抗MRSA薬について

抗MRSA薬について ガイドライン抜粋

各薬剤の動態

治療効果と相関の認められている PK/PD パラメータ

・VCM,TEIC : AUC/MIC
・ABK : Cpeak/MIC
・LZD で:AUC/MIC
・DAP で:AUC/MIC および Cmax/MIC と考えられている。

※ AUC/MICは1日投与量が重要、Cpeek/MICは1回投与量を多くする。(1日1回投与推奨)



TDM の実施が必要とされるものに,VCM,TEIC,ABK がある。
わが国では適応はないが,MRSA 感染症に使用されている抗菌薬には,RFP,ST 合剤,MINO などがある。それぞれの抗菌薬の効果と相関する PK/PD パラメータは明らかではない。

抗 MRSA 薬の組織移行性は,抗菌薬により異なる。
VCM,TEIC,ABK,DAP は,ほとんどは生体内で代謝を受けず腎より排泄される。LZD は非酵素的に代謝を受け,非活性代謝物が腎より排泄される。


MRSAの関与する呼吸器感染症について

・院内肺炎で呼吸器検体から MRSA が分離培養されても,必ずしも原因菌とは限らない。
→MRSA は鼻腔や咽頭などの上気道に定着(colonize)するばかりではなく,気管,気管支の下気道にも定着する細 菌である。そのため,喀出痰を用いた検査では肺炎の原因菌の確定診断はできない1

・喀痰から培養され,かつ血液培養が陽性であれば,肺炎の原因菌と診断できる
→血液培養から呼吸器検体と同じ細菌が培養されれば原因菌であるとする考え方が一般的であるが,血液培養陽性の みでは必ずしも肺炎の原因菌ではないとする報告もある

・MRSA肺炎の治療には,第一選択薬として LZD(A-I)もしくは VCM(A-I),TEIC(A-II)を選択し,本ガイ ドラインの推奨する投与法で開始する。
VCMのMICが1μg/mL未満と判明していれば,トラフ10~15μg/mL に保つ。VCMの MICが1μg/mL以上もしくは不明の場合,トラフを15~20μg/mL にすることが推奨されており,VCMのMIC が2μg/mL 以上では,他の治療薬を考慮する。

人工呼吸器関連肺炎(VAP)や糖尿病患者の多い集団の解析では,LZDのほうが VCMより臨床効果および細菌学的効果が優れる(A-I)

・DAPは,肺炎には適応がない。

・抗MRSA薬による治療は,病変の広がりや,治療への反応を見て7日間から21日間行う。
→明確なエビデンスはないものの病態によって異なる。菌血症を伴う場合や空洞などの形 成を伴う壊死性の肺炎の場合には2週間以上の投与期間が必要であるが,壊死性でなくかつ菌血症を伴わない院内肺 炎の場合には低感受性化,耐性化の抑制のために1週間程度の投与で継続するか否かを判断

・MRSA肺炎を疑い抗MRSA薬を開始しても,治療前の品質の良い喀痰や鼻腔培養の検体から MRSAが培養されなければ抗 MRSA薬を中止してもよい

・肺炎のない患者の喀痰からMRSAが分離されても,ほとんどが定着であり,慢性気道感染症の急性増悪など特 別な病態を除いて治療の適応にならない

・RFPを併用すると予後が改善するという少数例のオープンラベル比較試験が報告されている(耐性菌防止のため単剤では使用しない)

・感受性試験の結果,キノロン系,テトラサイクリン系,CLDM などが感受性のことがあるが,これらの感受性抗菌 薬を用いた治療の有効性は不明である。


MRSAの関与する菌血症について

・適切な手技によって採取された血液から MRSA が検出された場合に診断する。 

・血液培養からグラム陽性球菌が分離され,ブドウ球菌が疑われる際は,感受性結果が判明するまで,MRSA菌血症として治療する

・非複雑性の成人菌血症患者については,DAP 6 mg/kg 1 日 1 回(A-I)または VCM(A-II)を第一選択薬とし, 最低 2 週間投与する
→VCM の場合は,トラフ値を 15~20 μg/mL レベルに維持するようにすべき

・TEIC,ABK,LZD を代替薬とし,第一選択薬が無効あるいは何らかの理由で使用できない症例に投与 ・感染源を除去できない菌血症については,4~6 週間の治療を推奨する


MRSAの関与する感染性心内膜炎について

・第一選択薬として,DAP 1 日 1 回(A-I)または VCM(A-II)を血液培養の陰性化後 4~6 週間投与する。

・人工弁心内膜炎の場合はより長期間の治療(8 週間)を要する。

DAP を選択する場合,8~10 mg/kg の高用量投与※で開始する(B-II)。

・DAP と β-ラクタム系薬やアミノグリコシド系薬,RFP 等との併用については一般的な推奨にとどまる(B-II) VCM に GM を併用した2剤,さらに RFP を加えた3剤併用療法は,人工弁心内膜炎で経験的に行われるものの,GM では腎障害に,RFP では耐性化に十分注意する(C-III)。自己弁の場合,GM の併用は必ずしも推奨されない(B-II)

※MRSAと特定できていない場合は以下の通り。(感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライ)

予防に関しては感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドラインより。(※MRSA関係なし)

IE高リスク患者で以下の手技を受けるものにに対しては予防投与が推奨されている。

予防的抗菌薬投与を行うことが強く推奨される手技に は,歯石除去を含む観血的歯科治療(抜歯など)と,扁桃 摘出術・アデノイド摘出術,ペースメーカや植込み型除細 動器(ICD)の植込み手術がある。



・CQ4高リスク心疾患患者に対する歯科処置に際して抗菌薬投与はIE予防のために必要か?

①成人の高度リスク患者*1に対し,抜歯などの菌血症を誘発する歯科治療の術前には予防的抗菌薬投与を推奨する・・・推奨の強さ1:強く推奨するエビデンス総体の強さB(中)

②成人の中等度リスク患者*2に対し,抜歯などの菌血症を誘発する歯科治療の術前には予防的抗菌薬投与を提案する・・・推奨の強さ2:弱く推奨する(提案する)エビデンス総体の強さC(弱)

*1高度リスク群(感染しやすく,重症化しやすい患者)には,人工弁術後,IEの既往,姑息的吻合術や人工血管使用例を含む未修復チアノーゼ型先天性心疾患,手術,カテーテルを問わず人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復後6ヵ月以内,パッチ,人工材料を用いて修復したが,修復部分に遺残病変を伴う場合,大動脈縮窄,大動脈二尖弁を含む*2中等度リスク群(必ずしも重篤とならないが,心内膜炎発症の可能性が高い患者)には,高度,低リスク群を除く先天性心疾患,閉塞性肥大型心筋症,弁逆流を伴う僧帽弁逸脱を含む

予防投与薬剤

ペースメーカー時:ブドウ球菌に有効な抗菌薬を手術の 30 ~ 60 分前に 投与することが推奨される




MRSAの関与する皮膚科領域について

重症でない限り,皮膚軟部組織感染症に抗MRSA薬を投与する必要はあまりない
→感染であれば,抗菌薬の全身投与が必要であるが,定着であれば,抗菌薬の全身投与は必要ないからである。 鑑別には病変部に感染症状,つまり発赤,腫脹,疼痛,熱感などの感染症状があることが重要である。さらに膿があれば,ほぼ確実に断定でき,膿のみを細菌培養して,細菌が分離されれば,その細菌を起炎菌とする。

MRSA が定着している場合は,抗菌薬の全身投与は行わないただし褥瘡や皮膚潰瘍では分離された細菌は critical colonizationのことが多いので,外科的デブリドマンや抗菌作用を有する抗潰瘍薬で創面の清浄化を図る
※臨床的には創部に定着した細菌が増殖し,創傷治癒が遅延している状態を指す。つまり感染兆候(発赤・腫脹などの炎症所見)はないが,感染に移行しそうな状態

・皮膚軟部組織感染症の患者で,MRSA が分離された場合は,入院外来を問わず CA-MRSA の可能性が高いので, 中等症以下であれば,ST 合剤(A-II),MINO(A-II)を投与する。またカルバペネム系薬,ファロペネム,キノロン系薬が有効なことも少なくない。ただし CLDM は米国と比べ耐性率が高く,感受性試験での確認が必要である。

・伝染性膿痂疹には,2%ムピロシン(MUP)軟膏(A-III)が有効であるが,日本では保険適用がないので,ナジフロキサシン(NDFX)軟膏かフシジン酸(FA)軟膏の外用を行う.

重症例,全身症状を伴う皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、壊死性筋膜炎等)で,MRSA 感染症が疑われる場合は,ただちに抗 MRSA 薬の投与 を行う。この場合は VCM の静注(A-I)か,LZD 600 mg を 1 日 2 回経口あるいは静注(A-I),DAP 4 mg/kg を 1 日 1 回静注(A-I)が推奨される。第二選択には TEIC(B-II)や ABK(B-II)が用いられる。治療期間は 原則 1~2 週間であるが,個々の患者に応じて変更してもよい


メモ:褥瘡
起炎菌の同定は細菌培養を行うと確実であるが,創部の臭いやガーゼに付着する浸出液の色でもある程度同定は可 能である。例えば表皮ブドウ球菌の場合はガーゼが灰白色,黄色ブドウ球菌の場合は黄緑色となり,緑膿菌ではガー ゼが淡い緑青色となり,甘酸っぱい臭いがすることが多い。また嫌気性菌の感染があると,茶褐色になり腐った臭い がすることが多い


MRSAの関与する術後感染予防投与について

・術前 MRSA 保菌患者に対して抗 MRSA 薬による予防投与を行う
(一般的に予防投与には VCMが用いられ 1 時間以上かけて点滴するため,通常の 1 時間より早期に執刀前 2 時 間以内に投与開始する。)


TDM PK/PDブレイクポイントについて

TDM・PK/PD

VCM 
・臨床および細菌学的効果を予測する指標として,AUC/最小発育阻止濃度(MIC)≧400 が報告されているが,実臨床ではトラフ値を AUC の代替指標とする(B-II)。 

・副作用の指標としてトラフ値がある(B-II)。 

・腎機能正常で 1 日 2 回投与の場合,定常状態に達していると考えられる 4~5回投与直前(3 日目)に初回の TDM を行う(B-II)。
→VCMの半減期は6-12時間であり、48時間後には定常状態に達する。

・トラフ値測定に際しては投与前 30 分以内に採血を実施する。 

・初回目標トラフ値は 10~15 μg/mL に設定する(B-II)。

・効果不良例や複雑性感染症では,TDM 評価後に改めて 15~20 μg/mL を目標とした投与設計を行う(B-III)。

・トラフ値 20 μg/mL 以上の場合,腎毒性の発現が高率となる(B-III)。


ブレイクポイント※ここからはガイドライン以外の記載

ブレイクポイントと聞くと、CSLIのブレイクポイントMIC
培養された菌のMICがブレイクポイントMIC以下なら有効とする考え。
(CSLIは海外の用量で決められているため注意)※詳しくはこちら


PK/PDブレイクポイントはPK/PD理論に基づいたブレイクポイント。
PK/PDを考慮し、どの程度の感受性(MIC)の菌にまでならその抗生剤(投与法)が有効かを推測するための値。

ガイドラインにも記載されているが、MRSA感染症をVCMで治療をする際の指標としてAUC/MIC≧400において優れた臨床効果が得られたという報告がある。

この場合、MRSAのMICが1であれば、AUCが400になるように投与量を決めればよい。
実際にAUCを測定するのは難しいため、トラフ値よりAUCを予測し、MICと合わせて判定する。

例)バンコマイシンはトラフ値5ug/ml≒AUC100-200、10ug/ml=200-400、15ug/ml=400-600と推定されている。

バンコマイシンのMICが1の場合、トラフ値5ug/mlでの投与量では、AUC/MIC=100-200となり投与量では不十分。3倍の15ug/mlになれば、AUC/MIC=400-600となり、有効と判定できる。
→トラフ値が15ugになるような投与量を設定する。

それ以外にコンピューターに投与量、投与間隔等を入力することで母集団における血中濃度を計算し、MICを変化させたときのPK/PD目標値達成率をグラフ化するといった手法もある。※詳細はこちら

難しいことをやっているが、コンピューターに数値いれれば自動で計算してくれ、最終的に以下のような情報が手に入る。
→培養された菌のMICを超えるような投与法を選択する。

その他:抗菌薬の PK/PD ガイドライン(日本化学療法学会雑誌)
 2019/05/01

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