統合失調薬物治療の選択 薬物治療ガイドより

統合失調症に対する薬物治療のまとめ


2018.2.27に日本神経精神薬理学会 『統合失調症薬物治療ガイド―患者さん・ご家族・支援者のために―』というものが出された。

統合失調症に対して、患者、家族、多職種に対してそれぞれ活用できるものとなっている。
薬物治療のエビデンスに関する部分について抜粋してみました。

目次(臨床疑問一覧)

1.初発精神病性障害に対して、好ましい抗精神病薬はどれか?
2.初発精神病性障害で最適な抗精神病薬の用量はどのくらいか? 初発精神病性障害において、抗精神病薬の治療効果を判定する最適な期間はどのくらいか?
3.初発精神病性障害の再発予防効果における抗精神病薬の最適な治療継続期間はどのくらいか?
4.統合失調症の再発・再燃時、切り替えと増量のどちらが適切か?
5.統合失調症の再発・再燃時に、抗精神病薬の併用治療は単剤治療と比較してより有用か?
6.統合失調症の再発・再燃時に有効性、副作用において、単剤治療と抗精神病薬以外の向精神薬併用とどちらが適切なのか?
7.維持期統合失調症患者において、抗精神病薬の服薬中止と継続のどちらが推奨されるか?
8.維持期統合失調症患者の抗精神病薬治療において、再発率減少や治療継続に好ましい薬剤はどれか?
9.維持期統合失調症において、抗精神病薬の減量は有用か?
10.治療抵抗性統合失調症におけるクロザピン治療は有用か?
11.治療抵抗性統合失調症に対してクロザピンの効果が十分に得られない場合の併用療法として何を選択すべきか?
12.治療抵抗性統合失調症に対する、クロザピンや電気けいれん療法*1 以外の有効な治療法は何か?
13.精神運動興奮状態に対し推奨される薬物療法はどれか?
14.統合失調症の抑うつ症状に対してどのような薬物治療が有効か?
15.統合失調症の認知機能障害に対して推奨される薬物治療法はあるか?
16.錐体外路系副作用に推奨される治療法および予防法は?
17.抗精神病薬による体重増加に対して推奨される治療法はあるか?


統合失調症の診断

1. 統合失調症は DSM-5(精神疾患の診断基準の一つ)では幻覚、妄想、興奮などの精神病症状が6か月間以上継続し、その他にもいくつかの基準を満たした場合に診断されます。

つまり、初めて精神病症状が出た時、その後の経過によって、統合失調症と診断される場合と、それ以外の病気と診断される場合 が あり、最初の時点では区別ができません。そのため、初めて精神病症状が出現した病気を初発精神病性障害としてまとめて呼びます。



初発に対する抗精神病薬の選択

臨床疑問 1-1 初発精神病性障害に対して、好ましい抗精神病薬はどれか? 

 推奨
【★★】初発精神病性障害(統合失調症やそれに近い病気のために初めて幻覚や妄想、興奮などの精神病症状が現れたもの)に対しては、第二世代(非定型)抗精神病薬を選択することを推奨します。

 【★】どの第二世代抗精神病薬を選択するかについては、個々人の病状などのさまざまな要因を検討して選択することが望ましいです。

抗精神病薬は、開発時期により第一世代(定型)抗精神病薬と、第二世代(非定型)抗精神病薬に分類されます。

第一世代抗精神病薬と第二世代抗精神病薬とを比較した研究では、短期間(≦13 週)では、第二世代抗精神病薬の方が、薬をやめる人の割合 (効果が不十分、副作用、さまざまな全ての理由)が少ないです。

長期間(24〜96 週)でみると、再発は、第二世代抗精神病薬のほうが少なく、副作用により薬をやめる人 も、第二世代抗精神病薬のほうが少ないです。症状の改善の度合いや治療への反応の割合などは、はっきりとした違いはありませんでした

どの第二世代抗精神病薬を選ぶかについては、十分に研究されていないので、順位をつけることはできません


臨床疑問 1-2及び1-3 初発精神病性障害で最適な抗精神病薬の用量はどのくらいか?     初発精神病性障害において、抗精神病薬の治療効果を判定する最適な期間はどのくらいか? 

 推奨
【★】初発精神病性障害では、抗精神病薬は少ない量で治療を開始し、用量を調整しながら 2〜4週間経過をみてから、治療の効果を判定することが望ましいです。

初発精神病性障害に対して、薬物治療を始めてから、2週目までに35.6%に効果が出たと報告があります。また、これまでの研究からは、2〜4週目までに約 60〜70%で症状が良くなると考えられます。

薬の量が少なく治療効果が不十分な場合は、2〜4週間経っていなくても、副作用に注意しながら増量することが必要です。

初発精神病性障害に対しては、ハロペリドール(セレネース®など)とリスペリドン (リスパダール®など)は、少量で治療をした群と維持用量で治療をした群と比べても効果に差はありませんでした。一方で副作用は、少量で治療をした群のほうが少ないことが報告されています。

アリピプラゾール(エビリファイ®など)、オランザピン(ジプレキサ®など)、クエ チアピン(セロクエル®など)、パリペリドン(インヴェガ®)については、添付文書における統合失調症に対する維持用量の範囲内で、初発精神病性障害への治療効果があったと報告されています。


臨床疑問 1-4 初発精神病性障害の再発予防効果における抗精神病薬の最適な治療継続期間はどのくらいか? 

 推奨
【★★★】幻覚、妄想、興奮などの精神病症状が初めて起きたもの全般をまとめた、初発精神病性障害の再発を予防するという観点からは、抗精神病薬は少なくとも 1 年間は続けることを強く推奨します。

統合失調症を初めて発病した場合、抗精神病薬を服用したほうが服用しないよりも、再発予防効果があることがわかっています。

統合失調症を発症して2年以内に服薬をやめた場合、1年で78%、2年で98%が再発するという報告があります。

統合失調症では抗精神病薬の継続が推奨されますが、初発精神病性障害ではできるだけ長期間の服薬継続が望ましいものの、「少なくとも1年間は続けることを推奨する」とする理由は、少なくとも1年間までは再発予防効果があるという科学的な根拠があることと、初発精神病性障害は必ずしも統合失調症に移行するとは限らないからです。ただ、それ以上の期間についての信頼できる研究はありません。



再発、再燃時の治療

 臨床疑問 2-1 統合失調症の再発・再燃時、切り替えと増量のどちらが適切か? 

 推奨
【★★】まずは現在の抗精神病薬の投与量と投与期間が十分か、きちんと服薬できているかを確認することを推奨します。
【★★】服薬しなくなって症状が悪くなった場合には、まずは服薬を再開することを推奨します。その場合は、過去の薬の効き目や副作用を参考に服用する薬を決めることを推奨します。
【★】今の薬に増量の余地があり、副作用が許容できれば、切り替えよりも増量が望ましいです。

切り替える前に内服状況や過去の用量や投与スケジュール、切り替え方法が適切であったかなどを検討します。副作用を確認しながら添付文書の最大用量まで増量して、十分期間(2〜4週)観察することを海外の多くのガイドラインが推奨しています。

服薬しはじめて2週間の間に20〜25%の症状改善がなければ、その後に反応が得られる可能性は低いと言われています(約80%の確率)。

薬の効果が出現するのに4週間以上かかることもありますが8週間以上かかるという報告はありませんので、増量後2〜 4週間は様子をみて、反応がなければ8週間までに切り替えを考えます。 


臨床疑問 2-3 統合失調症の再発・再燃時に、抗精神病薬の併用治療は単剤治療と比較してより有用か? 

 推奨 
【★】抗精神病薬の併用治療を行わないことが望ましいです。

抗精神病薬の併用治療の効果は不確実で、副作用は増強する可能性があるため、単剤治療を勧めます。

抗精神病薬の併用治療の問題点としては、服薬の必要量以上の増加、急性あるいは遅発性の副作用の増加、予測不能に2種類以上の薬剤が互いに影響を及ぼしあうこと、効果あるいは副作用に関与している薬剤の特定が困難になること、処方通り服薬できないこと、死亡率の上昇、患者さんが負担する医療費の増大などが考えられます。

特定の抗精神病薬の組み合わせであっても、抗精神病薬の併用治療が単剤治療よりも有効であるという信頼性はなく、併用治療の効果は不確実で副作用が増強する可能性があります。

抗精神病薬の切り替えの中断や医師の処方習慣など消極的な理由のために、抗精神病薬が併用となっている場合もありますが、行わないことが望ましいです。

抗精神病薬の併用治療は、効果と副作用の両方の観点から、利点よりも問題点のほうが多く、統合失調症の再発・再燃時は、抗精神病薬の併用治療よりも単剤治療を行うことが望ましいです。

※急性期では併用で改善率が良かったとする報告もある(Hatta K, et al : Asian Psychiatr, 40 ; 82-87, 2019)


臨床疑問 2-4 統合失調症の再発・再燃時に有効性、副作用において、単剤治療と抗精神病薬以外の向精神薬併用とどちらが適切なのか? 

 推奨 
【★】抗精神病薬以外の向精神薬の併用は行わないことが望ましいです。

抗不安薬のうちアルプラゾラム(ソラナックス®など)を併用することは、72時間というごく短期間に限り有効なことがありますが、長期的には死亡率の上昇などの副作用や依存が心配されるため、併用しないことが望ましいです。

バルプロ酸(デパケン®など)を併用することは、3週間以内の併用に関しては精神症状の改善効果を期待できるかもしれませんが、長期的には陰性症状を悪化させ、血小板減少、肝機能障害、体重増加などの副作用の心配があることから、長期投与は行わないことが望ましいです。

リチウム(リーマス®など)、カルバマゼピン(テグレトール®など)など他の気分安定薬または抗うつ薬併用治療の有効性は明らかではないため、併用は行わないことが望ましいです。 


維持期の治療

臨床疑問 3-1 維持期統合失調症患者において、抗精神病薬の服薬中止と継続のどちらが推奨されるか? 

 推奨 
 【★★★】維持期統合失調症において、抗精神病薬の服薬継続が強く推奨されます。

統合失調症の病期は、急性期、安定化期、安定期に分類されます。おおまかに急性期は症状が活発で病状が不安定な時期、安定化期は症状が改善し病状が安定しつつある時期、安定期は症状が消失し病状が安定している時期に分けて考えられます。維持期は安定化期と安定期を合わせたものを指します。

もともと統合失調症では、一般人口に比べて10〜15 年寿命が短いと言われています。抗精神病薬の継続は、死亡率を低下させることが報告されています。

維持期の統合失調症では、抗精神病薬の服薬を継続することで、再発を予防できる可能性が高くなります。

抗精神病薬を継続した患者さんでは、中止した患者さんよりも、その後の入院回数が少ないことが報告されています。

抗精神病薬を継続することで、QOLの低下を防ぐことが報告されています。 


臨床疑問 3-2 維持期統合失調症患者の抗精神病薬治療において、再発率減少や治療継続に好ましい薬剤はどれか? 

 推奨
【★★ 】第一世代(定型)抗精神病薬よりも第二世代(非定型)抗精神病薬を選択することを推奨します。

第二世代抗精神病薬の中では、特に推奨される薬剤はありません。

 第二世代抗精神病薬は、再発予防の観点において、第一世代抗精神病薬より優れています。しかし、実はこの差はそれほど大きくはありません。具体的に数字で示しますと、それぞれの薬を服用した17人ずつで比較した場合に、第二世代抗精神病薬が1名分多く再発を防げる程度です 


臨床疑問 3-4 維持期統合失調症において、抗精神病薬の減量は有用か?

 推奨
【★ 】維持期の統合失調症における抗精神病薬の減量が有用か否かは、現時点では結論付けることはできません。減量するかどうかの判断は、個々の患者さんの精神症状を含む状態や副作用に応じて行われることが望ましいです。

抗精神病薬の減量が有用か否かについて、再発や精神症状の悪化、副作用の改善についての研究は行われていますが、その結果は一致していません。

急性期治療に必要であった抗精神病薬の用量を維持期治療においても継続すべきかどうかについては、諸外国のガイドラインなどでも推奨が異なっており、統一した見解には達していません


治療抵抗性の場合

 臨床疑問 4-1 治療抵抗性統合失調症におけるクロザピン治療は有用か?

 推奨
【★★★】治療抵抗性統合失調症においてクロザピン(クロザリル®)治療は強く推奨されます。

治療抵抗性※統合失調症とは、十分量の抗精神病薬を2種類以上規則正しく4週間以上服用しても、幻覚や妄想などの症状が続いたり、改善が見られないような統合失調症のこと。

精神症状の改善については、クロザピンは少なくとも第一世代(定型)抗精神病薬より優れていることが示されています。ただし、他の第二世代(非定型)抗精神病薬と比較すると、効果は変わらないという研究結果と、優れているという研究結果があり、一致した見解は得られていません

クロザピンは、錐体外路症状についての副作用は少ないことが示されています。

統合失調症では自殺や死亡の危険性が高いことが知られていますが、抗精神病薬を服用していると死亡率が低くなることが報告されています。クロザピンは他の抗精神病薬と比べて死亡の危険性がさらに低いことが証明されています。特に、自殺の危険性が他の抗精神病薬と比べて低いです。

他の抗精神病薬と比べて、患者さんの治療中断は少なく、再発・再入院の可能性が低いとの報告があります。

クロザピンは、無顆粒球症という重篤な副作用があります。日本における統合失調症患者さんは 70-80 万人で、そのうち、20-30%が治療抵抗性と推定されることから、治療抵抗性統合失調症患者さんは約15-25 万人と予測されています。日本には、クロザリル患者モニタリングサービス (Clozaril Patient Monitoring Service: CPMS)という血液及び血糖検査の確実な実施と適正な処方を支援する仕組みがあります 。

※反応性不良とは、2 種類以上の抗精神病薬を、十分量(例:アリピプラゾール 24mg/ 日、オランザピン15mg/日、クエチアピン400mg/日、クロルプロマジン600mg/日、パリペリドン9mg/日、ハロペリドール12mg/日、ブロナンセリン 24mg/日、フルフェナジン 12mg/日、ペロスピロン 48mg/日、リスペリドン 6mg/日に相当する。


臨床疑問 4-3 治療抵抗性統合失調症に対してクロザピンの効果が十分に得られない場合の併用療法として何を選択すべきか? 

 推奨 
【★】治療抵抗性統合失調症に対してクロザピン(クロザリル®)の効果が十分に得られない場合の併用療法として、電気けいれん療法との併用やラモトリギン(ラミクタール®)の併用が望ましいです。

クロザピンとラモトリギンの併用が精神症状の改善に有効である可能性が報告されています。しかしながら、報告全体を総合すると、その併用効果は十分ではありません。

クロザピンと気分安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、睡眠薬などの併用療法の有効性は示されていません。したがって、精神症状の改善を目的としてこれらの薬剤の併用療法は行わないことが望ましいです。クロザピン治療初期のバルプロ酸ナトリウム(デパケン®など)との併用は心筋炎を起こしやすくなるので、併用は勧められません

クロザピンと他の抗精神病薬の併用については、精神症状の弱い改善効果が示されています。しかしながら、日本ではクロザピンは単剤使用が原則と規定されているため、他の抗精神病薬の併用療法は望ましくありません


臨床疑問 4-5 治療抵抗性統合失調症に対する、クロザピンや電気けいれん療法*1 以外の有効な治療法は何か?

 推奨
【★ 】治療抵抗性統合失調症の精神症状を改善させるために、抗精神病薬とその他の気分安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などとの併用は行わないことが望ましいです。

抗精神病薬と、気分安定薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などの薬剤の併用の有効性は示されておらず、逆にこれらの薬と併用することにより、新たな副作用が生じる可能性があります。したがって、これらの薬剤の併用は行わないことが望ましいです。

クロザピンが使用できず、予後が不良と考えられる場合には、他の抗精神病薬への切り替えを考慮します。

複数の抗精神病薬を服用していたり、抗精神病薬に気分安定薬、抗てんかん薬、抗うつ 薬、抗不安薬、睡眠薬などの薬剤を併用している場合は、それらの薬剤を減らしたり中止することによって改善する可能性があります。ただし、急な薬の変更は、病状の動揺や離脱症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。


各症状に対する治療

臨床疑問 5-1 精神運動興奮状態に対し推奨される薬物療法はどれか? 

 推奨
【★★ 】統合失調症の精神運動興奮状態に対する薬物療法は、安全に治療を行うことができるような環境を準備し、治療への協力が得られるような心理的なアプローチを行って、患者さんと意思疎通をはかる努力を続け、できるかぎり経口投与による薬物治療を行うことを推奨します。

精神運動興奮状態とは、意思の発動や意欲が極度に高まった状態、あるいは抑制が弱まった状態。

経口投与では、アリピプラゾール(エビリファイ®など)、オランザピン(ジプレキサ® など)、リスペリドン(リスパダール®など)が添付文書の用量の範囲で、かつ24 時間以内の有効性が報告されているため、これらの投与が望ましい 。


臨床疑問 5-3 統合失調症の抑うつ症状に対してどのような薬物治療が有効か? 

推奨  
【★★】統合失調症の抑うつ症状は、その原因が何であるのかを見極めた上で、それぞれに応じた対応を行うことを推奨します。
【★ 】統合失調症の抑うつ症状に明らかな効果のある薬剤などは確認されていませんので他の薬剤を併用しないことが望ましい

抗精神病薬の変更を考慮する時は、ハロペリドール(セレネース®など)を服用している場合は、ハロペリドールよりも抑うつ症状を引き起こしにくい第二世代(非定型) 抗精神病薬へ変えることが望ましいです。

抑うつ症状を改善させるために抗うつ薬やリチウム(リーマス®など)などを使うことは、有効だと言い切れるだけの根拠はありません。逆にこれらの薬を併用することにより、副作用が生じたり、抗精神病薬の効き方が変わってしまったりする可能性があります。 

臨床疑問 5-4 統合失調症の認知機能障害に対して推奨される薬物治療法はあるか? 

推奨 
【★★★】統合失調症の認知機能障害を改善するためには、適切な用量の第二世代(非定型)抗精神病薬を使って、抗コリン薬やベンゾジアゼピン系の薬をなるべく一緒に使わないことを強く推奨します。

統合失調症の約半数程度の患者さんに認知機能の障害が起こることが報告されています。

統合失調症の認知機能障害に対しては、抗精神病薬のなかでも第二世代抗精神病薬が改善する効果がありますが、その程度は小さく、大きく改善するわけではありません。

抗精神病薬の量や使っている種類が多い場合は、少ない場合と比べて、認知機能が悪化しやすいため、適切な用量を使用していく必要があります。しかし、抗精神病薬を減らす場合には精神症状が悪化しないように十分に配慮する必要があります。

抗コリン薬やベンゾジアゼピン系鎮静薬は、認知機能を悪くすることから、必要以上に使わないことを推奨します。ただし、抗コリン薬やベンゾジアゼピン系の薬を急激に止めると離脱症状*4 を起こす可能性があるため、注意が必要です。

統合失調症の認知機能障害に、抗精神病薬以外に明らかに効果のある薬は確認できていません。



副作用の対応

臨床疑問 5-6 錐体外路系副作用に推奨される治療法および予防法は? 

推奨
【★★ 】錐体外路系副作用が出現した時は、原則的には一般的な副作用と同様に、原因と考えられる薬剤を減量し、副作用が重い場合は一度中止することを推奨します。ただし、原因と考えられる薬剤が、精神症状に効いていると考えられる場合には、減量により精神症状が悪化する危険性を考えながら、対処する必要があります。

薬剤性パーキンソン症状
【症状】 パーキンソン病に類似した、筋肉を動かしにくくなる、飲み込みが悪くなる、姿勢の調節が難しくなるなどといった副作用です。
【治療】錐体外路症状を生じやすい、第一世代(定型)抗精神病薬を使っていてパーキンソン症状が出現した場合は、第二世代(非定型)抗精神病薬への変更を推奨し、それでもパーキンソン症状が問題になる場合には、オランザピン(ジプレキサ®など)、クエチアピン (セロクエル®など)、またはクロザピン(クロザリル®)への変更が望ましく、さらに精神症状を慎重に評価し、減量が可能と判断された場合は抗精神病薬の減量を推奨します。
このような方法が行えない場合には、抗コリン薬や、パーキンソン病治療薬であるアマンタジン(シンメトレル®など)の併用が望ましいです。
【予防】 第一世代抗精神病薬よりも第二世代抗精神病薬を選択することを推奨し、第二世代抗精神病薬の中での選択としては、オランザピン、クエチアピン、またはクロザピンの中から 1 剤を選ぶことが望ましいです。

急性ジストニア 
【症状】 投与3日以内に生じることが多い、筋肉が勝手に収縮し眼球が上転したり、首や胴体がねじれるようになる副作用です。
【治療】 対症療法としては抗コリン薬、抗ヒスタミン薬(プロメタジン:ピレチア®など)の内服、緊急時は抗コリン薬の筋注が望ましいです。 高力価の第一世代抗精神病薬の投与によって急性ジストニアを生じた場合は、アリピプラゾール(エビリファイ®など)、オランザピン、クエチアピンへの変更が望ましいです。 抗精神病薬の減量も選択肢の一つとして望ましいです。
【予防】  第一世代抗精神病薬よりも第二世代抗精神病薬を選択することを推奨します。第一世代抗精神病薬を用いる場合には抗コリン薬が予防に有効であり、治療開始後数週間までの一時的な使用が望ましいです。

アカシジア 
【症状】 下肢のそわそわした動き、足踏み、じっと座っていられないなどの身体の落ち着きのなさが出現する副作用です。
【治療】 強い不安感、焦りの気持ち、死にたくなる気持ちや行動、他者に危害を加えてしまいそうになる時など緊急性が高い場合には、薬物療法、精神療法、環境調整などを積極的に行うことを推奨します。 アカシジア症状が軽い場合は、主治医と十分に話し合った上で、内服している抗精神病薬を減量することを推奨します。 高力価、高用量の第一世代抗精神病薬が処方されている場合は、第二世代抗精神病薬への変更を推奨します。 第二世代抗精神病薬への変更ができない理由がある場合は、中力価または低力価の第一世代抗精神病薬を使用することが望ましいです。 抗コリン薬などの他の薬については効果があるという十分な証拠がないので、他の薬は併用しないことが望ましいです。
【予防】 高力価、高用量の第一世代抗精神病薬を避け、第二世代抗精神病薬を選択することを推奨します。何らかの理由で第二世代抗精神病薬が選択できないとき時は、中力価または低力価の第一世代抗精神病薬を使用することが望ましいです。第二世代抗精神病薬の中で は、特定の薬剤を推奨することはなしとします。

遅発性ジスキネジア 
【症状】 抗精神病薬を服用してから数か月して生じる、首、顔面、口の周囲などに出現するさまざまな不随意運動(口すぼめ、舌の動き、唇の動き)や、腕、足などの不規則な動きのことです。
【治療】 遅発性ジスキネジアが発症した後に、オランザピン、クエチアピン、クロザピンへの切り替えによって軽減する可能性があるため、これらの薬への切り替えが望ましいです。 抗コリン薬を併用している場合は減量が望ましいです。
【予防】 第一世代抗精神病薬よりも第二世代抗精神病薬を選択することを推奨します。 

臨床疑問 5-8 抗精神病薬による体重増加に対して推奨される治療法はあるか? 

 推奨
【★★ 】抗精神病薬により体重増加が出現し、薬を変更・中止する場合には、精神症状が悪化してしまう危険性について十分に配慮していくことを推奨します。
 【★ 】オランザピン(ジプレキサ®など)により体重増加が出現した場合には、アリピプラゾール(エビリファイ®など)、ペルフェナジン(ピーゼットシー®など)、リスペリドン(リスパダール®など)に変更することで、体重増加が抑えられます。ただし、オランザピンが精神症状に対して効果がある場合には、変更することによって精神症状が悪化する可能性について十分に配慮することが望ましいです。

体重増加は、抗精神病薬、特に第二世代(非定型)抗精神病薬により出現しやすい副作用の一つです。糖尿病や心臓疾患を引き起こし、寿命が短くなってしまう可能性があることから、適切に対応していく必要があります。ただし、抗精神病薬の副作用だけが原因ではなく、食事を食べ過ぎてしまうことや運動不足なども原因になるので注意しましょう。

統合失調症の薬物療法においては服薬の変更や中止は精神症状の悪化を引き起こす可能性があるため、精神症状が悪化しないよう十分に配慮した上で、体重増加の原因と考えられる薬剤を変更することが望ましいです。

オランザピンからクエチアピン(セロクエル®など)の変更は、体重を減少させる効果はないため、推奨できません。また、オランザピンを減量しても体重は減少しませんので推奨できません。

他の種類の薬を一緒に使用することで抗精神病薬による体重増加を抑える効果があるかどうかが調べられていますが、現在のところ推奨できる薬はありません。

引用元:日本神経精神薬理学会 『統合失調症薬物治療ガイド―患者さん・ご家族・支援者のために―』 2018年2月27日 公開
 2019年8月29日

関連記事