フォーミュラリーについて

フォーミュラリーの定義 作成手順、経済効果等

有効性、安全性に加え経済性も考慮して使用できる薬剤を選定するフォーミュラリー。

医療費削減効果があるとして、日本においても生活習慣病の処方(降圧薬)についてフォーミュラリーの導入に関する言及があったことなどで注目を集めている。
(2017.11.1中医協総会:議事録資料)

個人的には、使用できる薬剤をエビデンスの高い薬剤のみに絞り込むことで、把握すべき薬剤の知識が減り、リスクマネジメントにもなるし、治療の差が出にくくなり、良質な医療を多くの方に提供できる気がするので、どんどん進んでほしいと思っている。(いらない薬剤も含め広く浅く知識を付けるより、エビデンスの高い薬剤を深く覚えたいというのも本音ですが)

こちらではフォーミュラリーの現状等について随時まとめていきたいと思います。

フォーミュラリーの定義

アメリカのAJHPでは

「疾患の診断、予防、治療や健康増進に対して、医師を始めとする薬剤師・他の医療従事者による臨床的な判断を表すために必要な、継続的にアップデートされる薬のリストと関連情報」

と定義されている。



日本においては、聖マリアンナ医科大学で院内フォーミュラリーがいち早く取り入れられていますが、同病院ではフォーミュラリーとは

「有効性、安全性および経済性を考慮した医薬品の使用指針」

とまとめられている。



中医協総会での資料の中では

「医療機関等における標準的な薬剤選択の使用方針に基づく採用医薬品リストとその関連情報。医薬品の有効性や安全性、費用対効果などを踏まえて、院内の医師や薬剤師等で構成される委員会などで協議し、継続的にアップデートされる。」

と定義されている。



フォーミュラリーでは、経済性が考慮されていることが最大のポイント(と思っています。)

日本ではまだまだ院内採用薬レベルの定義ですが、フォーミュラリーが進んでいるイギリスでは国家・地域単位のフォーミュラリーが存在する。


今後日本はどうなっていくのでしょうか。


各国のフォーミュラリー

米国におけるフォーミュラリー
アメリカでは主に、院内フォーミュラリー、PBMによるフォーミュラリーがある。

院内フォーミュラリーは日本の院内採用薬リストと同じような雰囲気だが、「薬のリストと関連情報」と定義されているように、院内での処方ルール(専門医だけ処方できたり、特定の要件を満たした患者のみの処方可能等)が含まれている。


重要なのはPBMが作成するフォーミュラリー。
PBMは保険者、製薬企業、 医薬品卸、薬局、医療機関、患者の間に入り、医薬品のコストや疾病管理の観点から薬剤給付の適正マネジメントを行う企業。

PBMは保険会社の代わりに医薬品推奨リストを作成する。
そうすると保険会社はそのリストの医薬品しか償還払いの対象としない。
よって、患者は保険会社のリスト(PBMが保険会社に代わり作成した推奨リスト)の薬剤を使用することになる。

保険会社は医療費抑制したい→PBMにフォーミュラリー作成してもらう→フォーミュラリーの薬剤しか保険償還払いされない→患者はフォーミュラリーの薬剤を希望する

といった構造になっている。

PBMがフォーミュラリーを作成する手順としては、PBM会社が、文献調査、治験データ、臨床データ、ガイドライン等よりストを作成後、社外の医師、薬剤師から構成される第三者機関によって上記リストを評価する形になっている。


参考:薬剤給付管理とジェネリック医薬品に関する日米比較国際医療福祉大学大学院 教授武藤 正樹



英国におけるフォーミュラリー
英国には国が作成している国家フォーミュラリー(BNF)というものがある。
(BNFの薬剤は3500品目程度)

BNFには添付文書、ガイドライン、参考書、文献等からの様々な情報を要約したものが記載されている。
エビデンスがなく、薬剤料を支払いできない品目についても記載されている。

さらに、英国では医療機関・地域ごとに地域フォーミュラリーを作成することがNICEの発行するガイドラインにて義務づけられている

国家フォーミュラリー(3500品目)→地域フォーミュラリー(1500品目前後+NICEの推奨品は必須)

※NICE:医療に関わるガイドライン等を取りまとめている独立機構。
NICEが発行する技術評価ガイダンス(TA)で推奨された薬剤は地域フォーミュラリーに収載しなければならないことが法律で義務付けられている。


フォーミュラリー薬剤師:英国では上記の通り、フォーミュラリーが必須であるため、フォーミュラリーを専門にする薬剤師がいる。採用が希望された医薬品のエビデンスや経済性を分析する。



日本におけるフォーミュラリー
院内フォーミュラリー
最も早くからフォーミュラリーを行っている病院は聖マリアンナ医科大学病院。
ただし、あくまで院内のフォーミュラリー。

中医協の資料によると、病院でフォーミュラリーを導入しているのは平成29年時点で3.4%のみ。



地域フォーミュラリー

協会けんぽ(静岡)
地域単位では、2017年協会けんぽ静岡支部が日本調剤に、地域フォーミュラリーの作成に関する事業を依頼した。(日本調剤のコンサルは聖マリの増原教授)

日本調剤が受託するのは、協会レセプトの分析による地域フォーミュラリ策定に向けたデータ作成および医薬品実績データ作成業務とのこと。


山形県酒田市
地域フォーミュラリーの実際の運用で初となったのは、山形県酒田市。
地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」を酒田市内にある病院、医師会、薬剤師会等より運用。

PPI、αグルコシダーゼ阻害薬に関してフォーミュラリーを作成。
協議会や説明会にて周知しているが、強制力はなく、あくまで推奨。
なので、どこまで推奨薬が使われていくか今後の動向に注目。



フォーミュラリーの作成手順

フォーミュラリー作成の流れ
①薬効群の選定
まずはどの薬効群についてフォーミュラリーを作成するか決める。
海外で既に作成されているものだと、それを参考に作成しやすい。
日本で個人的によくみるのはPPI,ACE/ARBあたり。(聖マリアンナではPPI,H2,αGI,SU剤,スタチン、ビスホスホネート製剤,GCSなどで作成されているとのこと。)

②会議の開催
医師、薬剤師等でフォーミュラリー案について議論する。
必要な資料としてはフォーミュラリー案、該当薬剤の使用状況と後発品への変更による経済効果、フォーミュラリー案の根拠となるガイドライン、文献情報、フォーミュラリー運用時に必要な換算表や切り替え案



以下は厚労省資料より、聖マリアンナ医科大学病院でのフォーミュラリー作成手順概要

概要すぎて具体的な手順がないので、以下にフォーミュラリー案作成の具体的な内容を記載。

フォーミュラリー案の作成方法
とりあえずフォーミュラリー案を作成しないといけないわけですが、どのような部分を考えて、薬剤を選択すればよいか。

普段類似薬の比較をいろいろ書いていましたが、薬効群によって比較すべき部分は様々であり、一概には言えないと思いますが、フォーミュラリー作成時の資料より比較しているポイントを抜粋してみました。

・基本情報(適応症、用法用量、相互作用、動態、禁忌等の添付文書の基本情報)
・EBM(有効性、安全性・・・ガイドラインやRTCなどから)
・経済性(薬価、使用量、切り替えによる経済効果)



フォーミュラリー作成に必要な能力(薬剤師)
薬物治療に関する知識全般及び疾患に知識。(当たり前ですね)

最も重要なのは情報収集・評価能力。
ガイドラインからの情報、論文(ランダム化比較試験やメタ解析の批判的吟味)

本来原著論文もしっかり吟味し、フォーミュラリーを作成されることが望ましいが、難しい場合はガイドラインをメインに作られることもあるよう。

イギリスにはフォーミュラリー作成を専門に行うフォーミュラリー薬剤師なるものが存在する。フォーミュラリー薬剤師は院内等で新規採用依頼のあった薬剤のエビデンス、経済性を分析し、医薬品採択薬審議会に臨む。



聖マリアンナ医科大学客員教授の増原先生の本に、フォーミュラリー作成を最終目標においた薬剤師の行動指針として以下の3点が挙げられていた。

・適正で合理的な薬物治療への参加(ガイドラインの遵守、大規模臨床試験等の根拠に基づく薬物治療)
・副作用の収集・解析・究明
・廉価で適正な薬剤の選択

合理的な薬物治療を提案できるようになりたいですね。
そのためにはまずガイドライン、そして論文の批判的吟味ができる能力をつけたいところ。(EBMについても個人的にまとめ中:こちら)

臨床薬剤師=病院薬剤師のような部分を感じますが、薬局薬剤師でも在宅で往診同行、医師への処方提案等の機会は増えていますし、今後フォーミュラリー作成が進むのであれば薬剤師等で必要とされる可能性があるので、薬局臨床薬剤師を目指したいですね。


作成しにくい薬効群
フォーミュラリーが作成しにくいものとして以下のものが挙げられる。

・比較データが少ない分野(例:DPP4,SGLT2など比較的新しい分野)
・使用量が多い薬剤が不採用となる場合(医師の処方変更不可:患者の同意、説明等)
・同薬効群で次々に新薬が出てくる場合(出そろわないと毎回比較する必要性がでてくる)


フォーミュラリー作成による有効性、経済性エビデンス

実際にフォーミュラリーを作成することで経済効果があるのか、また有効性・安全性に問題は生じないのか。

いくつか報告がある。

経済面
・聖マリアンナ医科大学病院は9薬効群においてフォーミュラリー作成・運用したところ、年間約3700万円の医療費を削減につながったとのこと。※1

・日本調剤の試算(増原教授):PPI経口薬の中で後発医薬品がある先発医薬品を変換した場合では、日本調剤全体で7億6000万円の削減効果があるとのこと。※1

・米大学病院(821病院)で構成されるメディカルセンターの関係者約22,000人を対象に、推奨医薬品リスト(後発のあるものは後発、OTCのあるものはリストから削除)を用いた経済効果を検証したところ、年間150万ドルの削減に成功。ただし、薬剤によっては患者負担の増加がみられたとのこと。※2-1


有効性
・米メディケイドプログラム(低所得者向けの保険制度)の下で行われた臨床試験において、関節炎、骨関節炎の患者に対し、フォーミュラリーにより鎮痛剤を12剤未満に制限した群と制限のない群で分けたところ、関節炎と骨関節炎を合併している場合は医療費削減がみられたが、骨関節炎に関しては両群で医療費に差はなく(=経済効果なし)、入院率は高くなってしまったとの結果。※2-2


経済効果に関して、結果が分かれてしまっている。
薬剤費だけを計算すれば安くなるんでしょうが、フォーミュラリーにより有効性・安全性が低下し、入院等が増えてしまえば医療費は増える。
現時点では経済効果が確実にあるとは言い切れないようです。


※1 日本医薬総合研究所シンポジウム2018(2018年7月18日、東京国際フォーラム) 日経デジタルヘルス
※2-1 Vasc Health Risk Manag. 2008;4(2):403-13. (フォーミュラリー エビデンスと経済性に基づいた薬剤選択 薬事日報社 の引用文献)
※2-2 Am J Public Health. 2008 Jul;98(7):1300-5. (フォーミュラリー エビデンスと経済性に基づいた薬剤選択 薬事日報社 の引用文献)
 2019年1月5日

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