梗塞等で抗血小板薬を併用する場合の2剤併用期間は12か月まで。それ以降は抗凝固1剤(血栓ハイリスクの場合は併用も考慮):詳しくはこちら


心房細動患者における抗凝固薬の中止について

抗不整脈薬治療ガイドラインより

抜歯時
”抗凝固薬継続下での抜歯の安全性に関しては複数のランダム化比較試験(RCTや観察研究,メタ解析が報告されている.メタ解析の結果,抗凝固薬継続は,一時休薬と比較して,臨床的に問題となる出血や小出血は有意に増加しなかったと報告されている.一方,抜歯時にワルファリンを休薬すると約 1% に重篤な脳伷塞を発症し,死亡例も報告されていることから,ワルファリンを継続したまま抜歯することが望ましい
DOAC に関するエビデンスは少ない.RE-LY 試験のサブ解析において,抜歯を含む観血的手技前にダビガトランを休薬した時,脳伷塞・全身性塞栓症は,ワルファリンと同等の 0.5% に発症することが報告されている.また,DOAC 128 人(内服 6 ~ 7 時間後に抜歯)とワルファリン262 人の抗凝固薬継続下での抜歯時の後出血発症率が比較され,両者で統計学的に有意差がない[4 人(3.1%)vs. 23 人(8.8%)]ことがわが国から報告されており,DOAC 療法中もワルファリンに準じて継続下での抜歯が望ましいと考えられる.”

外科手術
”出血高リスクの大手術の場合,従来はエビデンスがないにも関わらず,ワルファリンを休薬しヘパリン置換を経験的に行っていた .しかし,ワルファリンを服用している心房細動患者を,手術・処置に際しワルファリンを休薬しヘパリン置換を行う群と,ヘパリン置換を行わない群を比較する RCT(BRIDGE 試験)が行われ,血栓塞栓症発症率は非パリン置換群 0.4%,ヘパリン置換群 0.3%と非ヘパリン置換群の非劣性が示され,大出血発症率はそれぞれ 1.3%,3.2% と,非ヘパリン置換群で有意に少なかった.同様の観察研の報告もあり,一般的にはワルファリンの休薬を要する出血高リスクの外科的手術・処置の際には,ヘパリン置換は不要と考えられる.しかし,機械弁,リウマチ性僧帽弁狭窄といった弁膜症性心房細動でワルファリンを使用している患者や,血栓塞栓症リスクが非常に高い非弁膜症性心房細動患者(3 ヵ月以内の脳伷塞の既往がある,CHADS2 スコアが非常に高いなど)においてはヘパリン置換を考慮するべきである.ヘパリン置換が有益であると期待されるのは,CHADS2 スコアが 4 点以上かつ HAS-BLED スコアが 2 点以下の患者に限る,と最近報告されている.
 DOACの場合,それぞれの国際多施設共同第 III 相試験において周術期イベントに関する論文が発表されており,メタ解析において DOAC はワルファリンにくらべ,術後 30日の転帰は血栓塞栓症,大出血,小出血,全死亡において同等の成績であることが報告されている.出血高リスクの大手術において,DOAC を 48 時間以上前より休薬することが推奨されている.ダビガトランのみ腎機能により CCr ≧ 80 mL/分であれば 48 時間以上前,同 50 ~ 79 mL/分では 72 時間以上前,同 30 ~ 49 mL/分で 96 時間以上前に休薬するのが望ましいとされている.一方,周術期における DOAC の休薬に伴うヘパリン置換は推奨されていない.RE-LY 試験のサブ解析において,ダビガトランを休薬しヘパリン置換を行った群は,ヘパリン置換を行わなかった群とくらべ大出血が有意に増加したが,血栓塞栓症は有意差が認められなかった.一般的には DOAC 休薬期間でのヘパリン置換は不要だが,上記のような血栓塞栓症リスクが非常に高い非弁膜症性心房細動患者では,ヘパリン置換を考慮してもよいと考えられる。


その他の特殊な不整脈

ブルガダ症候群

・心臓突然死を回避する治療法の第1選択はICD。現段階では薬物治療は補助的なもの。
・24 時間以内に 3 回以上の心室細動発作を認める心室細動ストームの既往を有する場合、または一定の頻度で心室細動の再発を認める場合には、心室細動による ICD の適切作動を回避する目的で慢性期に経口で薬物治療が行われる場合がある(キニジン、シロスタゾール、ベプリジル)。


心不全合併例

AF-CHF試験にて、左室駆出率(LVEF)が 35% 以下でうっ血性心不全の既往のある 1376 人において,洞調律維持群と心拍数調節群で、全死亡、心血管死、心不全入院に差はなし。(ただし,この結果は心房細動アブレーション治療が普及する以前の試験)

NYHA分類II ~ IV 度、LVEF ≦ 35% の患者を対象にした CASTLE-AF試験では、薬物治療群よりアブレーション治療群で心全死亡および心不全増悪による入院が優越性に少なかった

LVEF正常~軽度低下に関するエビデンスはなし。


弁膜症性と非弁膜症性心房細動

弁膜症性:リウマチ性僧帽弁疾患(おもに狭窄症)、機械弁置換術後。
非弁膜症性:上記以外(生体弁置換後はこちらに入る

弁膜症性にはワーファリン(DOACは適応なし、エビデンスなし)
非弁膜症性ではどちらも使用可能だが、生体弁置換術後3カ月まではワーファリンが推奨。



参考
不整脈薬物治療に関するガイドライン2009、2020
心房細動治療(薬物)ガイドライン2013
国立循環器病センターホームページ
 2017年11月19日

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